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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十四章 黒幕さんは、獣人たちから盛大に歓迎される
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03.ドラゴンの先輩

 私たちの目の前に現れたナタリスは、その後も私たちの馬車に並走するように飛行を続けた。


 そうして休憩地点のノックス王国南部にある街に着くと、先に馬車を降りたノエルがややご機嫌斜めな表情でやって来た。


「あのドラゴン……まだレティを諦めていなかったのか」


 ナタリスはもともと、メルヴェイユ王国の国王のルスがノエルに贈った、禁術を施すための生贄のドラゴンだった。


 だけどノエルがその禁術を途中で止め、その隙にナタリスは逃げ――ノックス王国に辿り着いた。

 それ以来、ナタリスはノックス王国で暮らしているみたいなのよね。

 

(たまに顔を見せに来てくれているけど、普段はどこでどう過ごしているのか全くわからないわ)


 群れで過ごしているのか、ひとりで過ごしているのかもわらないのだ。


「私についてきたわけではないと思うわ。だって、ナタリスにはルドライト王国へ行くことを教えていないもの」

「偶然見かけたからついて来たのだろう」

「それにしては、あまりにもタイミングが良すぎるわ」


 ノエル越しにナタリスを見遣ると、ゼスラと一緒に話している。

 ナタリスはゼスラの背より遥かに大きいけれど、まるで猫のようにゼスラに頭を擦りつけて甘えている。


「おい、無礼者! ゼスラ様に擦り寄るな!」


 イセニックが鬼のような形相で叱っているけれど、ナタリスはしらんぷりだ。

 

「よせ、イセニック。ナタリスはまだ雛だ。それに、幼い頃に群れや親からはぐれてしまったのだから、世の勝手を分かっていない。大目にみてやれ」


 雛というにはかなり無理のある大きさだけれど、ゼスラにとってナタリスはそのように見えるらしい。


 そして、もう一つ気になる事がある。


「ど、どうしてゼスラ殿下がその子の名前を知っているの?!」


 私がナタリスを保護して名付けたのは三年前だ。その時にはまだ、ゼスラはノックス王国に来ていないはず。


 するとゼスラは微笑みを浮かべる。


「ナタリスが教えてくれた。ファビウス先生が名付けてくれて、とても気に入っていると言っているとな」

 

 と、答えながらも、引き続きナタリスを撫でている。


 顎の下を撫でてもらって気持ちよさそうにしているナタリスは、やっぱり猫のように見える。


「実は入学して間もない頃に、学園の上空を飛んでいるところを見かけて声をかけたのだ。雛なのに一頭でいるところが気になってな」


 それはちょうど、ナタリスが私に会いに来た時だったらしい。


 ナタリスをドラゴンの雛だとわかったゼスラは自身もドラゴンの姿になり、ナタリスに声をかけた。

 

 二人の交流は、そこから始まったそうだ。


「ナタリスの生い立ちについて。色々と聞かせてもらった。メルヴェイユ王国には戻りたくないからノックスに留まると言っていてな。とはいえノックスのドラゴンの群れにはまだ会ったことがないらしいからから、先輩としてドラゴンの作法を教えている」

「な、なるほど……」


 ドラゴンの獣人であるゼスラは、同じドラゴンであるナタリスを放っておけなかったらしい。

 今回ついて来たのも、ナタリスをドラゴンの獣人たちに引き合わせるためにゼスラが誘ったそうだ。


「ゼスラ様から手ほどきを受けるとは、羨ましい……」


 イセニックは妬ましそうにナタリスを睨みつける。

 羨ましいのであれば、イセニックも一緒にドラゴンの作法を教えてもらえばいいのに……。

 

「ファビウス侯爵の話も、聞かせてもらった」

「……そうですか」


 ゼスラの言葉に、ノエルは美しい笑みを浮かべるのだった。

 

(ノエルの話って……禁術の事かしら?)


 ナタリスがどこまでその事を話したのかはわからない。

 

 胸が騒めく。

 途中で止めたとはいえ、ノエルがドラゴンを生贄に禁術を使おうとしたのは事実だ。


 ドラゴンの獣人であるゼスラが、それを聞いてどう思うのか――。


(あまり、良い感情を抱くとは思えないけれど……)


 二人は、それ以上この話題を続けなかった。


   ◇


 休憩を終えて再度馬車に乗ると、そこからまた長い移動が始まった。


「海って、どこまでも広がっているね。今どこにいるのか、全く分からないよ」


 再出発してから、もうどれくらい経っただろうか。

 リアが窓の外を見て、溜息をついた。


 初めは海の景色にはしゃいでいたけれど、取り立てて変化のない景色が続くとさすがにお腹いっぱいになってしまったようだ。


 私も外を見て見ると、夕日が空を染めている。

 

「予定では、そろそろルドライト王国に着くわ。もう少しの辛抱よ」


 ゼスラと王国騎士団の騎士たちの話によると、空を移動すれば夜になる前に着くと言っていた。


 暗くなってしまうと馬車が着陸できなくなってしまうのではないかと不安になるけれど、ゼスラたちが念入りに話し合って決めたスケジュールだからきっと問題ないだろう。


「……安心しろ。島が見えてきたぞ」

 

 ジュリアンがそっと指差す先を見てみると、水平線に島の輪郭が形作られているではないか。


「わあっ! 本当だ!」


 リアは途端に元気になり、再び窓に顔を近づける。


 馬車が島に近づき、島を形づくる南国の木々の緑がよく見えるようになってきた。


「わあっ! 綺麗な色の鳥が飛んで――あれ、もしかして、人?!」


 驚くリアの声に釣られて顔を向けると、青や黄色やピンク色の翼を持つ美しい鳥の獣人たちが馬車の周りに飛んできた。


「ようこそ、ルドライト王国へ。皆さまの来訪を心より歓迎いたします」


 そう言い、鳥の獣人らしき女性が、魔法で花吹雪を起こした。

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