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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十五章 黒幕さんが、いつも以上に過保護です
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08.モーリア伯爵領のセラ

 翌日、私とノエルとルーセル師団長は、ディディエとブレーズ様の案内でモーリア伯爵領にあるセラという名の街を訪ねた。


 馬車から降りると目の前に水路があり、水路に区切られて島になった土地の上に家や店などが建てられている。その建物を繋ぐように、いくつもの橋が渡されている。


「綺麗な景色ね。前に一度、美術館でこの街を描いた絵を見たことがあるのだけど、こんなにも素敵な景色を見た画家はきっと描かずにはいられなかったのでしょうね」


 ノエルにそう話しながら景色に魅入っていると、ブレーズ様が隣に来て街の説明をしてくれた。


「ここは領都を流れる川の上流近くにあって、その支流が街全体に流れているので、水郷とも呼ばれています。領民たちは――」


 と、話の途中で、急にディディエが私とブレーズ様の間に入ってきた。


「兄上、街の説明は僕に任せてください! 実は王都を発つ前、街の説明を聞かせてほしいとファビウス卿からお願いされていたんです!」

「そうだったのか。それでは私は市長と話してくるから、後は頼む」


 ブレーズ様は微かに微笑ましそうな表情を浮かべてディディエの頭を撫でる。ブレーズ様は相変わらずブラコンで、今回の旅の途中でも何度もディディエの自慢話をしては、ディディエに止められていた。


 ブレーズ様は私たちに断りを入れると、私たちのもとを離れて近くで控えていた市長らしき女性のもとへ行った。


「ノエルったら、いつの間にディディエに頼んでいたの?」


 私がこっそりとノエルに耳打ちすると、ノエルはにっこりと笑みを浮かべる。


「いつだと思う?」

「もしかして、宮廷魔術師団の施設で私がサラと話していた時かしら?」

「その時ではないよ。別日に()()モーリアに会った時に頼んだんだよ。せっかくだから、レティが観光も楽しめたらいいと思ってね」


 ノエルは「偶然」を強調しているように聞こえた気がしたのだけれど、気のせいなのかもしれない。


     ◇


 それからディディエに街の説明をしてもらった後、市長が用意してくれたボートに乗って聖堂を目指す。


 ボートは二(そう)用意してもらっており、一艘目には市長とブレーズ様とルーセル師団長、二艘目に私とノエルとディディエが乗っている。


 どちらのボートも市長の魔法で動いており、私たちを乗せたボートはブレーズ様たちが乗るボートの後ろに続いて進んでいる。


「あの大きな窓が嵌めこまれた一階建ての木造の建物が聖堂ですよ」


 ディディエが指差す先を見ると、大きな窓が特徴的な外観の建物がある。


 私たちは聖堂の前にある船着き場にボートを停めて、聖堂のある島に降り立った。

 

 聖堂の中に入ると、建物の奥にも大きな窓があり、二つの窓から差し込む光のおかげで聖堂全体が明るい。


「奥にある窓の手前に、聖遺物を保管している台座があります。どうぞ、奥まで進んでください」


 市長に促された私たちは聖堂の奥へ行き、磨き上げられた木の台座のまわりをぐるりと囲む。

 台座の上に載せられている聖遺物――黒色の棍棒は、鉄の棒の先端に六角柱のメイスヘッド反対側に握る部分と石突があるだけで、簡素な造りだ。

 

 前モーリア伯爵の言う通り、普通の棍棒に見える。


「どこにでもありそうな棍棒に見えますが、グウェナエルが使ったとされる由緒ある棍棒です」


 市長はグウェナエルが棍棒を使って魔物を倒した時の話を聞かせてくれた。


 魔物は真夜中に現れたが、グウェナエルは視界が悪いのにも関わらず、この街にある橋やボートを活用しながら棍棒を操り、魔物をあっという間に倒したそうだ。


「グウェナエルが棍棒を持っていた時、棍棒には月や星を模した模様が浮かび上がっており、暗闇の中で輝いていたそうです。またメイスヘッドは縦長の菱形に形を変えたと言われています」


 市長は魔法で聖堂の中にある小さな本棚から一冊の本を取り出すと、挿絵のある一ページを開く。

 そこには市長の話した通りの姿をした棍棒を持つグウェナエルの絵が描かれていた。


(グウェナエルが触れたら模様が浮かび上がって形を変えたということは、ノエルが触れてもあのような見た目になるということよね?)


 さっそく試してみたいところだけど、市長がいる前でノエルに触れてもらうわけにはいかない。

 ノエルが月の力を持っていることは、限られた人にしか知られてはならないのだ。


 どうしたものかと悩んでいると、たまたま目が合ったルーセル師団長が、茶目っ気たっぷりにウインクしてきた。


「モーリア卿、この棍棒を()()()調べたいのだが、いいかね?」

「……ええ、皆さんが調査に集中できるよう、私たちは外に出ておきます」


 ブレーズ様は頷くと、市長とディディエ、そしてこの聖堂で働く司祭たちも連れて外に出た。


「ルーセル師団長、ありがとうございます。いつ話を切り出そうかと考えていたところでした」


 ノエルが礼を言うと、ルーセル師団長は朗らかに笑う。


「先ほどの一言を言うために来たと言っても過言ではないのですから、礼には及びませんよ」


 それはさすがに過言なのでは、と私は心の中で突っ込みを入れた。

 さっきの一言のためだけにルーセル師団長――宮廷魔術師団の上層部の貴重な時間を使わせていただくなんて贅沢過ぎる。

 

「念のため窓に認識阻害の魔法をかけて、外からはこの聖堂内の変化が分かりにくいようにしておきましょう」


 ルーセル師団長が魔法の呪文を唱えると、二つの窓に魔法がかかり、どちらも淡い光を纏う。


「さあ、ファビウス卿。いつでも試してみてください」

「ありがとうございます。それでは、さっそく――」


 ノエルはルーセル師団長に頷いて見せると、棍棒に手を伸ばした。

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