閑話:見覚えのある人(※ノエル視点)
王宮へ行った翌日、私は仕事終わりに、ユーゴと一緒にランバート博士の家に立ち寄った。
星の力を持つ者について、ランバート博士にいろいろと聞きたかったのだ。
(昨日のレイナルドの様子が、どうも気になってしまうからな……)
レイナルドは星の力を持つ者たちが暮らすための国の建国に強く執着している。
それに、レイナルドほどではなかったが、かつてローランも望んでいたから、歴代の星の力を持つ者たちも同じであるのかも知りたい。
(もしもレイナルドが暴走してしまったら、私が食い止めるためにも策を練っておかなければならないしな)
星の力を持つ者と対抗した事がないから、どのような戦いになるのかわからない。
以前、ローランがレティに悪夢を見せた時のように、離れた場所から夢や精神に干渉してくるのであれば、厄介だ。
「星の力を持つ者が月の力を持つ者と対立した記録はあるだろうか?」
「今のところ読んでいないね。ユーゴがファビウス侯爵と会った時に言っていたように、星の力が忠誠を誓うよう働きかけて、止めているのかもしれない」
「それでは、もしも私の意に反することをしようとしている星の力を持つ者が現れたとしても、こちらが止めるように言えば、素直に止めるということですか?」
「断言はできないが、そうなるだろうね。ただ、ユーゴがマルロー公を害そうとした時のように、すぐには止められないかもしれない」
「……なるほど」
当時のことを思い出していると、隣でユーゴが「すみませんでした……」としおらしい声音で謝ってきた。見ると、バツが悪そうな顔をしている。
「ユーゴ、あの時になにか、君の心にに働きかけてくるような感覚はあったか?」
「そうですね……後ろめたさはありました。だけど、それが自分の気持であったのか、星の力によるものだったのかは、わかりません。ただ、ノエルさんが僕に呼びかけた時、星の力が少し弱まった気がします」
とはいえ、呼びかけられたから集中力が途切れたとも言えるような感覚だったらしい。
確信は持てないが、もしもレイナルドが暴走した時は、呼びかければ止められるのかもしれない。
ユーゴの話を聞いて、ランバート博士が、「なるほどね」と相槌を打つ。
「月の力を持つ者の意に反することは、できないようになっているのかもしれないね」
「そうですね。少し、安心しましたが……複雑な気持ちです」
「どうしてだい?」
「根本的な解決には至らないからです」
私は、レイナルドの名前を伏せて、彼の望みをランバート博士に伝えた。
「国とまではいきませんが、私の領地のどこかに、彼らが永住する場所をつくろうとしています。ただ、領民たちとの対立が無いように考慮したり、住みやすい環境の場所を探そうとすると、あまりいい場所がないので、行き詰まっています」
「ふむ……。たしかに、人が住みやすい場所というのは、すでに住んでいる人がいるものだから難しい問題だね」
未開の地を拓いて彼らの為の街を作ることを考えているが、それ以前に、彼らが移住することをどのようにアロイスに説明すべきか悩みどころだ。
仮にアロイスは事情を聞いて了承してくれたとしても、他の貴族たちはどう思うだろうか。
密かに軍事力を強化して王位を狙っているのではと、邪推される可能性もある。
「一人で全て背負わず、星の力を持つ者たちと手を取り合って見るのはどうだい? 自分たちの手で作っていくことを、喜んでくれるかもしれないよ?」
「変に期待をさせて、もしもできなかった時に失望させたくないのです。彼らが熱望している事なら、なおさら……」
「アンタは優しい人だね。だけど、言わなければ伝わらないこともあるよ」
「……考えてみます」
私はランバート博士とユーゴに礼と別れの挨拶を言って、扉を開く。。
外に出ると、見慣れた人物を見つけた。
「……ペルグラン公?」
ペルグラン公が、こちらに気づくことなく目の前を通り過ぎていった。
黒い外套を身に纏って貴族らしい服装を隠しているが、顔は隠していないのですぐに分かった。
「知り合いかい?」
私の視線の先を見たランバート博士に尋ねられる。
「ええ、彼は公爵家の当主です」
「そうかい。それにしても、どこかで見たことがあるような……」
「ペルグラン公を?」
「ああ、でも、どこで見たのか……」
メアリさんは腕を組むと、小さな声で唸る。
記憶を手繰り寄せているようだ。
少しして、「ああ、思い出した」と声を零す。
「オリヘンの墓地の近くで、何度か見かけていたよ。あんなにも綺麗な人は、一度見たら忘れないからね」
「ペルグラン公が、オリヘンにある墓地に……?」
「誰か、知り合いがいたのかもしれないね」
「……」
ランバート博士が見間違えることはないだろう。ペルグラン公の容姿はいかにも貴族らしく、特に彼の髪と瞳の色を持つ者は、そういないはずだ。
しかし、ペルグラン公があの辺りを治める領主と親交があるといった噂を聞いたことがない。
「いったい、なんのために……?」
まさか、邪神がいると言われている遺跡を訪ねるために、墓地の近くを通っていたのではないか。
そのような嫌な予感が脳裏に過る。
また今度会った時に、探りを入れてみようか。
私はペルグラン公の後姿を見つめた。
お読みいただきありがとうございます。
十六章は本話にて完結です!
次章もよろしくお願いいたします。
また、新作短編を投稿しましたのでよろしければお楽しみくださいませ。
『不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら』
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