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03.星々の邂逅

 部屋の中に入ってきたレイナルド先生は、ダルシアクさんとミラを見ると、コテンと首を傾げた。


「おや、来客中でしたか。そちらのお二方はファビウス先生のご友人ですか?」

「え、ええ。二人とも私の友人で、訪ねて来てくれたんです」

「ふむ……そうでしたか」


 セルラノ先生の銀色の瞳が、真っ直ぐにダルシアクさんを見据える。

 一瞬だけ、その瞳に翳りが差したように見えたのだけど、気のせいかしら?


「初めまして。オリア魔法学園で治癒師をしている、レイナルド・セルラノです」

「おや、肩書はそれだけではないでしょう? メルヴェイユ国王の隠密、それに、星の力を持つ者を集めた魔術師集団<星影の旅人>の代表も兼任する、多忙なお方だと存じております」


 ダルシアクさんの話によると、<星影の旅人>の魔術師たちは、いわば魔術師版の傭兵集団のような組織らしい。


 彼らの存在を知るのはごくわずかで、そのほとんどが国の要人なのだとか。

 極秘の任務を彼らに依頼し、その対価として高額の報酬を支払っているそうだ。


(セルラノ先生が、益々危険人物になってきたわね)


 傭兵集団の長がこの学園にいると、いつか恨みを持った人物に襲撃されそうで不安になる。

 絶対に生徒たちを巻き込まないでほしいわ。


「……なるほど。近頃、我々の周辺を嗅ぎまわっていたのは、あなたでしたか」

「嗅ぎまわっているとは人聞きの悪い。私が声をかけようとした者たちが偶然あなたの配下の者だっただけです」


 ダルシアクさんとセルラノ先生はどちらもにこやかに微笑みを交わしている。

 しかし二人を中心に周囲では冷気が渦巻いていて、穏やかではない。


 質問に来た生徒がこの冷気に巻き込まれないよう、早く二人を離した方が良さそうね。


「と、ところで、セルラノ先生はどのようなご用件でここに?」

「医務室に常備する薬草の事で相談しに来ましたが、来客であれば明日出直しますね」

「ハッ。嘘も大概にしてください。私の魔力を感知したから、偵察に来たのでしょう?」


 ダルシアクさんが会話に割って入ってくると、セルラノ先生は笑みを深めた。


 その笑みに並々ならぬ威圧が込められているのか、見ていると薄っすらと恐怖を感じてしまう。


 震え上がった私は、思わずウンディーネにしがみついた。


「おやおや、ダルシアク殿は自意識過剰ですね。生憎、私は忙しい身ですので、メルヴェイユ国王に捨てられ、ノックスではお尋ね者となった星屑ごときに構っている暇なんてありませんよ?」

「フン。私は闇の王が信頼してくださっていればそれでいいのです。私は星の力を持つ者の中では一番、あのお方の信頼を得ていますからどこぞの狂った妖星とは違うのですよ」


 笑顔で罵り合っているこの二人は、かなり相性が悪いようね。

 混ぜるな危険といったところだわ。


 同じ「星の力を持つ者」同士でも、相性があるようだ。

 ユーゴくんとは上手く付き合えているけれど、セルラノ先生とは馬が合わないみたいだもの。


「この際だから、<星影の旅人>の団長殿に聞いておきましょう。星の力を持つ者を集める目的は何なんです?」

「私たちの安寧の地を得て、主を王にすることですよ。星の力を持つ者は流浪を強いられてきましたが、我々だけの国を作れば、追放されることもないのですから」

「セルラノ先生! その件は、一緒に方法を探っていこうと言ったじゃないですか!」

「それでは、いつまで待てばいいのです? 私たちは一刻も早く、安寧の地に根を下ろしたいのですよ」


 そう言葉を紡ぐ声は、震えていて。

 いかに彼が切望しているのかを物語っている。

 

「ローラン・ダルシアク殿。安寧の地の獲得は、あなたにとっても悲願なのではないですか?」

「……ええ、一度は夢見たことではありますね」 


 ダルシアクさんはどこか遠い目をして、ぽつりと答えた。

 これまで彼が失ってきたものを懐かしがっているような、そんな表情で。


 故郷に家族、そして平穏。

 星の力を持つ者たちはそれらを全て失い、流浪の旅をする。


 生まれながらに持ってしまった、特異な力の所為で――。


「しかし、闇の王はそれをお望みではない。あのお方は平穏を所望しているのですから、私はあのお方が望まないことは強要しません」

「残念です。それでは私が、あのお方を説得し続けましょう。あのお方がその気になれば、一夜にして世界を一変させるでしょうから」

「……やれやれ、<星影の旅人>の長は血の気が多いという噂は、本当だったようですね。セルラノ殿、もし闇の王とその伴侶を巻き込もうとしているのであれば、私は同族討ちも辞さない覚悟ですから、覚えておいてください」

「血の気が多いのはどちらやら。ご安心ください。そのうち主は我々の手を取るようになってくれますよ」

「闇の王は絶対にあなたの手を取りません。もしもあのお方の平穏を邪魔をするなら、旅団ごと消し炭にして差し上げますよ」


 ノエルを巡って、二人が火花を散らしている。

 ここはもう、ノエルを召喚して、「二人とも、私のために喧嘩しないで!」と言って止めてもらいたいくらいだ。


「――話が通じませんね。せっかく強い力を持っているのに有効活用しないとは、非常に残念です」


 セルラノ先生は踵を返すと、部屋から出て行った。


「ダルシアク殿。素直にならないと何も得られませんよ。あなただって、心の底では流浪の生活の終焉を望んでいるくせに」


 そう言い残して――。


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