04.保護者に謁見
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馬車はゆっくりと着地すると、鳥の獣人らしき人たちの案内で一本道を走る。
王宮へと続く一本道の両側には、ルドライト王国の国民たちが集まっている。
「すごい人ね。みんなゼスラ殿下の帰省を喜んでいるのね」
「なんだか、歓迎だけのようには見えないような……」
一緒に窓の外を見ていたリアが顎に手を添えて、思案顔で呟く。
「まるで、なにか強い力に魅せられたような表情をしているような気がするんです」
集まった人たちの顔をよく見てみると、彼らはゼスラが乗っている馬車を注視している。
たしかにその目は喜んでにこやかにしているというより、カッと目を見開いて魅入っている状態ように見えた。
「誰かが魅了魔法でも使っているかのようだわ……」
とはいえ、あの馬車に乗っている面々――ノエルとゼスラとイセニックとジュリアンがそのようなことをするはずがない。
(ノエルは何もしなくても周りの人を魅了するところはあるけれど……まさかね……)
いくらなんでも、屈強な力と精神力を持つとされる獣人を魅了してしまうことはないはず。
私は視線を外して異国の建物を眺めた。
そうして馬車は一本道を進み、ついに王城の入り口の前で停まった。
「わあっ、ノックス王国のお城とは全然違う造りですね!」
「よく見ると壁にも柱にも繊細な模様が彫刻であしらわれていて素敵です!」
リアとエリシャが歓声を上げる。
ルドライト王国の王城は前世の世界で言う中東にある宮殿のような建物だ。
眩いほどの白い石造りの建物は円形の屋根を中心に、左右対称に裾野を広げている。
一階部分は壁が少なく、いくつもの柱が並んでいるのだ。
馬車の扉が開くと、金色と黒色のツートンカラーの髪が特徴的な虎の獣人の男性が現れた。
ルドライト王国の外交官だと自己紹介してくれた。
「皆様、ようこそルドライト王国へ。遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」
「初めまして。オリア魔法学園で魔法薬学教師をしているレティシア・ファビウスです」
エリシャとリアも続いて自己紹介する。
「あの、ゼスラ様と同じ馬車に乗っていたあの黒髪の男性は何者なのですか? とてつもなく強い気配があり、さきほどからここにいる全員が彼のことが気になって仕方がないんです!」
外交官は目を輝かせ、そして鼻息荒く聞いてきた。
あの馬車に乗っていた黒髪の人物と言えば、ノエルしかいない。
「あ、あの人はノエル・ファビウス――私の夫で、魔術省で働いていまして……」
ノエルの方を見ると、白金色の髪に犬耳がついている、イセニックににた容姿の男性に興奮気味で話しかけられてやや困り顔になっている。
周りを見回してみると、外交官の言う通り他の要人たちもまたノエルに魅入っている。
(まさかと思っていたけれど、本当にノエルが魅了していたなんて……)
どうやらノエルは獣人たちも魅了してしまうらしい。
なんやかんやで、やはりこの世界で一番強い人間はノエルなのかもしれない。
◇
ノエルたちと合流した、私たちは先ほどの虎の獣人や宰相をしている狼の獣人――イセニックの父親の二人の案内で謁見の間に辿り着いた。
謁見の間は天井が高く、壁には美しい幾何学模様が施されており、神聖な雰囲気がある。
奥にある玉座には壮年の男性がどっしりと座っている。
(あの人が、ゼスラの父親――ルドライト国王陛下ね)
ゼスラとイセニックがその場に膝をついたので、私たちもそれに倣う。
膝をついて頭を垂れるのは、ルドライト王国では王族に礼をとる時の作法だ。
「顔を上げなさい」
ルドライト国王陛下の、厳めしくも落ち着いた声に顔を上げる。
彼の群青色の髪と金色の瞳はゼスラと同じだ。
強面な顔立ちで、切れ長の目はやや鋭い印象がある。
金色の瞳が一瞬だけ、ノエルに向けられた。
「……なるほど、このお方が例の……」
小さく呟くと、そっと視線を外して私たちを順に見た。
「ルドライト王国によく来てくれた。貴殿らの来訪に感謝する。――そしてゼスラ、息災そうでなによりだ。帰ってきてくれて嬉しいよ」
ふっと相好を崩してゼスラに柔らかな笑みを向ける。遠い異国の地で生活している息子を優しく迎えてくれているようだ。
「兄上の容態は?」
「……悪化する一方だ。寝室で休んでいるが、顔を見せるといい。お前の帰りを心待ちにしている」
「……かしこまりました」
ゼスラの声音にいつもの泰然とした雰囲気がない。不安を滲ませた声だった。
「さっそく、皆に兄上を紹介します。みんな、私について来てくれ」
私たちはゼスラの後に続き、彼の兄がいる部屋へと向かった。
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