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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十六章 黒幕さんが、続編の黒幕を探っています
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04.二度目の手当て

更新お待たせしました!

 翌日の放課後、私はオリア魔法学園の図書館で、悪夢をみないためのおまじないについて調べていた。


 ユーゴくんとメアリさんが調べてくれているけれど、調べる人が多いほど新しい情報を見つけられるかもしれないと思ったからだ。


(とはいえ、今日は集中できないから、力になれないわね……)


 いくつかピックアップして閲覧用のテーブルで読んでいたのだが、内容が頭の中に入ってこない。


 実は、昨夜王宮から使者がやって来て、アロイスからの手紙を届けてくれた。

 手紙には、マルロー公の余罪を調べ終えて処罰の内容も決まったから、正式に公表する前に伝えたいといった趣旨が書かれていたのだ。


 だから、今日の放課後にノエルに迎えに来てもらった後、私たちは王宮へ行くことになっている。


(いよいよマルロー公が処罰されると思うと、邪魔者が現れないか心配だわ。ノエルの予想だと、当日は理事長も来るようだからなおさら心が落ち着かないわね。理事長がマルロー公を庇ったらすべてが振り出しに戻ってしまうもの)

 

 私は溜息をついて本を閉じる。

 どうしようもなく集中できないから、今日は中断することにした。


 椅子から立ち上がり、本を本棚に戻すために図書館の中を歩いていると、自習用の机で勉強しているサミュエルさんを見つけた。


(サミュエルさんは図書館で勉強しているのね)

 

 寮の部屋でも勉強する設備は整っているが、図書館の方が静かで集中できるのだろう。


 教科書らしき本を手に取ったサミュエルさんが、小さく呻いて顔を顰める。その拍子に、本を取り落としてしまった。


 私はすぐさまサミュエルさんに駆け寄った。


「ぺルグランさん、大丈夫? どこか痛むの?」

「ベルクール先生……?!」


 サミュエルさんは私を見ると、瞠目した。急に話しかけたから、驚かせてしまったようだ。


「調べものしていたら、偶然あなたの姿が見えたのよ。腕はどうしたの?」

「……実はこの前の休日に、火炎魔法を一人で練習をしていたら、腕に火傷を負ってしまったので、傷が痛むんです」

「火炎魔法の練習を……」


 そういえば、サミュエルさんは以前も火炎魔法の練習で火傷を負っていた。

 属性魔法の得手不得手があるから、サミュエルさんは火炎魔法が苦手なのかもしれない。


「腕に火傷を……痛かったでしょう。手当は受けたの?」


 もしもセルラノ先生が治療したのであれば、その後私に報告しているはずだ。しかし、私はまだ一度も報告を受けていないから、まだ治療を受けていない可能性が高い。


 私はサミュエルさんの腕を見つめる。制服のシャツで隠れているから状態が分からないが、本を取り落とすほどの痛みがあるのなら、酷い怪我なのかもしれない。


 だけど、サミュエルさんは治癒魔法を受け付けない体質だから、手当てしてもらうことを避けているような気がして、心配だ。


(セルラノ先生は事情を知っているから治癒魔法を使わないだろうけど、それでも前に火傷した時はセルラノ先生に診てもらっていなかったのよね……)

 

 怪我は放置していると、悪化して一生治らないことだってあるから、すぐにでもてあてしてもらわないといけない。

 

 サミュエルさんはシャツの上から自分の腕をさすりつつ、眉尻を下げた。


「……セルラノ先生が傷薬を塗って応急処置をしてくださったので、ご安心ください」

「そうなのね。処置をしてもらえて良かったわ。その後もセルラノ先生に診てもらっている?」

「はい、毎朝傷の状態を確認した後、手当てしてもらっています」


 セルラノ先生が手当てしてくれているのなら問題ないだろうと思うものの、痛そうに顔を歪めるサミュエルさんを見てしまったものだから、傷の状態が気になってしまう。


「セルラノ先生なら適切に処置してくれているから、すぐに治るとは思うのだけれど……もしよかったら、魔法薬学準備室に火傷した肌に塗るための軟膏があるから、受け取ってくれる?」

「いいのですか……?」

 

 サミュエルさんは、泣きそうな顔で聞いてきた。よほど傷が痛いのかもしれない。


「ええ、真夜中に痛くなった時や、セルラノ先生が不在の時に使うといいわ。痛みが続くと、それだけで悲しい気持ちになるもの。ペルグランさんに、そんな思いをしてほしくないわ」

「……っ、ありがとうございます」


 よほど火傷の痛みに耐えるのが辛かったのか、サミュエルさんは目を潤ませて礼を言ってくれた。


     ◇


 さっそく、私はサミュエルさんと一緒に魔法薬学準備室へ行った。

 サミュエルさんにハーブティーを淹れて、椅子に座って待ってもらっている間に、棚から軟膏が入っている手のひらサイズの丸い缶を取り出す。


 ちょうど作ったばかりだから、在庫はまだたくさんある。

 私はサミュエルさんに、軟膏の缶を二つ手渡した。


「たくさん作ってあるから、無くなったら言ってちょうだい」

「はい、貴重な軟膏をくださってありがとうございます」


 サミュエルさんは両手で缶を受け取ると、嬉しそうに口元を綻ばせて、自分の胸元に引き寄せる。

 

 そんな姿を見ていると、やはりすぐに火傷を治せなくて辛いのではないかと、心配になる。


「いつも作り置きしているものだから、気にしないで。それより、今ここで私が手当てしてもいいかしら?」

「ぜひ、お願いします」


 サミュエルさんは照れくさそうに頬を赤くしながら頷いてくれる。

 私は早速、棚から包帯やガーゼなどが入った救急箱を取り出す。


「では、傷を見せてくれる?」

「……はい」


 サミュエルさんがシャツの袖を捲り上げると、腕の肘から手首にかけて包帯が巻かれている。それをサミュエルさんが外すと、皮膚の色が変色した、痛々しい火傷の痕が現れた。


「こんなにも広範囲に火傷を負うなんて……とても痛いでしょう。軟膏を塗るから、痛かったら言ってね」


 私は軟膏を手に取り、火傷の痕に塗り広げる。それから少しの間、傷口に塗った軟膏が乾燥するのを待ってから包帯を巻いた。


(後で、セルラノ先生に話しを聞いてみた方が良さそうね。それに、サミュエルさんの保護者である理事長にも話しておかないと……)


 魔法薬学準備室を出るサミュエルさんを見送った私は、そのまま医務室へと向かった。

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