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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十五章 黒幕さんが、いつも以上に過保護です
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11.夫が過保護すぎます

 ノエルたちと合流した私は、この島に私たち以外の誰かが来たかみんなに尋ねてみたけれど、誰も見なかったらしい。


「私が水路に落ちそうになったところを助けてもらったから、お礼を言いたかったのよね……」

「待ってくれ……レティ、水路に落ちそうになったのかい?」


 ノエルが血の気の引いた顔で私を抱きしめてきて、怪我はないのかなどあれこれ質問攻めしてくるのだった。

 

「私を知っているような口ぶりでしたが、もしかすると私の聞き間違えだったのかもしれません。領民の誰かが偶然通りかかったのでしょうか?」

「その可能性は低いでしょう」


 私の問いに、ブレーズ様が首を横に振る。


「今日は市長が領民たちに、この聖堂には近づかないよう伝えていましたので、恐らくは外から来た者です」


 その他に手がかりがなく、私を助けてくれた男性の正体はわからずじまいだった。


     ◇


 それから私たちは、聖堂に避難していた市長と司祭のもとへ行き、黒い影が消え去った事を伝えた。

 

 形が変わった棍棒を市長と司祭が見てしまうと騒ぎになってしまいそうだから、棍棒はノエルが持たずにブレーズ様に渡している。


「あの黒い影はまるで、意思を持っているようでしたが、魔物だったのでしょうか……?」


 市長は不安げに呟くと、聖堂の扉を見つめる。黒い影がまた現れるのではないかと、不安になっているようだ。


 魔法が効かない魔物かもしれないと思うと、恐ろしくて仕方がないだろう。

 とはいえ、魔物よりももっと恐ろしい存在だから、本当の事を知らなくて良かったのかもしれない。


「魔物かどうかは調べてみないとわかりませんが、聖堂のあるこの島の前にわざわざ現れたということは、この聖堂の中にある何かに引き寄せられてきたのでしょうね」


 ルーセル師団長は神妙な口調でそう言うと、視線をブレーズ様の手元にある棍棒に向ける。


「聖堂の中にあるのはこの聖遺物ですから、なにか関係があるのかもしれません。――モーリア卿、調査のためにこの聖遺物をしばしお借りできますかな?」 

「ええ、ぜひ皆様の研究にお役立てください。皆様には、この領地をマルロー公たちから救っていただいた恩がありますし、なにより聖遺物の謎を解明するお役に立てるのであれば、研究者としてこれ以上嬉しいことはありません」


 ブレーズ様はすぐに承諾してくれた。


 街で保管している大切な聖遺物を持ち出すことに、市長と司祭は難色を示すのではと思ったのだけれど、二人もブレーズ様に同意して「ぜひ!」と快諾してくれた。


「お恥ずかしながら、私たちは魔術師が街に潜んでいることに気づけませんでした。てっきり旅人か商人だと思っていたのです。皆様のおかげで市民たちを守れましたので、ぜひ今度は皆様の力になりたいのです」


 市長は胸に手を添えて、私たちに礼をとる。

 

「私たちの日常を守ってくださって、本当にありがとうございました」 

 

 そうして、私たちは棍棒をしばらく貸してもらうことに成功した。


 聖堂を出た私たちは、領主邸に戻るたねボートに乗る。


 私はセラの景色をぐるりと見渡した。

 領民たちが私たちのボートを見つけては、手を振り返してくれる。


 行き交う人たちの中に、理事長らしき人物の姿はない。

 

(人違いだったのかしら? でも、私のことを知っているような口ぶりだったわ)


 つい気になってしまった私は、手を振り返しながらも目を凝らして理事長の姿を探す。

 そうしていると、隣に座っているノエルが小さく耳打ちをしてきた。


「なにか気になることがあったのかい?」

「ええ、助けてくれた人のことが気になるのよ。もうこの街からは出てしまったのかしら?」

「……私もその場にいればよかったな。そうすれば、相手の正体が分かったかもしれないのに」


 突然、ノエルがコテンと私の肩に頭を乗せてきた。周りにいる領民たちから、きゃあとか、ひゅうひゅうと声が上がる。


「レティに気にかけてもらえるなんて羨ましい。妬いてしまうよ」

「もうっ、なにを言っているの。私は相手の正体を知りたいだけよ?」

「それでもだよ。レティが私の事だけを考えてくれたらいいのに」


 ノエルの大きな手が、私の手のひらを包む。


「……それに、レティの近くにいたのに、レティが危険な目に遭っていたのに気づかなかった自分が情けないよ。これからは、なにがなんでもレティから離れないようにしておこう」

「え、なにがなんでも?」


 思わず聞き返す私に、ノエルは顔を離してにっこりと微笑む。


「レティがどこにも行かないように、拘束しておけば危険な目に遭わないだろか?」

「なんて物騒な――ひえっ?!」


 私の体が、ひょいと浮かび上がる。気付いた時にはノエルの膝の上でお姫様抱っこされていた。


 周りの領民たちから歓声が上がる。


 恥ずかしくなった私はジタバタと藻掻いてみたけど、ノエルにしっかりと身動きを封じられてしまい、降りれない。

 

 結局、領主邸に戻ってからもノエルにお姫様抱っこされたまま運ばれてしまう。

 そして、ノエルが頑なに離れようとしないため、モーリア家の方々や使用人たちからも微笑ましい眼差しで見守られてしまい、いたたまれなかった。


次話、ノエル視点です。

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