01.新入生は予期せぬ顔ぶれで
新章突入です!
レティとノエルを応援よろしくお願いします!
新学期が近づき、私の教師生活も新しい節目を迎えることになった。
私は今年度から「ファビウス先生」と呼ばれることになったのだけれど、未だに慣れないのよね。
ノエルが呼ばれているように思えて、すぐに反応することができない。
そして変化はもう一つ。
もうすぐで、新入生たちの担任になるのだ。
今日は新しい学級名簿が配られる日でワクワクしていたのだけれど――とんでもない事態が発生して、私の新生活は早くも雲行きが怪しくなる。
「うそ……でしょう?」
思わず零れてしまった呟きを聞きつけて、ルドゥー先生が「大丈夫?」と声を掛けてくれる。
気付けば周りの先生たちも心配そうな顔で私を見ており、慌てて表情を取り繕った。
「だ、大丈夫です。家に忘れ物をしたのを思い出してしまってんですよ」
正直に言おう。
けっして、家に忘れ物をした訳ではない。
今手に持っている出席簿を見て、驚きのあまり心臓が飛び出しそうになったのだ。
この出席簿に書かれているのは、春から私が受け持つ生徒たち。
その中に、本来なら居ないはずのヒロイン、エリシャの名前が書かれている。
ゲームであれば彼女は入学を辞退し、二年生になってから転校してくるのだからここには名前が無いはずだ。
まだゲームのシナリオが始まっていない時期なのに、既に物語からズレているのが気掛かりだ。
どうして彼女の名前が書かれているのかしら?
「あら、ファビウス先生のクラスは個性派揃いですね。第三王子のバージル殿下がいるし、ルドナイト王国から留学してくるゼスラ殿下もいるから賑やかになりそうですね」
「ええ、本当に。新学期が楽しみです」
楽しみと口では言っているけれど、遠い目をしてしまうのは許してほしい。
これから始まる激動の新生活を思うと眩暈がしそうなのだから。
第三王子ことバージル・グレゴワール・ノックスはアロイスの異母弟だ。
ウィザラバ続編の攻略対象で、彼のルートを選べばアロイスの姿を拝めるのかもしれないと思って一番に選んだキャラクターだ。
バージルと一緒に名前が挙がったゼスラ殿下もまた、攻略対象の一人。
彼は獣人たちの国、ルドナイト王国から来た留学生。
実は、ルドナイト王国はつい最近まで鎖国していた国だ。
そんな国の王子であるゼスラがオリア魔法学園に入学する理由は、兄にかけられた呪いを解く為。
だからゲームの中で見た彼は、魔術をどん欲に学んでいたわね。
メインキャラクターたちが勢ぞろいしているから賑やかになるのも当然だ。
そしてトラブルに巻き込まれるのもお決まりの流れ。
困難が待っているのは承知で、これから出会う生徒たちもまた、バッドエンドから守り抜くと誓うわ。
決意を胸にして心の中でガッツポーズをしていると、背後から穏やかに笑う声が聞こえてきた。
振り向けば、翡翠色の長い髪を大きく三つ編みにして結わえている、中性的な顔立ちの先生が楽しそうに笑っている。
その瞳は青みがかった銀色で、氷のような透き通った美しさがある。
彼は新任の先生で、名前はレイナルド・セルラノ。
ドーファン先生の後任になる治癒師で、医務室の先生だ。
ディエース王国の宮廷病院で働いていた彼を、学園長がスカウトしてこの国に連れて来た。
彼の容姿を一言で表すと「美人」。
初めて見た時は、男性なのか女性なのかわからなかった。
「私も新学期が楽しみで仕方がありません。初めて教師として生徒たちと対面するので、今もドキドキしているんですよ」
「そ、そうなんですね。セルラノ先生はきっとすぐにみんなと打ち解けると思いますよ」
「ファビウス先生にそう言っていただけると嬉しいです」
たおやかで優しい印象のある先生だけれど――この人と顔を合わせると、なんとなく落ち着かないのよね。
美形だから、という理由もあるのだけれど、最も大きな原因は初めて出会った日の出来事なのかもしれない。
セルラノ先生と初めて会った時、彼は私を見るなり泣きだしてしまったのだ。
本人曰く、私から感じる魔力に安心してしまって涙が零れたらしい。
そのフレーズは魔法が溢れているこの世界ではよくある口説き文句で。
見かねたルドゥー先生が注意してくれたおかげで事なきを得る。
そのような事があったから、セルラノ先生にどう接したらいいのかわからないのよね。
おまけに、ジルからこの話を聞いたノエルがぷんすこと怒ってしまい、セルラノ先生を退任させようとしたから肝が冷えたわ。
「改めて見てもすごい面子ですよね。宮廷魔術師団の師団長の孫娘に、理事長の息子もいますから個性的なクラスになりそうです」
ルドゥー先生はもう一度、私が受け持つ生徒たちの名前を見てそう呟く。
私ももう一度名簿に視線を落とし、これから出会う彼らの名前をなぞった。




