02.夫が悪役めいた台詞を言っています
度々遅くなって申し訳ございません。3週間後には一旦落ち着いて、これまで通り土曜日に投稿できるかと思います…!
ユーゴくんとメアリさんの家を訪ねてから二日後の昼下がり。
私とノエルは馬車に乗り、王宮の敷地内にある宮廷魔術師団の施設へと向かっている。
ノエルが二日前の夜にディディエに手紙を送り、モーリア領のセラに保管されている聖遺物のことで会って話がしたいと伝えたところ、すぐに時間を空けてくれたのだ。
今回の聖遺物の調査には、ノエルが持つ月の力も関わりがあるため、話し合いにはルーセル師団長も同席してもらう。
そしてもう一人、ディディエの兄で現モーリア伯爵家の当主であるブレーズ様も参加してもらうことになった。
「ルーセル師団長もディディエもブレーズ様も、忙しいでしょうにすぐに時間を空けてくれて感謝しかないわね」
「……ああ」
私の言葉に、ノエルはやや時間を置いて返事をした。
返事までの微妙な間が気になってしまう。
それにノエルは浮かない顔をしていて、どことなく不安そうに見えた。
「ノエル、どうしたの? なにか引っかかる事があるように見えるわ」
「ああ、久しぶりにモーリア卿と顔を合わせるから――どのように先手を打とうか考えていたんだ」
「ええっ、先手?! 決闘でもするつもり?!」
私たちはセラにある聖遺物を調査させてほしいとお願いするためにディディエとブレーズ様に会いに行くというのに、なぜかノエルは臨戦状態だ。
(もしかして、ブレーズ様にダメだと言われた場合に備える、ということなのかしら?)
私もノエルも歴史学者ではないのに聖遺物を調査したいと言い出したら訝しがられるかもしれないが、ダメとは言われないような気がする。
「調査を拒否されたら、ルーセル師団長やジュリアンにも加わってもらって説得してもらうのはどうかしら?」
「調査のことは問題なく承諾してもらえるだろう。……ただ、モーリア卿がまたレティに言い寄らないか心配でね」
「はいぃぃぃぃ?!」
想像のななめ上をいく答えに、私の声は裏返ってしまった。
「ブレーズ様に言い寄られたことは一度もないわ」
「モーリアが在学していた頃に頻繁に会いに来ていたではないか」
「あの時はディディエのことを相談しに来ていただけよ?」
ブレーズ様とは始終ディディエの話ばかりしていて、その他の話題は全くなかった。
そもそも、ブレーズ様が私に惚れるはずがない。
ノエルにそう伝えると、ノエルは力なく首を横に振った。
「……レティは鈍感だから……」
「なぜいきなり悪口を?!」
「すまない、気を悪くさせるつもりはなかったのだが……レティは全く気付いていなかったのだと改めて思い知らされたよ」
不意にノエルは私に顔を近づけると、私の頬にちゅっとキスをした。
「なにがなんでも、モーリア卿をレティに近づけさせないよう気を引き締めていかないといけないな」
「も、もうっ! 私のことより聖遺物の調査をさせてもらうことに集中してちょうだい」
「調査のことは心配しないでくれ。必ずモーリア卿の首を縦に振らせてみせる」
黒幕めいた発言をしたノエルは、見る者を魅了してしまいそうなほど艶やかな笑みを浮かべるのだった。
◇
私たちを乗せた馬車が魔術師団の施設の前に停まると、ディディエとサラが出迎えてくれた。
「わー! ファビウスせんせーとファビウス卿、ようこそ宮廷魔術師団へ!」
サラは元気よく私たちに駆け寄ると、私をぎゅっと抱きしめた。
「ふふっ、出迎えてくれてありがとう」
「ファビウスせんせーが来るってモーリーが昨日教えてくれたんです。それからずっと楽しみにしていましたー!」
と、サラはとても嬉しい事を言ってくれる。
「ファビウス先生、今日は来てくださってありがとうございます。応接室へ案内しますね」
ディディエはそう言うと、サラにニコリと微笑みかける。
「リュフィエさん、僕たちは応接室へ行くから、また後でね」
「う、うん! またね!」
サラは少し頬を赤く染めて、少し言葉を詰まらせつつ返事をする。
(なんだか、いつものサラらしくないような……?)
先ほどまでの元気いっぱいなサラはどこへいったのだろう。
気になった私は、話し合いが終わったらサラに声をかけてみることにした。
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