11.楽しいルドライト王国視察
翌日から私たちはルドライト王国の街や学校の視察をすることになっているのだけど、行く先々でノエルはルドライト王国の人々に取り囲まれた。
「ファビウス侯爵、次はぜひ私と手合わせしてください」
「その次は私も!」
「抜け駆けするな! 今度は俺だ!」
まずは王宮の騎士たちだ。
ノエルは騎士団長から手合わせしてほしいと言われて剣を交えたところ、彼に勝利した。
その後、ルドライト王国の騎士たちが集まってきてノエルをぐるりと囲ってしまった。
「皆のもの、下がれ! ファビウス侯爵が困っているだろう!」
国王陛下が叱りつけると、騎士たちはノエルから離れた。
強者に惹かれてしまうルドライト王国の人々は、どうしてもノエルが気になってしまうらしい。
いざルドライト王国の街へ行くと、またもやノエルは人に囲まれてしまった。
「ファビウス侯爵というお方らしい。人間は弱いと聞くが、あのお方を見ているとそうは思えないな」
「それにしても綺麗な人だね。見惚れてしまうよ」
「少しだけ話しかけてもいいかな?」
街の人たちは平民がほとんどだから、さすがに他国の侯爵家の当主であるノエルに話し掛けたりはしないのだけど、遠巻きに見ているのだ。
中には私たちのもとに駆けて来て、お花や美味しい食べ物をくれる店主たちもいた。
私は貰ってばかりで悪いと思い、オリア魔法学園の先生や生徒たちへのお土産を買う。
ノエルも露店で綺麗な紫色の花を模した髪飾りを買うと、私の髪につけてくれた。
「綺麗だよ、レティ。よく似合っている」
ノエルが瞳を蕩けさせて褒めてくれると、周りにいるルドライト王国の女性達が黄色い声を上げる。
見ると、街の人たちは皆両手で口元を覆い、きゅんとした表情でノエルを見ているのだ。ついでに私も見られているため、緊張してしまう。
「あ、ありがとう。大切にするわ」
私はついぎこちなく礼を言ってしまった。
◇
その後生徒たちの交流のためにルドライト王国の貴族たちが通う学校――クレドニクス学院へ行くと、ノエルはクレドニクス学院の生徒たちに取り囲まれる。
「オリア魔法学園では魔術を教えていた時があったんですよね? 私たちにも教えてください!」
「俺、騎士を目指しているので手合わせしてもらえますか?!」
「せっかくなので、生徒たちに出張授業をするのはどうでしょうか?」
ノエルはクレドニクス学院の生徒たちと先生のの熱意に応えて出張授業をした。
「ファビウス侯爵の授業、とてもわかりやすい」
「ええ、オリア魔法学園でもまた教えてくださったらいいのに」
ゼスラとエリシャが嬉しそうに話している。
彼らの学年が入学する前にノエルが退任したから、彼らにとっては初めての授業だ。
「まあまあだな。……まあ、オーリク先生より噛み砕いて話してくれている気はする」
バージルはふんと鼻を鳴らしたが、手元にあるノートにはノエルが授業中に話した魔術のポイントがしっかりと書き記されている。
もしかすると、兄の授業を素直に褒めるのは照れくさいのかもしれない。
そうして授業の後、ノエルは希望する生徒たちの手合わせに付き合った。
生徒は五名ほどだが、朝から騎士たちの相手をしたノエルにとっては重労働だったはず。
おかげでノエルはぐったりと疲れてしまい、いつもの穏やかな笑顔を浮かべているけれど、どことなく疲れが滲み出ている。
「ノエル、大丈夫?」
私がさりげなくノエルの隣に立って囁くと、ノエルは眉尻を下げて困り顔になる。
「心配してくれてありがとう。さすがに疲れてきた。みんな好意的に接してくれるのは嬉しいのだが……あまりにも熱量が高くて怖い。消耗してしまったから、レティで回復させて」
そう囁き返してきたかと思うと、横から両手を回して私を抱きしめてきた。
オリア魔法学園の生徒たちとクレドニクス学院の女子生徒たちから「きゃあっ」とはしゃぐような声が上がる。
「ノ、ノエル?!」
他国の学校でなんてことを、とノエルを睨みつけたのだけど、眉尻を下げてしゅんとした表情で見つめ返されてしまう。
そんな顔をされると叱れない。
しばらく経ってもノエルが離れてくれないから、私はノエルにしがみつかれた状態で移動するしかなかった。
その様子がまた、生徒たちから保護者に伝えられてルドライト王国中の噂になるのだった。
実はまた新しく短編を公開しましたのでご紹介です。
『手紙の魔女~あなたの大切な人への最後の手紙、届けます~』
https://ncode.syosetu.com/n1605kk/
恋愛要素ありのハイファンタジーとなります。
よろしくお願いいたします!