06.隠れて、探って
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マルロー公を見つけた私たちは、生垣に隠れて彼を観察する。
息を凝らして見守っていると、苛立ちが込められた声が聞こえてきた。
「陛下の許可を貰えないから、あの部屋へ行けないではないか!」
次は何を企んでいるのだろうか。
陛下の許可――つまり、アロイスに頼みごとをしたけれど、拒否されたらしい。
(どんな頼み事をしたのかわからないけれど、断って正解よ。きっと碌でもない事を考えているに違いないわ)
推しの英断に、心の中で拍手を贈る。
「くそっ……どうしたらいいんだ。今すぐにでもあの部屋へ行って、証拠を全て焼き払ってやりたいのに……!」
マルロー公が溢した大きすぎる呟きに、私たちは顔を見合わせた。
「証拠……って言いましたよね?」
「ええ、言いましたとも。詳しくはわかりませんが、マルロー公の弱みになる情報がありそうですね。あんなにも焦っているのですから、よほど後ろめたいものがあるように思えます」
「そうですね。もしかすると、彼がこれまでに犯してきた罪の裏付けになりそうな証拠が、隠されているような気がします」
先代の国王と手を組んでいた頃の悪事か、はたまた、歴史学者たちを陥れてきた時の証拠か――。
彼のことだから、その他にも罪状がありそうだ。
(何かわからないけれど、そこにマルロー公の弱みがあるのなら、行ってみるしかないわね!)
しかし肝心のその場所が、王宮のどこにあるのかわからない。
さすがのマルロー公も、大きな独り言でその場所を吐いてくれなかった。
こうなったら、彼を尾行してみるしかないようだ。
(そうして情報を集めて、マルロー公が隠している証拠を暴いてやるわ!)
小さく拳を握って気合を入れていると、隣からダルシアクさんの視線を感じた。
「……ん? ダルシアクさん、どうしたんですか?」
ダルシアクさんはなぜか、すうっと目を細めて私を見ている。
正確に言うと、睨めつけているのだ。
「……マルロー公を尾行してはいけませんよ?」
「ど、どうして、そのような事を言うんですか!」
「あなたが考えていることは手に取るようにわかるから言っているんです。マルロー公の後をつけて、部屋を探すおつもりでしょう?」
まるで心の中を読まれたかのように把握されている。
あまりにも正確に読まれているものだから、思わずぎくりと肩を揺らしてしまった。
「そうですけど、それでなぜ私を睨んでいるんですか?」
「わかりきっていることでしょう。これ以上、闇の王の心労を増やさないでください!」
「だけど、このままだと被害者が増えるかもしれないんですよ? これ以上、野放しにできません!」
「それをわざわざあなたが探る必要はありません。大人しくじっとしていてください!」
睨み合っている私たちの間に、ミラが割って入ってくる。
私とダルシアクさんの肩に腕を回して、ぐっと引き寄せてきた。
「ローラン、何を言っても無駄よ。こうなったらもう、レティシアを止められないもの。観念してついて行きましょう?」
「しかし……それでは闇の王の気が休まらないではないか」
「月のはこの事態を見越して、あなたを呼んだのよ。だから私たちのするべきことは、レティシアのお守だわ」
どうして護衛ではなくお守と言うんだ。
しかもダルシアクさんは突っ込みも訂正もしないのは何故なんだ。
じっとりと睨む私を、ダルシアクさんは気づいているくせにわざと無視して。
「……はあ、しかたがありませんね。闇の王から便りをいただいた時から、こうなるとは覚悟していましたから」
深い溜息をつくと、片手で眉間を揉んだのだった。
手のかかる子ども扱いされるのは非常に遺憾なのだけど、おかげで私は、マルロー公を尾行できるようになった。
……夫がつけた、私の見張り役たちと一緒に。
実は異世界転移ものの新作を始めましたので、よろしければ暇つぶしにどうぞ!
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