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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十六章 黒幕さんが、続編の黒幕を探っています
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08.国王陛下(推し)からの報告

 王宮に到着した私とノエルは、私たちを待ってくれていた宰相――セザールの父親であるクララック伯爵の案内で、会議室へと向かう。


 重厚な扉が開いた先には、テーブルが縦断し、艶やかな天鵞絨張りの椅子が並んでいる。


 私はその奥にある、装飾が一際美しい椅子を見つめた。


(アロイスは会議の時、いつもあの席に座っているのね! 今から実際にアロイスがあの椅子に座っている様子を見れるから嬉しいわ!)

 

 推しが活躍する姿を想像すると、ついだらしなく頬が緩んでしまいそうになる。

 この顔をクララック伯爵に見られたら不審者に認定されてしまいそうなので、慌てて引き締めた。


「ペルグラン公がいらっしゃったら全員揃いますので、そのころ合いに陛下を呼びますね」


 クララック伯爵がにこりと微笑んで教えてくれる。今回招集されたのは、私とノエルに理事長だけらしい。


 理事長に呼ばれたのは、彼がマルロー公と同じ、この国で二つしかない公爵位を持つ貴族であり、ノックス王国内で王家の次に影響力のある貴族家だからだ。


 マルロー公が起こした今回の事件は社交界で大きな波紋を呼ぶから、その影響を考慮して速やかに情報を共有したのだろう。


 ちなみに、私とノエルが少し早めに着いたので、理事長が遅刻しているわけではない。


 ノエルとクララック伯爵と三人で当たり障りのない話で歓談していると、二十後くらいに理事長が到着した。


(理事長は、セルラノ先生と、どんな話をしていたのかしら?) 


 サミュエルさんに関する事だろうか、それとも、生徒全員に関する事なのだろうか。

 気になるから、話し合いが終わった時に、サミュエルさんの怪我のことについて話す際に聞いてみよう。


「ペルグラン公、先ほどぶりですね。改めて、本日はよろしくお願いします」


 ノエルが理事長に話しかけると、理事長は目元を綻ばせ、口元をふっと緩ませて、柔らかく微笑んだ。

 前から気になっているのだけれど、理事長はノエルと会う度に優しい表情を浮かべているような気がする。


(もしかして、理事長もノエルに魅了されて……いや、そんな雰囲気ではないか)


 ゲームの中ではエリシャにしか心を開かなかったし、この世界でも微笑むことが稀な人だから、つい微笑みの理由を探ってしまう。


 ノエルに聞いてみたところ、特に親しくしていたというわけでもないらしく、理事長に就任してからよく顔を合わせるようになったと言っていたのだ。

 となると、やはり理事長がノエルに好感を抱いているからこその反応なのだと思う。

 

(もしかして、黒幕同士だからシンパシーを感じるのかしら……?)


 気になるのだけど、理事長に理由を直接聞く勇気がない。


 全員が席につくと、クララック伯爵がアロイスを呼んできてくれた。


 アロイスは会議室に入ると、こちらを見て微かに微笑んだ。たぶん、私を見た。もしかしたら、隣にいるノエルを見たかもしれないけれど。


(推しが今日も輝いている……)


 アロイスはシャツに白いジャケットとスラックスを合わせており、青色のマントをつけていてカッコいい。眼福だ。


「遅い時間に集まってくれたこと、感謝する」


 席についたアロイスを確認したクララック伯爵が、魔法で資料を配ってくれる。


 資料はとてもぶ厚かった。マルロー公が犯してきた罪とその証拠が事細かに書かれているのだ。


「マルロー公爵家の屋敷を捜査し、通常の帳簿とは別で作られた帳簿や取り交わした手紙に契約書を見つけた。そこには、マルロー公が関わった裏取引に関わる内容が記されていたから、彼が関わった全ての犯行を洗い出せた」


 アロイスは机の上で両手を組む。その手に力が入っていた。


「マルロー公が恐喝・誘拐・殺人・横領・王宮への不法侵入・違法魔術の研究に関わっていた証拠が揃ったことによって、マルロー公を斬首刑に処することが決まった。このことは明日には公表され、来週になったら刑が執行される。マルロー公爵家の財産は没収し、領地と爵位は王家に返上。取り上げた財産は今回の被害に遭った者たちへの救済にあてる。また、領地は復興したブロンデル侯爵に任せるつもりだ」


 想定していた通りの内容だ。これで、ようやくマルロー公が罰せられると思うと、ホッとした。


 一方で、アロイスは浮かない表情を浮かべている。


「これだけ多くの罪を犯してきたのに今まで一つも白日のもとにさらされなかったのは、前国王が隠蔽していたからだということが分かった。改めて前国王から押収した資料を調べたところ、マルロー公にいろいろと便宜を図っていた。今回の事を含め、民たちに申し訳なく思う。私が早くに気づいて手を打っていたら、失われなかった命があり、被害に遭わなかった者もいただろうに……」


 大人でさえ明かすことが難しかった罪なのに、子どものアロイスが気づくのはなおさら難しかっただろう。それなのに、アロイスは責任を感じているだ。


 俯くアロイスに、理事長が静かな声で呼びかけた。


「これから、民に誠意を見せていけばいいのです。微力ながら陛下の御力になりますので、いつでもご相談ください」


 理事長がアロイスの力になろうとしているのは、本当なのだろうか。

 なんせ、ゲームの中の理事長は王族に恨みを抱いているし、王族を途絶えさせようとして暗躍していたのだ。


(ゲームの中の理事長と違って、サミュエルさんを引き取ったことで、心境が変わって本当にアロイスを助けてくれるといいのだけれど……)


 なんせ、今のアロイスは父親である前国王の尻ぬぐいに追われているのだ。少しでも、彼の助けになりたいし、彼を助けてくれる人が増えてくれたらと思う。


 それから私たちは、マルロー公の被害に遭った人たちの今後の救済措置についての話を聞いて、話しを終えた。

 アロイスは席を立つと、クララック伯爵と一緒に退室する。


 推しの凛々しい後姿を眺めていたかったけれど、理事長も立ち上がったから、私は慌てて彼を呼び止めた。


「理事長――いえ、ペルグラン公。サミュエルさんのことでお話したいのですが、お時間いただけますか?」

自分の体調といい感じで付き合っていけるようになりましたので、毎週末更新に戻していきます。

応援いただき、また温かなメッセージを書いてくださって、誠にありがとうございました(* ᴗ ᴗ)⁾⁾

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