表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十四章 黒幕さんは、獣人たちから盛大に歓迎される
169/197

01.ある少女の記憶【五】

 空が、夕陽の色に染まっている。

 【私】は学園の庭園に向かって魔法をかけた。


 キラキラと輝く光の粒子が【私】の掌から零れ落ちると、辺り一面に広がっていく。

 

 これは、物探しの魔法だ。

 学園では教えない類の生活魔法で、エリシャは入学前に養父から教わった。


 ゲームの中のエリシャがゼスラのルートでそう話していた。

 ちょうど、今のシーンで――ゼスラが肌身離さずつけていたお守りを落として探していた時のことだった。


 お守りを見つけるために、ゼスラは寝る間も惜しんで学園中を探していた。


「あ、ゼスラ殿下、ありましたよ!」


 光の粒子が何かに呼び寄せられるように、少し離れた場所にある一カ所に集まっている。

 【私】はそれを指差した。


 名を呼ばれたゼスラが、【私】の視界に入り込んでくる。


(ゼスラ、すっかりやつれているわね)


 いつもの泰然とした表情はなく、疲労の色が濃く滲んでいる。 

 しかし【私】が指し示した先を見ると、彼の金色の瞳に小さな光が宿った。


「さあ、行きましょう!」


 そう言い、【私】が彼に手を差し伸べると、やや躊躇いがちに手が重ねられる。


 【私】たちは光の粒子が集まる場所に辿り着くと、屈んで地面を覗き込む。

 そこには、瑠璃色の石で作られた竜の人形が落ちていた。


「探していた物は、この人形で間違いありませんか?」


 【私】は地面から拾い上げたその人形を、ゼスラに手渡す。

 ゼスラは両手で受け取ると、包み込んで額に押し当てた。


 まるで、祈りを捧げているかのような所作だ。


「ともに探して見つけてくれたこと、心から感謝する。私だけでは絶対に見つけられなかった」

「どういたしまして。とても大切な物なんですね」


 ゼスラは手を開き、再び人形を【私】に見せてくれた。

 人形は表面を磨き上げられており、ゼスラが手の中で動かす度に艶やかに光る。


「……ああ、兄上からいただいた。手ずから彫ってくださった物だ」

「お兄様がいらっしゃるのですね! どんな方なのですか?」

「強く優しく聡明な方だった。私も兄上のような人になりたいよ」

「だった……?」


 ぽつりと【私】が零した問いかけに、ゼスラは眉尻を下げる。


「兄上は昨年……身罷った。生前に兄が私宛にしたためた遺書が送られてきて、初めて知ったんだ」

「――っ!」

「兄上は長らく、呪いに苦しめられていた。体の一部が石化し、魔力の消耗が激しく――時には命の危機に瀕していた」

「ご、ごめんなさい。悲しい記憶を思い出させてしまいましたね……」

「私が何事もなく過ごしていたから、まさかそのようなことが起こっていたとは想像すらできなかっただろう。無理もない」


 ゼスラはオリア魔法学園に入学してから、一度も国に帰っていない。兄が亡くなっても、帰らなかったのだ。


「卒業するまで戻って来るなと、遺書に書いていた。兄上はきっと、私がひと度国に戻れば、学園を辞めると予想していたのだろう。ルドライト王国の発展のために多くを学んで来いと、書いてあった。兄は最期まで私を想ってくれていた」


 オリア魔法学園に――ノックス王国に来たのは、兄にかけられている呪いを解く手がかりを見つけるためだ。

 だから自分の死後、ゼスラがすぐに学園を辞めてしまうと予想した兄は、学園に留まるようにそう書いたのだ。


 全ては、ゼスラが善き王になるために。


 ゼスラを想ってのことだけど、その気遣いがゼスラにとっては酷なことだった。


「聞いてもらえて良かった。私はまだ、兄上を救えなかった後悔が胸の内につっかえていて、苦しく思っていた」


 兄を救うために意気込んで異国まで赴いたのだ。

 その悲願が叶わぬ夢となったのだから、彼の抱える絶望は計り知れないものだろう。


「エリシャ殿に話すと少し、心が軽くなった。私は誰かに、この気持ちを聞いてもらいたかったようだ」 

「ゼスラ殿下……」


 本人は心が軽くなったと自己申告しているけれど、彼の表情にはやるせなさが残っている。


 傷ついた微笑みを見た【私】は、自身の両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。


     ◇


「……むぅ、ウィザラバの夢を見てしまったわ」


 目覚めた私は、やるせない思いで天蓋を見つめる。

 ウィザラバの――前世でプレイしていたゲームの一場面が夢に出てくると、不吉でならないのだ。


「もう一度寝て、別の夢を見たら不吉な予感を打消しできるかしら?」


 ごろんと寝返りを打つと、耳元でノエルがクスクスと笑う声が聞こえてきた。次いで、頬に彼の唇が触れてちゅっと音を立てる。


「ダメだよ。もしもレティが寝坊したら、生徒たちに示しがつかないだろう?」

「そう言いながらも、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるのは誰なのかしら?」


 首だけ動かして睨んでみると、ノエルは嬉しそうにふにゃりと笑う。


「もう離れないといけないのが残念だ。そろそろ準備しよう」


 と、口では言っているのに、やっぱり離れようとしない夫だった。


 けっきょく私たちは、使用人たちが来るまでこの状態でいた。

新章スタートです。たじたじなノエルをお楽しみください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ