07.探り合い(※レイナルド視点)
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主がファビウス先生と共に部屋を出てしまった。主の背を名残惜しく眺めていると、理事長がコホンと空咳をする。
「セルラノ先生は随分と、ファビウス侯爵を敬愛しているようですね」
理事長の表情にはなんの感情もなく、声音も淡々としている。
いつもそうだが、理事長の感情が読めない。
私は、星の力を持つ者たちとの交流を通して、ある程度は相手の本当の気持ちを把握できるようになっているはずなのに、全く分からないのだ。
星の力を持つ者たちは、己の感情を隠すことに長けているから、彼らよりも感情が読めない者がいるのは意外だ。
「ええ、初めてお会いした時から、あの方の持つ魔力に惹かれたのです。私は治療の際に患者の魔力に触れることがあるので、魔力の違いがよくわかりますから、他の者と違う魔力を持ったファビウス侯爵が気になってならないのですよ」
それらしい嘘をついておけば、この話は終わるだろうと思っていた。
しかし、理事長は話を続けた。
「――実は、現国王の戴冠式で、王笏が盗まれたのです。秘密にされていることですが、それは国王に相応しい者が触れると、光ると言われているものでした」
王笏が盗まれたことや、その王笏が持つ性質については、密かに情報を集めていたから把握している。
これらの情報は、そう簡単に民が知り得るものではない。
それを私に話す彼の意図は何なのだろうか。
「その王笏は、ファビウス侯爵が触れた時にだけ、光ったのです。だから、ファビウス侯爵は本来、王座を手にするはずの方なのですよ。それが、先代の国王に阻まれたのです」
我が主はノックス王国の国王が持つはずの月の力を持っているのだから、王笏が選ぶのは当然のことだ。
だが、私は知らないふりに徹するしかない。異国から来た、貴族でもない人間が、知っているはずのない情報なのだから。
「そのような事があったのですか。ということは、その王笏は現国王陛下が触れても光らなかったのですね?」
「ええ、王笏はファビウス侯爵を王に選んだのです。だから私は、彼を王にすべきだと思っているのですよ。――ですから、私と一緒に手を組んで、ファビウス侯爵をこの国の王にしませんか?」
「……!」
最後の言葉に、自分の耳を疑った。
脈絡なく話すような内容ではない。もしかすると、先ほどまでの会話の内容を聞かれていたのだろうか。
(しかし、私が話し始めてすぐに主の魔法を感じ取ったから、防音魔法を施していた筈だ。それでは、なぜこのような話を私に……?)
間違いなくただの雑談ではないだろうが、本当に主を国王にする同志を集めているのか、それとも別の思惑――今の国王を玉座から引きずり下ろす者を炙り出そうとしているのか、図りかねる。
理事長は今の国王の叔父だから、後者の可能性が高いだろう。
「……ファビウス侯爵をこの国の王にするだなんて、国家反逆罪を疑われるようなことを、どうして仰るのですか?」
「大切な人が守ろうとしたあの子には、幸せになってほしいのですよ」
理事長は一瞬だけ、瞳に寂しそうな色を滲ませた。
まるで、もう会えない誰かに想いを馳せているような、そんな表情を浮かべていた。
「大切な人……ですか。もしかして、身内の方でしょうか?」
「いえ、それでも家族以上に大切な方です。幼少の時分に、とても世話になりましてね」
恩返しにしては、あまりにも壮大な計画だ。
理事長が実は前ペルグラン侯爵夫妻の実子ではないということは把握していたが、それ以前の彼を知らない。そもそも、情報がないのだ。
「私が急にこのような話をしても、不審に思うばかりでしょう。しかし、各地を転々としており、自分と同じように行く当てのない魔術師を束ねているあなたであれば、自分よりさらに強い魔力を持つファビウス侯爵のもとで自身の特異さによる迫害を受けずに過ごしたいと思うのではないかと直感して、話したのですよ」
「……」
私は驚きを隠すために、頬に力を入れた。
星の力を持たない理事長がなぜ、私の秘密を知っているのだろうか。
(まさか、メルヴェイユ国王と繋がっているのか? だからノックス王国を揺るがすために主を国王にしようとしている……?)
メルヴェイユ国王は強い力を得ることに固執した結果、主とローラン・ダルシアクを通して星の力を持つ者の存在に辿り着いた。
しかし、並大抵の人間では星の力の存在を知り得ないだろう。なぜなら、星の力を持つ者たちは総じて警戒心が強いため、自身の秘密を明かさないのだから。
「いったい何を仰っているのか……たしかに私は異国を転々としておりますが、それは治癒師として経験を積むためです。様々な魔術師と交流しているのも、同じ理由ですよ」
「……隠さなくてもいいのですよ。雇っている人間については全て調査していてね、特にあなたは異国の人間ですので念入りに調べました。あなたがメルヴェイユ王国の国王と繋がっていることも、把握しています」
鎌をかけられているのだろうか、それとも、本当に調べ上げているのだろうか。
いずれにせよ、この者が私の同志であるのかわからない以上、下手に返事をしない方が良い。
「あはは、面白い冗談をありがとうございました。さて、本題について話していただけますか? ファビウス先生たちとの話によると、この後ご予定があるのですよね?」
「……そうでした。息子の怪我のことで、相談しに来たのですよ」
理事長は、ご子息の怪我の状態が芳しくないことを考慮して、しばらく自宅で休ませることを考えているらしい。
治癒魔法では治らず、生活に支障をきたしているのであれば、そう言った措置も必要だと答えた。
「――それでは、失礼します」
「ご子息とお話いただき、結果をまた教えてください」
私は理事長を見送った。
彼は何事もなかったかのように、あっさりと立ち去った。
(本当に、同志を探しているのだろうか?)
確信を得られれば、すぐにでもこの者と手を取り、主を国王にすべく動きたい。
私は主に、王となってもらいたいのだから。
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寒くなり、インフルエンザが猛威を奮っておりますので、お体に気をつけてお過ごしください。




