閑話:犬猿の仲(※ノエル視点)
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レティと美術館へ行った翌日、私は執事に言づけて執務室にローランを呼んだ。
彼とレイナルドについて、一度話し合いたかった。
ローランには、マルロー公の調査が終わるまではうちに滞在することになっている。そのため、執事が伝えに行ってほどなくして部屋に来た。
「さっそくだが、本題に入ろう。先日、私が留守の間にレイナルドに会ったと話していたな。どんな話をしたのか教えてくれないか?」
「<星影の旅人>について話しました。あの者に回りくどい言い回しをすれば、かえって逆効果だと思いましたからね。逃げ道を作らせないよう、単刀直入に聞いたのです」
「レイナルドはすぐに答えたのか?」
「ええ、隠すつもりもなさそうでした。……まあ、私もまた星の力を持っているとわかっているから隠さなかったのでしょう」
星の力を持つ者は用心深く、簡単には自らの正体を明かさない。
彼らは特異で強い力を持つゆえに人々から疎まれ、または利用されそうになるからだ。
「セルラノは危険です。星の力を持つ者たちを集めているのは、闇の王の国を創るためだと言っていました。このまま放っていては、大きな災いを呼ぶに違いありません」
予想はしていたが、レイナルドはまだ国を創ることを諦めていない。そして私を王位に就けようとしていることも、まだ諦めていないらしい。
一緒に方法を探っていこうといったではないかとレティが問えば、レイナルドはいつまで待てばいいのかと応酬する。
「一刻も早く、安寧の地に根を下ろしたい……か。待つつもりがないようだな」
「ええ、こちらが何を言おうと、全く聞く耳を持たないでしょう。早急に手を打つべきです」
「そうしたいところだが、メルヴェイユ国王という後ろ盾があるから下手に動けない」
今は友好的なメルヴェイユ国王だが、その腹の内に何を隠しているのかはわからない。
もしもレイナルドの望みがメルヴェイユ国王の利害と一致しているから手を貸しているというのであれば、間違いなく邪魔をしてくるだろう。
「メルヴェイユ国王は星たちに手を貸してノックスを弱体化させた隙に属国にしようとしているのか、それとも月の力と星の力をメルヴェイユ王国に取り込もうとしているのか……」
「あのお方ならあり得ますね。なんせ、強い魔術師を見つけては迎え入れていますから」
メルヴェイユ国王が強い魔術師を集めているのは、おそらく国内外を牽制するためだろう。
国外はもとより、国内にも敵が多い。
メルヴェイユ国は、強い魔術師でなければ王座に居続けられない国。だから守るべき民は自分の首を狙う敵でもある。
そんな彼らを周辺国は恐れており、制圧する機会を窺っている。
「とはいえ、何もしないつもりはありません。あの三下が闇の王の下僕を名乗るなど許せませんからね。王の下僕は私だけです!」
「私は……ローランを友にしたはずだが……?」
「そのような畏れ多い地位をいただけません。私はあなたの右腕でありたいのです。この国を去る時に伝えた通り、私は一生、忠実な家臣としてあなたに仕えると誓っていますので!」
「……そう……か……」
ローランの忠誠心の高さはブレない。
それはいいことだとわかっているが――友になるのをこんなにも頑なに拒まれると、いささか悲しくなる。
「あの陰湿な三下が、密かに私に呪詛をかけてきやがるのです。まあ、やられっぱなしになるつもりはありませんので、呪詛返ししてやっているのですが」
「頼むからノックスの国民を巻き込まない範囲で喧嘩してくれ」
「喧嘩ではありません! 闇の王の右腕の座を巡る戦いなのです!」
「……私のことで争うのは止めてくれ」
ローランとレイナルドの相性は最悪のようだ。あまり合わせない方がいいだろう。
「そういえば、闇の王はじきにルドライト王国を訪問するのでしたね。留守の間に何かあれば、私とミラとユーゴで対応します」
「ありがとう、よろしく頼む。ただ、ユーゴはランバート博士の引っ越しの手伝いで、すぐには動けないかもしれないな」
ユーゴとランバート博士は、王都に家を買った。
そこはかつて、ランバート博士が父親と住んでいた家だ。
二人はそこを新しい拠点にして、邪神の研究を続ける。
ユーゴは魔術省の官僚として二足の草鞋で動くから大変だろうが、月の力の事情を知る彼が近くで働いてくれるのはありがたい。
「ルドライト王国との国交は、メルヴェイユ国王も狙っている好機だ。あのお方との交渉材料を掴んでくるよ」
「ご武運をお祈りします」
すべては、レティとの平穏な生活のために。
私は、できる限りのことをしよう。
第十三章は本話にて完結です!
次章、いよいよ獣人の王国編となります!




