06.意見交換会(1)
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ゼスラから相談を受けた一週間後のこと。
私とゼスラとジュリアンは、魔法薬学準備室にやって来たエリシャとリアを出迎える。
「二人とも、いらっしゃい。お茶を淹れるから、好きな椅子に座ってちょうだい」
と、言っても、先に来ていたゼスラとジュリアンがすでに自分たちの席をとっていたので、エリシャとリアの座る場所は、ほぼ決まっていたようなものだ。
エリシャとリアは私の言葉に頷いて、空いている席に腰かける。
ちょうど、ゼスラやジュリアンと向い合せになる場所だ。
リアは楽しそうに部屋の中を見渡す。
「てっきり、部室で開かれるものだと思っていたから、魔法薬学準備室に集合と聞いて驚いたわ。だけど、この部屋が好きだから嬉しい」
「我が青春研究会は立ち上げたばかりで部室が無いため、ファビウス先生がご厚意でこの場所を貸してくださった。弱小部にも手を差し伸べてくださった先生には、感謝してもしきれない……!」
ゼスラが、感謝と尊敬のこもった眼差しで見つめてくる。
純粋な敬意が眩しい。
便乗させてもらっているから、そんなにも感謝されるようなことはしていないのに。
それから、みんなで少し雑談をした後で、本題に入る。
ゼスラは十冊ほどの本を魔法で取り出し、机の上に並べた。
どれも、ゼスラとジュリアンが一日でかき集め、厳選した本ばかりだ。
エリシャとリアは、事前にこれらの本を読んでもらってきた。
本は、大きく二種類の物語に分かれる。
一つ目は、種族を超えた愛についての物語だ。
ヒロインとヒーローが結ばれる話もあれば、お互いがそれぞれの世界で生きるといった悲恋の話もある。
こちらは、リアの想いを知るために用意したものだ。
二つ目は、王子に見初められた貴族令嬢の物語。
こちらも、ヒロインとヒーローが結ばれる話と、悲恋を用意してもらった。
また、エリシャの想いを知るために、なるべくエリシャの境遇に近いヒロインが登場する話を厳選してもらった。
「まずは、こちらの物語について、意見を聞きたい」
ゼスラは、種族を超えた愛についての物語が書かれた本たちを指差す。
「異種族――たとえば、獣人や妖精を愛することは、小説だから成立する感情であって、非現実的なのだろうか?」
「そんなことは、無いわ。種族に惚れるということはないもの。恋をする時は、相手の人柄に惚れるということだと思うの」
最初に答えたのは、リアだった。
「そうですね。誰かを好きになる時に、種族はあまり関係ないですね。……恋した後に、種族を知る事だって、ありますから……」
リアに続いて答えたエリシャは、言い終わると、切なそうな表情を浮かべた。
(そ、そういえば……エリシャは犬妖精のミカに失恋したのだったわ……!)
迂闊だった。エリシャの失恋の傷が疼いていないか心配だ。
私は立ち上がって、戸棚に隠していたとっておきのおやつ――チョコがけフィナンシェを取り出して、みんなに振舞う。
「み、みんな、話し合いをする時は甘い物があると、上手く話が進むそうよ。ぜひ食べてね」
と、いうのは建前だ。
エリシャには、甘い物を食べて、少しでも幸せな気持ちを感じてほしい。
幸にも、エリシャは嬉しそうにお菓子を食べていたので、ホッとした。
「二人とも、種族はそれほど気にしないのだな。……それでは、もしも一緒にいるためには相手の国で暮らさなければならない時は、どうする?」
ゼスラはエリシャとリアに問いかけながらも、リアを見つめる。
その視線を受けて、リアは答えようと、口を開く。
私は思わず、固唾を呑んだ。
リアの回答次第で、イセニックの恋の運命が変わる。
「私は……」
言いかけたところで口を噤み、少し躊躇う素振りを見せたが、リアはまた言葉を続ける。
「家族と離れるのは寂しいけれど、それでも好きになった人と一緒に居たいから、相手の国へ一緒に行きます」
「ほ、本当か……! ――コホン、エリシャ殿は、どう思う?」
イセニックの恋に可能性を見出して、嬉しかったのだろう。
ゼスラは拳を握って喜んだが、慌てて表情を取り繕って、エリシャに話を振る。
「私は、この国に大切な人がたくさんいるので、きっと恋を諦めるでしょう。両親や、家が没落した時に私を育ててくれた、第二の家族のような人たちもいますから……大切な人たちと、できる限り一緒に居たいのです」
答えたエリシャは、眉尻を下げる。
「とはいえ、恋を諦めた後に、ずっと後悔してしまうかもしれません」
恋した人も、家族も、エリシャにとっては大切な存在だから、どちらかと会えなくなることが、想像するだけでも辛くなるのだろう。
「……なるほど、恋をするのに種族は関係ないが、住む国や世界を移すことに関しては、二者それぞれ、答えが異なったな。今後の研究の参考にさせてもらう」
ゼスラは上機嫌で微笑むと、指先を動かし、今度は別の本たちを指し示す。
「さて、次の物語について、話を聞かせてもらおう」
ついに、エリシャの気持ちを知る時だ。
私は、手に汗を握って、成り行きを見守った。




