03.夫の複雑な心境
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「ふぅ。怒涛の放課後だったわ」
終礼を終えた後はバージルの生徒指導で大変だった。
まず、バージルを見つけ出すのに骨が折れたのだ。
人目に付かない木の上で昼寝をしていたようで、それに気づかず学園中を歩き回ってしまった。
幸いにもジルが空を飛んで探してくれたから見つかったけれど、あのままだったら夜になっても見つけられなかったと思うわ。
やっとのことで見つけると、新たな問題が起こる。
バージルの話を聞こうとしたのだけれど、彼がだんまりを決め込んでしまい、何も聞けなかったのだ。
そこに運悪く、バージルのサボりを耳にしたグーディメル先生がカンカンに怒った状態で登場してしまい、長時間のお説教に付き添うことになる。
初代国王グウェナエルの生まれ変わりであるグーディメル先生は、自分の末裔が授業をサボっていたのが大層許せなかったそうで。
怒りに震え、声が裏返るのもお構いなしで、王族としての自覚について説いていた。
バージルはグーディメル先生が初代国王の生まれ変わりだと知らないようで、上の空で話を聞き流していたのだけれど、
「……父親と同じ轍を踏んではならないぞ」
グーディメル先生がそう釘を刺すと、苦虫を噛み締めたような表情になった。
「罪人と同じ顔をしていて悪かったな。俺だって好きでこんな顔しているわけじゃないんだよ」
低い声でそう呟くと、グーディメル先生が制止するのを無視して立ち去ってしまった。
ゲームでもそうだったけど、バージルは父親である先代の国王の影に苦しめられている。
容姿が似ているためか、バージルもまた暴君のような振る舞いをするのではないかと、疑われてしまっているのだ。
その結果、他の生徒たちから白い目で見られていた。
無遠慮な視線と心ない言葉に傷ついたバージルは日に日にささくれ立ってしまい――今に至る。
あらぬ疑いをかけられるのは辛いことよね。
初めは王族らしい丁寧な言葉遣いをしていたバージルだったのに、気付けば今のような荒い口調で話すようになっている。
彼の不安や悲しみを取り除きたいのに、どうも上手くいかない。
やはり、ヒロインのエリシャでしかバージルを救えないのかしら?
「……はぁ。無力だと思い知らされるわね」
準備室で日誌を書いていると、先程までの記憶が鮮明によみがえってしまい、思わず溜息をついてしまう。
ポツリと呟けば不意に、頭に柔らかな熱を感じた。
顔を上げれば、ノエルがこちらをじいっと見ている。
どうやら頭にキスをされたようで、気付いた途端に頬が熱くなる。
この元・黒幕(予備軍)は何故か、急に甘え始めるから困る。
「深刻な顔をしているね。バージル殿下と何かあったのかい?」
「ええ……まぁ、ちょっとね。その様子だと、ジルから聞いたようね」
「ああ。今日もまた随分と振り回されたようだね」
ノエルの手が頬に触れ、ゆっくりと撫でる。
まるでガラス細工に触れるかのように優しくて、少しばかり、いや、大いに胸がこそばゆい。
「――このところ、レティはバージル殿下の事ばかり考えているように思うんだ。そんなレティを見ていると寂しさが募るよ。だからどうか、余所見ばかりしないでくれ」
「ノエル……」
ノエルの目は切なげで寂しそうで、まるで捨てられた子犬のような顔をしている。
きっと、私が毎日バージルの事で悩んでいるのを見てきたから、心配になってしまったのね。
ずっと一緒に居るのに、不安な思いをさせたのに気づけていなかったのが悔やまれるわ。
ノエルはもっと一緒に話したかったのに、私がバージルの事を解決したくて資料を読み漁っていたから、気を遣って黙っていたのだろう。
そんなノエルを想像すると、いじらしくて涙が出そうになる。
ノエルはいつも私を優先してくれるから、そのために本心を隠してしまわないように気を付けなければならないわね。
……よし、いい作戦を思いついたわ。
その名も、【一緒に居る時は一緒に☆スマイル作戦】!
ノエルと一緒に居る時は二人の時間を楽しむべきよね。
これまでの癖でつい、家に帰っても仕事をしてしまっていたわ。
「ノエル、私を気遣って見守ってくれていたのね。ありがとう。寂しい思いをさせてごめんなさい」
「いや、レティが生徒たちの為に一生懸命になっているのに我儘を言って済まない」
「我儘ではないわ。二人で一緒に居られる時間は限られているのだから、一緒に居る時間を大切にしたいと私も思っているもの」
そう言うと、ノエルは何も言わずに私を抱きしめた。
無言でも彼の喜びが伝わってきて、私も嬉しくなってしまう。
ノエルはずっと、こうやって過ごすのを望んでくれていたのだから。
「同担同士、もっとアロイスについて語りましょう!」
「え?」
ノエルは気の抜けた声を上げた。
「どうしてアロイスの名前が出てくる?」
「だって、私がアロイスを推しているのにバージル殿下のことばかり考えているように見えて寂しくなったのでしょう?」
ノエルの気持ちはわかるわ。
私も、友人が推し変した時は寂しくなってしまったのだから。
うんうん、と頷いていると、ノエルは力なく寄り掛かってくる。
肩にノエルの頭が乗っているのが重いのだけど、しっかりと拘束されているから全く動けない。
「どうしてそう解釈するのだろうか……」
ノエルはそう言って、小さく溜息をついた。




