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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十五章 黒幕さんが、いつも以上に過保護です
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09.共鳴

 ノエルはルーセル師団長に頷いて見せると、棍棒に手を伸ばした。


 ノエルが棍棒を手に持つと、棍棒が光を纏い、形を変えていく。メイスヘッドの形が、縦長の菱形になった。


 それに、棍棒の柄やメイスヘッドに月や星を模した模様が現れて、光を放っている。まるで、宵闇に現れて輝く月と星のようだ。


「おお、まさに市長が話していた通りの形ですな! 念のため、私が触れても良いですかな?」


 ルーセル師団長が子どものように目を輝かせてノエルの手元にある棍棒を覗き込む。


「ええ、どうぞ――といっても、私のものではないので、私の確認なんていりませんよ」


 ノエルが棍棒を持つ手を動かし、ルーセル師団長に差し出したその時、ノエルの上着のポケットの中にあるものが眩く光る。


「月の槍が共鳴している?」


 ノエルはそう呟くと、魔法の呪文を唱える。そうして、片手に棍棒を持ったまま、月の槍を宙に浮かせてポケットから取り出した。


 月の槍はカタカタと震えながら光を放っている。月の槍の刃の先は棍棒のある方向を向いており、まるで棍棒に近づきたいと訴えているようだ。


「もしかして、月の槍がこの聖遺物に共鳴しているのかしら?」

「……そうかもしれないね」


 ノエルは月の槍にかけていた魔法を解除し、月の槍を元の大きさに戻す。


 そうして、ノエルの背丈を越えるほどの長さになった月の槍を見たルーセル師団長は、口を開けたまま月の槍に魅入った。


「ルーセル師団長……息、していますか?」


 思わず不安になって私が尋ねると、ルーセル師団長はハッと目を見開く。


「むむっ、忘れてしまっていました。なんせ、月の槍が実在して、こうして見れる日が来るとは思いも寄りませんでしたから」


 そう言い、大袈裟な動作をつけて深呼吸をしてみせてくれた。


「それにしても、月の槍が共鳴したということは、やはり宵闇の棍棒なのかしら?」


 私の問いに、ノエルは小さく頷く。


「……そうかもしれない。月の槍に触れた時のように、体に魔力が満ちる感覚がする。……しかし、他の聖遺物には触れたことがないから、この棍棒だけが特別かどうかはわからないな」

「たしかに、ビゼー領に保管されていた聖遺物の短剣には触れなかったものね。それに、他の聖遺物もノエルが触れたら形を変えるのか、試した方が良いわね」


 月の力と聖遺物の関係については、まだまだ分からない事が多い。


 聖遺物についての資料は、マルロー公たちのせいであまり残されていないから、解明することは難しいかもしれないけれど、ノエルの持つ力に関わる事だから、明らかにしていきたい。


(ゲームのシナリオのせいで悲しい思いをしてきたノエルが、月の力のことでまた悲しい思いをすることになるかもしれないのであれば、阻止したいもの……)


 私は、棍棒と月の槍を重ねてみるノエルの姿を見つめる。月の槍も棍棒も、光り輝く以外の変化はなかったが、ノエルは魔力を注いでみるなど検証を続けている。


 そんなノエルをじっと見ていると、不意にルーセル師団長が私の隣に来て、にっこりと微笑んでくれた。


「調査には名目が必要でしょうし、ぜひ私の名前を使ってください。できる限り、私も一緒に行きましょう」

「いいのですか?」 

「いいもなにも、魔法に関わる調査は私の重要な仕事ですよ。――それに、ファビウス侯爵には、月の力のことでこれ以上、不幸な思いをさせたくありませんから」


 ルーセル師団長もまた、ノエルを見つめる。その目はノエルを見ていながらも、どこか遠くにいる誰かを見ているようにも見えた。


「ファビウス侯爵は生れたばかりの頃から知っていますし、彼に魔法を教えていた頃もありました。そうして、彼のおかれている状況を十分把握していながら、私は彼を守れなかった。国外にでも逃がすことができたらあのような思いをしなくて済んだかもしれませんが、月の力を国外に出すわけにはいかないと、思い留まってしまったのです。師団長なんて肩書を持っていながら、実のところ、国の益を考えて不遇な子どもを助けなかった愚かな人間です」

「……先代の国王の目があったのですから、連れ出すことは難しかったでしょう」


 たしかに、ルーセル師団長がノエルを国外に逃してくれていれば、ノエルは不幸な運命を辿らなくて済んだのかもしれない、と恨む気持ちがなくはない。


 ゲームの中のノエルは、そのせいで周囲への憎悪とロアエク先生を失った悲しみの中、命を落としたのだ。


(だけど、もしそうしていたら私は、ノエルと結ばれることはなかったわ)


 そう思うと、私はルーセル師団長の選択に感謝してしまうのだ。ノエルの幸せを願っているくせに、そんな我儘を抱いてしまう自分が嫌になる。


(私ったら、お義母様たちが幼い頃のノエルを救えなかったことを非難していたけれど、そんな資格がないほど身勝手なことを考えてしまっていたのね)


 ノエルと婚約したばかりの頃の私なら、ノエルの幸せを優先して、彼を異国に連れて行くべきだったと思うだろうに。


 やるせない思いでいると、不意にノエルが私たちの方を見て、眉尻を下げた。


「――そのようなことを仰らないでください。ノックス王国に居続けられたからこそ、私は妻と出会ったのですから」


 ノエルは二つの聖遺物を台座の上に置くと、両手で私の頬を撫でる。


「だからレティも、そんな顔をしないで? 私はレティと出会えて、こうして夫婦になれたことが、本当に嬉しいんだよ?」


 ノエルはどこまで私の心を見透かしているのだろうか、気遣わし気に私の目を覗き込む。


「バツが悪そうな顔をしているよ。もしかして、私が国外へ行ったら出会えなかったから、ノックスに残り続けてよかったと思ってくれているのかい?」

「――っ」


 言い当てられて息を呑む私を、ノエルは瞳を蕩けさせて見つめてくる。


「レティがそう思ってくれていて、嬉しいよ」

「でも、私がノエルの幸せよりも自分の欲望を優先するなんて――」


 言いかけた言葉は、ノエルにキスされたせいで最後まで言えなかった。

 ノエルは何度も私の唇を啄むようにキスをして、まったく喋らせてくれなかったのだ。


(ううっ、ルーセル師団長がいるのに……)


 顔を離そうとしてもノエルがしっかりと私の頬を固定しているせいで動かせない。


「ほほほ、愛ですなぁ」


 ルーセル師団長の微笑ましそうな一言が聞こえた私は、気恥ずかしくなって思わずノエルの胸元を押してみたが、ノエルはくすりと笑うだけで放してくれなかった。 

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