04.生徒からの相談
オリア魔法学園に到着し、朝礼を終えた私は、エリシャとバージルに視線を走らせる。
ちょうど、バージルが立ち上がって、エリシャに歩み寄るところだった。
「エリシャ、今日の放課後は、一緒に箒で飛ぶ練習をしよう。前に、旋回が苦手だと言っていただろう? 克服できるよう、飛び方を見てやるよ」
「えっ、いいのですか?」
「俺が魔法競技大会で箒競争に出るから、その練習のついでだ」
「ありがとうございます……!」
「べ、別に礼を言われるほどのことじゃねーよ」
今日の放課後の練習の約束を取り付けられて、バージルは嬉しそうだ。
パッと見はツンとした表情だけど、よく見ると口元がニヨニヨとしており、喜びが滲み出ているところが可愛らしい。
魔法競技大会が近づいているため、生徒たちは放課後になると、魔法の練習をしている。
魔法競技大会とは、クラス対抗戦で生徒たちが魔法の技術を競い合う行事で、前世で言う体育大会のようなものだ。
ただ、魔法を使う大会のため、体育大会とは違って会場の準備が大掛かりなものになる。
開催場所は学園内にある競技場で、教師陣が当日に向けて会場作りをしているのだ。
開催当日になると、競技場には魔法で大きな滝が作られたり、魔術で作られた移動地点が配置されたり、と魔法世界ならではの仕掛けが満載のテーマパークみたいになる。
そのような中で、生徒たちは各競技で優勝を目指して競い合うのだ。
(ゲームでは、二年生の魔法競技大会のときに、どの攻略対象のルートに入るかによって、見れるスチルが違っていたわね)
箒の扱いが得意なバージルのスチルは、箒競争で優勝した瞬間にエリシャに見せた笑顔だった。
(この世界でも、バージルは箒競争に参加しそうね)
エリシャに教えるほどなのだから、この世界でもバージルは箒の扱いが得意なのだろう。たしかに、前期では体育の成績が抜きんでて良かった。
オリア魔法学園の体育では箒の扱いを学び、希望する者は選択授業の体育で剣術を学ぶことができる。
その剣術の授業でもバージルは成績が良いため、体育教師のフォートレル先生が、卒業後に騎士団に入ってほしいと零していた。
(魔法競技大会は、バージルが存分に活躍できるイベントだから、告白するにはちょうどいいかもしれないわね!)
問題は、どのようにしてバージルの恋を応援するかだ。
まずはバージルに現状を聞いてみたいのだけれど……私に話してくれることはなさそうだ。
(それに、自分の恋愛について担任の先生から踏み込んだ話をされるのは、嫌よね……)
デリケートな話題であるうえに、思春期の子どもの心にズカズカと入り込むべきではない。
(ノエルにだったら、前もアドバイスを貰っていたようだし……それとなく二人が成す機会を作ったら、相談してくれるかしら?)
悩んでいると、生徒たちが立ち上がり、教室から出ていく。
一限目は魔獣学の授業で、今日は獣舎で授業をするから、移動しているのだ。
見送っていると、ゼスラがこちらに向かってやって来た。
珍しく、イセニックが隣におらず、一人だ。
しかし、少し離れた出入り口に立つイセニックが、もの言いたげな顔でゼスラを凝視している。
恐らく、ゼスラから、先に移動するよう言われているのだろう。
「ファビウス先生、授業前に話しかけて申し訳ないのだが、少し時間を貰えるだろうか?」
「ええ、どうしたの?」
ゼスラは思いつめた顔をしている。
もしかすると、王子ならではな大きな悩みを抱えているのかもしれない。
私が力になれるか不安だが、できる限り力になりたい。
「実は、――青春研究会の会長として、とある人物の恋を応援したいのだ。今日の放課後、エルヴェシウス先生と一緒に、魔法薬学準備室へ相談しに行ってもいいだろうか?」
「……はい?」
私は拍子抜けした声を上げてしまった。
国家規模の悩みかと思えば、意外と学園規模の悩みだった。
「ああ、青春研究会は、最近立ち上げたばかりの部活で、部員は私とイセニックの二人だけだ。顧問はエルヴェシウス先生で、週に二度、エルヴェシウス先生も含めて三人で青春について議論している」
ちなみに、ゼスラ曰く、ゼスラとジュリアンの議論が白熱し過ぎて、イセニックはその中に加われないでいるようだ。
おそらくイセニックは、ゼスラの護衛だから入部したのであって、あまり興味が無いのかもしれない。
そう思ったのだが、ゼスラのためにもイセニックのためにも、そのことを伝えるわけにはいかず、私は言葉を呑みこんだ。
「ええ、私でよければ、話しを聞かせてちょうだい」
「感謝する! それでは、放課後によろしく頼む」
ゼスラは先ほどまでの思いつめた表情から一転して、明るい表情になった。
踵を返して教室を出ていくゼスラを、私は笑顔で見送る。
「ふふっ、誰かの恋を応援してあげたいだなんて、ゼスラは本当に優しいわね」
とはいえ、自身には恋のこの字もなさそうな様子だ。
浮いた話を聞いたことも無い。
「恋に恋する、拗らせた攻略対象になったりは、しないわよね……?」
私はちょっと、心配してしまうのだった。
電子書籍版の黒幕さん完全版2の予約がスタートしたのでお知らせです!
=書籍情報=
ASIN : B0GFSJHL17
レーベル:ミーティアノベルス
配信日:2月5日(木)
今回もヨシヲサヤ先生に、とっても素晴らしい表紙イラストを描いていただきましたので、ぜひご覧いただけますと嬉しいです!!
また、特別書き下ろし短編を収録いただいておりますので、後ほど活動報告に情報を掲載しますね!




