閑話:正体がわからないまま(※ノエル視点)
更新が遅くなり申し訳ございません!
モーリア領での調査が終わり、私はレティと二人きりで馬車に乗っている。
レティと二人きりの時間を過ごしたいから、ルーセル師団長たちには別の馬車に乗ってもらった。
レティと話していると、レティの瞼が少しずつ下がり始めた。次第に言葉が出てこなくなり、ゆっくりと言葉を紡いているところだ。
「王都に帰ったら、ユーゴとメアリさんにも棍棒を見てもらおう」
「……ええ、そう……ね」
レティは必死で瞼の重さに抗っている。
その様子がたまらなく可愛い。
(モーリア領での聖遺物の調査で気を張っていたから、疲れて眠くなっているのかもしれないな)
屋敷に帰ったら、ゆっくりと休んでもらおう。
責任感が強いレティは侯爵夫人として携わっている仕事をしようとするだろうから、見張っていないといけないかもしれない。
それなら、今のうちに休ませておこう。
「しばらく寝ているといい。途中で立ち寄る街に近づいてきたら起こすよ」
「……うん、ありがとう」
レティは片手で目を擦ると、私に寄りかかった。
レティから寄りかかってくれるのは初めてだ。
少しだけ肩にかかる重みや、伝わってくるレティの体温に、胸が騒がしく音を立てる。
(レティが可愛いからこのままでいたいが、眠りづらそうだから動かした方が良さそうだ)
私はレティの体に慎重に触れて、ゆっくりと彼女の体を横たわらせる。そうして、彼女の頭を自分の膝の上に乗せた。
「……おやすみ、レティ」
このままでは体を冷やしてしまいそうだから、ミカを呼んでブランケットを持って来させた。
ミカから受け取ったブランケットをレティの体にかけると、眠っているレティの口元が微かに笑みを浮かべる。
その姿があまりにも愛おしくて、私は指先でレティの頬に触れた。
レティを起こしてしまわないように撫でていると、反対側の座席の上にジルが現れた。
「小娘は、体調が悪いのですか?」
ジルは座席から飛び降りて私たちに歩み寄ると、耳を下げて、心配そうにレティを見つめる。
「疲労が溜まっているようだから眠っている。ゆっくり寝かせてあげてくれ」
「そうでしたか……。もしかすると、黒い影を探した時のことも疲れる原因だったかもしれませんね」
ジルは、レティが黒い影を探していた時に、水路に落ちかけたことを言っているのだろう。
あの時は、私が近くにいるから問題ないだろうと思い、ジルをレティの護衛につけていなかった。
(まさかレティが水路に落ちかけるとは思ってもみなかった……今後は近くに居てもジルを護衛につけておこう)
助けてくれた人物のことをレティから話を聞いた私は、ジルに頼んで島の周辺にいる妖精に、レティを助けた人物の特徴や行方を調べた。
しかし、どの妖精もその人物の顔を覚えていなかったうえに、街を出てからの足取りを掴めなかった。
その人物は、認識阻害の魔法を自分にかけていたから、妖精たちはその人物の顔がわからなかったのだ。
「……近くにいた妖精たちの話によると、その者は小娘になにかあれば、あの子が悲しむと言っていたそうです」
「あの子……か。レティの知り合いのようだが、レティは思い当たるものはいないそうだ。相手が一方的にレティを知っているのだろうか…?」
まさか、レティを助けた人物は、その者に雇われてレティを守っているのだろうか。
もしそうであれば、雇い主はレティに並々ならぬ想いを抱いているだろうから、近づけたくない。
ジルやミカをレティにつけて、レティに近づく人物を監視させておこう。
そして、その者がレティに近づいた時は警告するつもりだ。
「モーリア卿に気をとられてしまっていたから気づけなかったとは、迂闊だった。レティに近づく者は全員、警戒しないといけないな」
「俺様に任せてください! 怪しい奴らを蹴散らせます!」
張り切っているジルが、鼻息荒くしながら胸を張る。
「ああ、頼んだよ。私に隠れてレティに近づこうとする者に容赦しなくていい」
「御意!」
ジルは意気揚々と返事をすると、反対側の席に飛び乗って丸くなる。
もしもレティが起きていたら、今のジルを見ると、猫みたいだと言って笑うだろう。
そんなレティの姿を想像すると、どうしても口角が上がってしまう。
「レティにはゆっくり休んでほしいが、レティの話を聞きたいから起きてほしいとも思ってしまうな」
私は眠っているレティの髪を手で梳き流す。
レティが起きた時、一番にどんな話をしようかと、幸せな考え事をした。
本章の『04.ヒロインの想い』では設定に齟齬がありましたので修正しました。
ディディエが宮廷魔術師団に所属していると書いていましたが、正しくは騎士団です。
齟齬があり、読みづらくなってしまい大変申し訳ございませんでした。