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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十四章 黒幕さんは、獣人たちから盛大に歓迎される
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06.歌う生徒たち

『このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。(1)』電子書籍が各書店様で配信中です。

どうぞよろしくお願いします。

 エリシャが選んだ歌は、ジュリアンにかけられている呪いを解呪した時の歌だ。


 澄んだ歌声が部屋の中に響いており、第一王子殿下は目を閉じてエリシャの歌声を聞き入っている。


 室内にいる第一王子殿下の護衛をしている騎士たちも、先ほどまではキリリとしていた表情が和らいでおり、エリシャの歌声に癒されているように見える。


(たしかに素敵な声だけど……音楽祭の時よりもジュリアンにかけられていた呪いを解呪した時よりも緊張しているのが伝わってくるわ)


 他国の王子のために歌うのだから、緊張するなというのが無理な話だろう。


 エリシャは懸命に歌い続けるが、光の粒子が現れることはなく、歌は終盤に差し掛かってしまった。


(光の力はエリシャの心に作用しているようだから、どうにかして緊張を解かないと光の力を使えないのかもしれないわね)


 どうすればエリシャの緊張を解せるだろうか。


 声をかけたり……は、もうすでにしている。

 甘い物を食べてもらったり……は、歌っている間には無理だ。


(……そうだ、もふもふに撫れてもらうのはどうかしら?)


 それなら歌っている間でもできるはずだ。


 私は足元にいる身近なもふもふことジルに小声で声をかける。


「ねえ、ジル。ミュラーさんに撫でてもらいに行ってくれない? ミュラーさんはきっと、もふもふの毛並みに触れたら緊張が解れると思うの」

「はあっ?! 断る! 俺様は愛玩動物ではないのだぞ!」


 と、断固拒否されてしまった。


(どうしよう……もう歌い終わってしまうわ……) 


 もしも歌い終わってもなにも起こらなかったら、気まずい空気になるはず。


 その時に私からエリシャに「もう一度歌いましょう」なんて言ったところで、エリシャに更なるプレッシャーを与えてしまうような気がしてならない。


(ノエルに相談してみようかしら……)


 私はちらりとノエルに視線を向ける。


 ノエルはすぐに気づいてくれて、しかし微笑んで口元の前に立てた人差し指を添えるのだった。

 

 そのような仕草をされると話しかけづらい。


 成す術もないまま、エリシャが歌い終えてしまった。


 すると第一王子殿下が笑みを浮かべてエリシャに声をかけた。


「素晴らしい歌声でした。部屋に籠りっきりで欝々としていた心が洗われたようです。ありがとうございました」

「そ、そんな……私は第一王子殿下にかけられた呪いを解きたかったのに……」

「きっとこの呪いを解く方法はないのでしょう。だから、しかたがないのです。ミュラー殿が気落ちする必要はありませんよ。あなたのおかげで私は楽しい時間を過ごせたのですから、とても感謝しています」


 恐らく第一王子殿下は、解呪に失敗したエリシャが自分を責めないようにすぐに話しかけたのだろう。


 今も呪いのせいで苦しい思いをしているのに他国から来た人間を気遣ってくれるなんて、本当に優しい人だ。

 

(それなのに、このまま呪いに苦しめられて死ぬなんて、あんまりよ……!)


 どうにかして彼にかけられている呪いを解きたい。


 そのためにも、日を改めて再度エリシャに歌ってもらうよう提案しようか。


 考えを巡らせていると、不意にバージルが動き、エリシャの手を握った。


「もう一度歌うぞ。……今度は俺も一緒だ」

「バージル殿下……!」


 エリシャは驚いた顔でバージルを見た。

 バージルはやや照れくさそうに、手をつないでない方の手の指で自分の頬を掻く。


「さっきの歌は、エリシャらしくなかった。きっとそのせいで光の力が発動しなかったんだ……だから、その……一人で歌うのは……その、緊張しただろ? たぶん俺も一緒に歌ったら、少しは緊張しなくなって、エリシャの力が発揮できるようになると思うからさ……」

「……っ、ありがとうございます!」


 瞳を潤ませたエリシャに礼を言われ、バージルは「れ、礼を言われるようなことはしてねぇよ」とぶっきらぼうに言いながら顔を真っ赤にした。


 すると、エリシャの反対側の手をリアがつなぐ。


「それなら私も、一緒に歌うよ! ね、イセニック?」

「おっ、俺も……? 歌は苦手だが……いや、ユリオン殿下のために歌います!」

「それでは私も、兄上のために一緒に歌おう」


 二回目の歌手にイセニックとゼスラも加わる。

 

 みんなの連係プレーのおかげで気まずい空気がすぐになくなり、二回目の挑戦までこぎつけられた。


(私がアドバイスしなくても、みんなが自分の力で解決策を模索していたのね)


 みんなが協力する姿を見て胸が熱くなる。


 そんな私に、ノエルがそっと耳打ちする。


「生徒たちは生徒たちなりに色々と考えているんだよ。それに、レティが教えている生徒たちだから、このような困難ならきっと、みんなで力を合わせて乗り越えられるはずだ」

「ふふっ、ありがとう。だけど私が教えたからではなく、みんなが優秀で優しい心の持ち主だから、乗り越えられるのよ」


 私はノエルに笑って見せると、今まさに歌い始めようとする生徒たちに視線を戻す。 


 みんなは顔を見合わせると、一緒に歌い始めた。


 エリシャは先ほどよりもリラックスしており、聞こえてくる声がのびのびとしている。


(あ、あれは――!)


 エリシャの周りに光の粒子が現れ、エリシャの周りをぐるぐると回る。


(お願い、第一王子殿下を治癒して……!)


 固唾を飲んで見守る中、光の粒子がエリシャから離れ、第一王子殿下の方へと移動して彼の体の中に消えていった。


 その瞬間、第一王子殿下の体が仄かな光に包まれる。


「――っ!」


 第一王子殿下が息を呑んだ。彼は胸元や腕に手を滑らせて、何かを確かめるように触れている。そして最後に足を少し動かすと、目を瞬いた。


 やがて歌が終盤に差し掛かり、光の粒子がより数を増す。

 第一王子殿下を包む光も更に強くなり――じゅっと何かを焼くような音が聞こえた。


 エリシャたちが歌い終えると、第一王子殿下はおもむろに体を起こした。


「兄上! 無理をしてはいけません!」


 ゼスラや護衛騎士たちやイセニックが慌てて駆け寄ると、第一王子殿下は片手を挙げてそれを制した。


「呪いが解けたのだよ。石化していた体が元に戻り、感覚があるんだ。それに、体がとても軽い」

「それでは、呪いが解けたのですか?!」


 ゼスラの問いに第一王子殿下が微笑んで頷いた。


「ああ、君たちのおかげだ」

更新お待たせしました!

エリシャのために一生懸命なバージルをお楽しみいただけましたら嬉しいです(*´︶`*)♡

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