13.取り調べ
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――王城の地下。
そこには牢が並んでおり、奥には重厚な鉄の扉が鎮座している。
侵入者を睨むような表情の、フェンリルの彫刻が施されている扉だ。
「罪人たちはこの奥にいる。二人とも身動きも呪文の詠唱もできないようにしているから安心してくれ」
アロイスの言葉に、私はごくりと唾を呑み込んだ。
安心するよう言われても、地下が並ぶこの場にいると、どうしても不安になってしまう。
侵入事件があった二日後、ファビウス邸に王宮からの使者が訪れた。
マルロー公が目覚めたから、彼の取り調べをするために私とノエルを呼びに来たのだ。
そのような経緯があり、私は急遽学園を休み――ここにいる。罪人たちを収容するための、地下牢に。
(まあ、何かあってもこのメンバーならすぐに対処してくれそうね)
ノエルとアロイスとルス、それにジュリアンとユーゴくんと、ユーゴくんの師匠のメアリさんがいる。
たとえマルロー公とドーファン先生が暴れたとしても、ノエルとルスには敵わないだろう。
(……ようやく、この時が来たのね)
マルロー公とドーファン先生は今まで、先代の国王の陰に隠れたり、部下に罪を擦り付けていた。けれど、今はもう頼る相手がいない。
今度こそ彼らに鉄槌が下るだろうと信じている。その一方で、もしもの事態が起きるのではないかと思うと、不安を拭いきれないのだ。
そっと溜息をつく私を、ノエルが覗き込んでくる。
「レティ、顔色が良くないけど――大丈夫?」
「ちょっと不安になってしまったの。マルロー公の味方が現れたらどうしようと思うと、気が気でなくて……」
するとノエルの手が私の肩にまわり、そっと抱き寄せられた。
ノエルの両腕に包み込まれると、ガチガチに固まっていた心が解れたような気がした。
アロイスは魔法で扉を開ける。
開いた扉の先に、拘束されて床の上に座り込んでいるマルロー公とドーファン先生がいた。
そこに家具や備品といった類のものはない。
殺風景な空間だ。
「さて、楽しいお喋りの時間だ」
ルスが邪悪に微笑む。まるで悪魔の――いや、魔王の微笑みだ。
「お前たちは禁術の研究に手を出すのみではなく、罪のない人々を陥れた。被害者は身分も居場所も失った。命を奪われた者もいる――極悪非道の限りだな」
「わ、私は決してそのようなことをしていません! ヤニーナ・ドーファンと先代の国王がしたことです!」
マルロー公は喉が破れそうなほど声を張り上げる。
顔は真っ青だ。ルスに見つめられて、極度まで緊張しているのだろう。
それでも息を吐くように嘘をつくなんて、呆れを通り越して感心してしまう。
「嘘はつかない方がいい。己の首をしめているのだぞ」
アロイスは溜息をついた。
「無関係というのなら、貴殿が拘束されたあの地下の部屋は何だ? あそこに貴殿の血で扉が開くよう魔術が施されていた。昨日、個別での取り調べでヤニーナ・ドーファンは貴殿の依頼を受けて魔術をかけたと証言している」
その後、宮廷魔術師団に魔術を調べてもらったところ、確かに術者はドーファン先生で、鍵となるのはマルロー公たちの血だと判明したらしい。
「それでも認めないのであれば、別の話から進めよう。貴殿が多くの歴史学者を追放した件についてだ」
「そ、それは奴らが王族を侮辱するからで――」
「彼らが本当に侮辱していたのか、双方の話を聞くべきだろう――ランバート博士、貴殿に当時の状況を聞かせてほしい」
「ランバート博士?」
まるで、初めてその名を聞いたかのように、マルロー公は首を傾げた。
「その者が関係者だと仰るのですか?」
その問いに答えたのは、メアリさんだった。
「そうです。私は、あなたが追放した歴史学者のロジャー・ランバートの娘、メアリ・ランバートです」
「ロジャー……? 知らんな。俺を陥れるためにでたらめを言っているのだろう?!」
「……覚えていないのですか?」
「知らんと言っているだろう! そもそも、平民の名前なんて覚えていられるか!」
「予想はしていましたが、やはり覚えていないのですね。あなたはご自身が踏みにじった平民の一人なんて気にも留めないでしょうが、私たちは忘れません」
「うるさい! 平民のくせにでしゃばるな!」
マルロー公は、顔を真っ赤にして騒ぐ。
ランバート博士を忘れているようだ。わざと知らないふりをしているようには見えない。
ただ、メアリさんの家名を聞いて平民とわかるや否や下に見るような態度をとるのはいかがなものかと思う。
「ぐっ……!」
急に、マルロー公がうめき声を上げた。見ると、先ほどまでは真っ赤だった顔が真っ青になっており、額には脂汗をかいている。
その目はどこともない一点を見つめており、焦点が合っていない。
「ユーゴ、止めろ」
ノエルが静かな声で制した。まさかと思って振り向くと、ユーゴくんが険しい表情で、マルロー公を睨みつけている。
いつもは大型犬のように人懐っこい瞳が、今は憎悪を滲ませている。
「メアリさんたちの人生を滅茶苦茶にしたくせに、よくものうのうと……!」
「ユーゴ!」
ノエルが指先を動かすと、ユーゴくんの体がぐらりと傾き――その場に崩れ落ちた。
「ユーゴ!」
メアリさんがユーゴくんの体を助け起こすと、ユーゴくんはすうすうと寝息を立てているではないか。
「無意識のようだったが、精神干渉魔法を発動させていたから眠らせた。あのまま放っていたら、マルロー公の精神が破壊されて証言を取れなくなっていただろうし――なにより、私とユーゴの間で交わした契約は発動してしまうところだった」
「そうだったのね……止められて良かったわ」
「……ユーゴのような真っ直ぐな性格の人間は、無意識のうちに人を害してしまうこともあるとわかっていたから……」
だけど、とノエルは溜息と共に呟く。
「その事ばかりに気をとられて、ユーゴを危ない目に遭わせてしまった……」
「……その契約、ユーゴくんが目覚めたら取り消しましょう?」
「ああ、そうする」
ノエルは傷ついたような表情を隠そうとして、弱々しく微笑んだ。
大切な部下を失いかけたことが、堪えたようだ。
その後、私たちはマルロー公が意識を取り戻すのを見計らって、取り調べを再開した。
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(商品がなくなり次第終了となりますのでご了承ください)