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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十五章 黒幕さんが、いつも以上に過保護です
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10.黒い影の襲来

更新お待たせしました!

「ファビウス卿、ファビウス侯爵夫人、そろそろ外にいる者たちが様子見に来そうですよ」 


 ルーセル師団長の、のんびりとした声が聞こえてくると、ノエルがようやく私から顔を離した。

 とはいえ、まだノエルにしっかりと抱きしめられているから、完全には解放されていない。


「結局、月の槍が共鳴すること以外の収穫がありませんでしたね」


 ノエルは魔法で棍棒をルーセル師団長に渡す。

 ルーセル師団長が触れると、棍棒はすぐに元のシンプルな形に戻ってしまった。


「私の魔力を込めても変わりないですね。やはりファビウス卿が持つ月の力に反応しているのでしょう」

「……ですが、魔術具にあるような術式の刻印もされていないのに、いったいどのようにして月の力だけに反応するようになっているのでしょうか?」


 ノエルはもう一度棍棒に触れる。すると、棍棒はまるでノエルに触れられることを心待ちにしていたかのように、さっと姿を変えた。

 

「残された伝承では、女神様がグウェナエルのために祝福を授けた武器が聖遺物になっていると書かれているものが多いので、この棍棒が月の力に反応するのは女神様の御業によるものでしょう。きっと、人間が作る魔術具とは何もかもが違うのでしょうね」


 ルーセル師団長は棍棒にさっと手をかざすと、解析魔法の呪文を唱えた。

 解析魔法では対象物にかけられている魔法を調べることができるけれど、祝福を調べられるといった話を聞いたことがない。


 じっと見守っていると、ルーセル師団長は残念そうに首を横に振った。


「やはり、解析魔法ではなにもわかりませんね。祝福は魔法とは異なる類のものですので、魔法での解明は難しいでしょう」

 

 ルーセル師団長の言葉に、私は思わず肩を落とした。聖遺物についてなにか手掛かりが見つかるかもしれないと思っていたけれど、そう簡単には解明できないと、改めて思い知らされた。


「……」


 ノエルは黙っている。隣にいるノエルをチラリと見ると、ノエルは片眉を少し上げて、訝しそうな顔でゆっくりと聖堂の扉へと顔を動かした。


「なにやら外が騒がしいですね」


 ちょうどノエルがそう言うとほぼ同時に扉が開き、ディディエが中に入ってきた。


「大変です!聖堂の周りに、以前ソラン団長から報告のあった不可解な黒い影が現れました!」

「えっ、黒い影が?」


 まさかここにまで現れるとは思ってもみなかった私は、驚きのあまり声が裏返ってしまった。


「はい、なぜかこの島に上陸してこないのですが、まるで僕たちが島の外に出たら捕えようとしているかのように島を囲っています。このままでは領民たちが危害を加えられてしまうと危惧した兄上が魔法で攻撃したのですが、ソラン団長の報告通り、魔法は全く効きませんでした」

「この島には入ってこない……?」

「ええ、まるで何かに阻まれているかのように、入って来ません」


 あらゆる場所に現れる黒い影が、なぜ聖堂のあるこの島には入ってこないのだろうか。黒い影については、わからない事ばかりだ。


(この島になにかあるのかしら? 他の島と違う点は……聖堂があることくらい?)


 もしかすると、聖堂は女神様に祈りを捧げる場所だから、女神様の持つ力で守られているのかもしれない。あくまで推測だけれど。


「魔法が効かなくとも、物理攻撃なら効くのでしょうか? とはいえ、ここには騎士がいないから、試しようがありませんね」


 ルーセル師団長が顎に手を添えて、思案しながら呟く。


「……物理攻撃ですか。試してみたいことがありますので、司祭と市長を聖堂に避難させてもらえませんか?」


 ノエルはルーセル師団長にそう言うと、手に持っている棍棒を軽く持ち上げる。


 ノエルの持つ棍棒を見たディディエが目を丸くした。


「もしかして、あの聖遺物の棍棒ですか?!」

「ああ、この棍棒で倒せるか試してみたい。グウェナエルが聖遺物を使って黒い影を倒したという伝承があるから、この黒い影にも効くかもしれない」


 それから私たちは、ルーセル師団長の魔法で棍棒の形が変形前の姿に見えるようにしてもらい、聖堂の外に出た。


 黒い影は島をぐるりと囲んでおり、黒い炎のように揺らめいている。


 ディディエはすぐに市長と司祭を聖堂の中に避難させて、扉を閉める。ディディエがルーセル師団長に視線で合図を送ると、ルーセル師団長は棍棒にかけていた魔法を解いた。

 

 ノエルはブレーズ様に歩み寄り、その棍棒を見せる。


「その棍棒は、まさか……」


 ブレーズ様の言葉に、ノエルは小さく頷いた。


「モーリア卿、この聖遺物を武器として使ってもいいだろうか?」

「……緊急事態なので、やむを得ません。壊さないように気を付けてください」

「ええ、細心の注意を払います」


 ノエルは棍棒を持って身構えたまま、黒い霧と睨み合う。

 黒い霧はノエルの出方を窺っているように見える。まるで、知能を持った生き物のようだ。


「棍棒を嗜んだことはありませんが、剣術の要領で戦ってみます」


 ノエルは棍棒を持って身構えると、黒い影を斬り込むように振り下ろした。


 ――じゅっ。


 なにかが焼けるような音がすると同時に、黒い影が苦しそうに蠢く。


「物理攻撃が効いている?! 魔法は全く効かなかったというのに……」


 ブレーズ様が驚きを滲ませた声を上げた。


「……やはり、この黒い影は女神の力が弱点のようです」 


 ノエルは息をつく暇もなくまた棍棒を振り上げると、今度は黒い影をなぎ倒すように振った。


 島を囲っていた黒い影に亀裂が入る。黒い影はまた苦しそうに蠢くと、あっという間に湖の中へと入っていった。


「撃退できたようだが……念のため、どこかに隠れていないか確認した方が良さそうだ」


 ノエルは棍棒を手に持ったまま、注意深く湖の底を見つめる。私も覗き込んでみたけど、黒い影らしきものは見えなかった。


 それから私たちは市長と司祭を聖堂の中に避難させたまま、聖堂の周囲を調べた。


 ルーセル師団長たちが魔法で探知してみたけれど、見つからなかった。


 もしかすると、黒い影は魔法では探知できないかもしれないとルーセル師団長が危惧したため、私たちは念のため引き続き黒い影を探す。


 私は他の島と繋がっている橋を見たけれど、黒い影らしいものは見当たらない。


「橋の下に隠れることもあるのかしら……?」


 私は島の縁に立ち、屈んで橋の下を覗き込む。


「橋の向こう側はよく見えないわね――ひえっ!」


 少し身を乗り出したその時、いきなり誰かに肩を掴まれて、そのまま引き寄せられてしまった。

 

「……水辺は足を滑らせやすいから気をつけなさい。君にもしものことがあれば、()()()が深い悲しみに沈んでしまう。私は、もう二度とそのような思いをさせたくない」


 落ち着いており、淡々として――聞き慣れた声が背後から聞こえてくる。


 その声が聞こえて脳裏に浮かぶのは、昔のアロイスに似た、氷のように冷たい表情を浮かべた理事長の顔。


「理事長……?」


 振り返って姿を確認しようとすると、大きな手に覆われて目元を隠されてしまう。

 

「……さあ、()()()のもとに戻りなさい」


 大きな手が目元から取り払われ、視界が開けたが――その時には既に、私を助けてくれた人物の姿はなかった。

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