06.隠されていた証拠(※ノエル視点)
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メルヴェイユ国王を見たヤニーナ・ドーファンは、随分と怯えている。
(よほど恐ろしい尋問を受けたのだろうな)
メルヴェイユの外交官から送られた報告書では、ヤニーナ・ドーファンは拘束後、メルヴェイユ国王から直々に尋問を受けていたそうだ。
(魔術師たちから寝首を搔かれないためには、ヤニーナ・ドーファンを見せしめにする必要があったからな)
実力主義の考えが根強いこの国では、力のある魔術師は国王を玉座から引きずり降ろそうとする。
だから歴代の国王は、己の強さを国民たちに見せつけてきた。
先々代の王――現王の父君を除いて。
(現王は、父親を謀反で失ったから、国民を警戒している。……自分の身の回りの世話を、契約した魔獣たちにしかさせないほど、人間を信用していない)
彼を見ていると、国王とは孤独な生き物だと、つくづく思い知らされる。
「俺の問いかけに対してだんまりか。いい身分だな」
メルヴェイユ国王は蹲るヤニーナ・ドーファンを見下ろすと、震える彼女を鼻で笑った。
「も、申し訳ございません! このような場所に陛下が自ら来るとは思いも寄らず、驚いてすぐには喋れなかったのです!」
必死に弁明する罪人を眺めている様は、悪戯に鼠をいたぶる猫の如く愉快そうで。
傍から見れば、メルヴェイユ国王の方がどうしようもない悪人に見えてしまう絵面だ。
「さて、余談はここまでにしようか。生憎俺は忙しい身だからな。罪人一人のために多くの時間をとれないんだ」
メルヴェイユ国王は身につけている指輪に触れた。
その指輪から強い魔力が迸ると、彼の瞳が仄かな光を宿す。
自白魔術が展開され、彼の強い魔力が周辺にまで広がり始めた。
月の力のおかげで私には効かないだろうが、念のため防御魔法を自分にかける。
「ヤニーナ・ドーファン、お前はノックス王国で聖遺物を使った実験をしていただろう?」
「いいえ――はい……――っ!」
まさか自分が自白魔術をかけられているとは思ってもみなかったのだろう。
ヤニーナ・ドーファンは瞠目して、自分の口を塞いだ。
「さて、その実験はどこでしていた?」
「ぐっ……ううっ……、ノックスの王宮です」
「ノックス国王以外の関係者はいるのか?」
「うっ……はい。マルロー公をはじめとする第一王子派の貴族たちです」
「奴らとはどのように知り合った? 奴らとはどのように手を組んでいた?」
「むぐっ……先代のノックス国王に紹介されました。月の力について研究するために、実験体や資料を用意してもらっていました――くっ!」
抵抗しようとして口を手で押さえるなど試みていたが、いずれも効果はなかった。
メルヴェイユ国王が質問すると、口が勝手に動き、全て話してしまうのだ。
滑る口を止めようと必死になっている罪人を見て、メルヴェイユ国王はせせら笑った。
「なるほどな。マルロー公たちはどこからその資料を手に入れたんだ?」
「う、奪っていました。歴史学者や力のない貴族たちを陥れて、取り上げていたのです。彼らの著書を手元に一冊ずつ残し、残りは焚書として燃やしました。そうして、私たちの計画の妨げとなる歴史学者たちを、王族を侮辱する罪人として追放しました」
「盗賊となんら変わりない野蛮な奴らだな。その研究資料はどこにある?」
「――ノックスの王宮の地下に、関係者の血を滴らせると現れる部屋があります。その中に隠しています」
アロイスも取り調べをしていた騎士たちも、まさか王宮の地下にそのような魔術が施されているとは思わなかったのだろう。
地下には先代の国王が用意した研究室があったから、そこに気を取られていたから気づけなかったのかもしれない。
偶然にも先代の国王が供述をせず、エルヴェシウス伯爵も言及しなかったから、マルロー公は悪事を今まで隠し通せたのだろう。
(だが、その運はもう尽きたようだな)
メルヴェイユ国王に目を付けられて、無事でいられるはずがない。
彼は獲物を徹底的に刈り取る猛獣なのだから。
「マルロー公の血もその部屋の鍵となるのか?」
「はい。この件に関わっている人間全ての血に反応するように、私が魔術を施しましたから」
「面白い。マルロー公をその場所へ連れて行き、その血で部屋を呼び寄せるのもまた一興だな」
メルヴェイユ国王の顔に嗜虐的な色が乗る。
彼は早くも頭の中に、マルロー公を追放する筋書きを描き始めているようだ。
「月の、これから楽しくなるぞ」
「ええ、そのようですね」
ノックスに帰ってマルロー公を追放し、そして黒い影の調査を本格的に動かす。
忙しい日々の幕開けとなるだろう。
(……レティと一緒に過ごす時間が減ってしまいそうだ)
ただでさえ一緒にいられる時間が限られているというのに、これ以上会えない時間が増えるなんて酷な話だ。
(マルロー公、早く片付けるから覚悟しておけ)
これ以上、奴の為に時間を割きたくはない。
だからノックスにいるマルロー公に向けて、心の中で呪詛を唱えた。
その頃、ノックスにいるマルロー公は寒気がして震えていたそうです。