04.星の事情
すみません!
現在修羅場でして、更新が若干遅れます!
セルラノ先生が部屋を出て、扉がパタンと音を立てて閉まる。
しんと静まり返ると、ダルシアクさんが溜息をついた。
先ほどまでの余裕はどこへ行ったのやら、その顔には疲労が滲み出ている。
「ダルシアクさん、随分と疲れた顔をしていますよ。大丈夫ですか?」
「実に厄介な同族のせいで本当に疲れました。想像していたよりも遥かにいけ好かない奴ですね」
「いけ好かない、ですか」
「ええ、人を見下した物言いで腹が立ちます」
「……」
ダルシアクさんが他人に言えることではないと思う。
それは同族嫌悪なのではと突っ込みを入れそうになったけれど、言うとまた嫌味を言ってきそうだから、黙っておくことにした。
「ところで、ノックスに戻ってきて大丈夫なんですか? 今は国王陛下から提示された特例の期限が過ぎたから、騎士たちに見つかると拘束されてしまいますよね?」
かつてメルヴェイユと手を組んでいたことをみんなの前で明かしたダルシアクさんは、今は密通者としてお尋ね者だ。
ノックスを出るまでは、残虐な魔術師であるヤニーナ・ドーファンから国を救ったとして、特例で目を瞑ってもらっていたのだ。
だけど今は、その特例の時期が終わってしまった。
「心配には及びません。出歩くときは、姿変えの魔術具で容姿を変えていますので」
そう言い、ダルシアクさんがシャツの袖を捲り上げると、銀色の腕輪が顔を覗かせる。
ダルシアクさんが腕輪に魔力を送り込むと、一瞬にしてその姿が変わった。
真っ赤な髪は水色へと変わり、瞳の色も淡い水色へと変わる。
そして仏頂面が、柔和な顔つきへと変わった。
「その髪と瞳の色、ミラとお揃いですね」
そう言うと、私に抱きついているミラが、嬉しそうにふにゃりと笑った。
「ふふっ。そうでしょ? せっかくだから好きな色にしたんですって。私も変装するときはローランの色に変えたいわ」
「あらまあ、お熱いこと」
ミラとダルシアクさんが上手くいっているようで安心した。
嬉しそうに話すミラの表情や言葉から、幸せに暮らしているのが伝わってくる。
「ところで、セルラノ先生が率いている<星影の旅人>について教えてください。どれくらいの規模の集団なんですか?」
「今はまだ十数人と少ない人数で構成されていますが、一人一人の魔力が高いですし……夢を操る魔術を使える魔術師ばかりですので、かなり危険な集団です」
「国を一つ作ろうとしているから、争いは避けられませんよね……」
「ええ、時が来ればどこかの国を狙うに違いありません。そうなる前に止めなければなりません。今は闇の王と共に、彼らを解散させる手立てを考えているところです」
「そうだったんですね……」
ノエルからは何も聞かされていないから、知らなかった。
一体、いつからノエルは動きだしていたのかしら。
(どうして私には教えてくれなかったの……?)
私を不安にさせない為と言うのなら、むしろ教えてほしい。
ノエルに関わることなら知っておきたい。
もしもの事があった時、ノエルを守りたいから。
「<星影の旅人>は基本的には単独行動をとっています。決まった本拠地はなく、その時々で場所を変えて集まり、お互いの状況を報告し合っているようです」
ダルシアクさんが彼らの存在を知ったのは偶然だった。
星の力を持つ者を探し出しては、仲間になってほしいと声をかけていたところ、<星影の旅人>に所属する者と出会った。
<星影の旅人>に所属している者は、ダルシアクさんの誘いを断ったらしい。
自分たちの国を創りたいから、ただの仲良し集団には加われないと言い、ダルシアクさんの誘いを断ったそうだ。
「――<星影の旅人>を率いているのがセルラノ先生だと、どうしてわかったんですか?」
「話を聞いていた星の力を持つ者のうちの一人が、あの者の名前を零したんですよ。ちょうど、闇の王から彼の名前を聞いていたのですぐに一致しました」
「だから本人に直接会って、噂通りの人なのかを確かめに来たんですね?」
「ええ、話に聞いているよりも傲慢な奴ですね。あの三下ごときが人を集めて闇の王を動かそうとするなんて烏滸がましい。今すぐにでもあの鼻をへし折ってやりたいくらいです」
先ほどの会話を思い出したのか、ダルシアクさんは苛立たしそうに眉根を寄せた。
ノエルの手下としてではなく、私怨を感じるのは気のせいかしら?
「とにかく、あの者には気をつけてください。闇の王を動かす為なら、あなたを利用することさえ厭わない人間でしょう」
「わかりました。なるべく近づかないようにします」
それから私たちは、一緒にファビウス家の馬車に乗ることになった。
どうやら、ダルシアクさんたちが滞在するようノエルから指示が出ているらしい。
ダルシアクさんとミラに連れられて馬車の停留所まで向かっていると、不意にダルシアクさんが足を止めた。
「どうしましたか?」
「――静かに。近くでマルロー公が喚き散らしていますから様子を見ましょう」
「ええっ?! あの人、また学園に来ているんですか?」
まさかと思いつつダルシアクさんの視線の先を見てみると、彼の言葉通り、マルロー公が顔を真っ赤にしてなにやら文句を言っている。
(あの人、頻繁にこの学園に来ているわね……)
公爵としての仕事があるだろうに、何度もここに来る暇なんてあるのだろうか。
(それとも、部下に丸投げしているとか?)
理事長に近づいて周りを牽制しているマルロー公なら、有り得そうな話だ。
私たちは物陰に隠れ、マルロー公を観察することにした。




