06.恋に青春に忙しい
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学園祭が近づき、オリア魔法学園は活気に満ち溢れている。
演劇をする生徒たちがあちこちで練習していたり、出店を出す生徒が魔法でワゴンを作ったり、生徒会の生徒たちが屋外ステージを作っていたり――。
その様子を見ているだけでもワクワクして足取りが軽やかになる。
「さてさて、早くみんなに差し入れを届けなきゃ」
今日はみんなで舞台の大道具や小道具を作っていると聞いたから、差し入れのお菓子や飲み物を持ってきた。
お菓子は食堂の料理人たちにお願いして作ってもらった、出来立ての一口ベリーパイ。
採れたてのフラーグムを使ったジャムとお手製のカスタードの組み合わせが絶妙で美味しく、試食で二個も食べてしまった。
飲み物は、私が薬草で作ったアイスティーだ。
クセのない香りの薬草と、のど越しが良くなる薬草を使ったとっておきのレシピのアイスティー。気に入ってもらえるといいな。
「みんな、お疲れ様。そろそろ休憩しましょう?」
生徒たちを見つけた私は声をかけて、差し入れを入れたバスケットを掲げて見せる。すると、生徒たちが目を輝かせて集まってきた。
「わーっ! 美味しい!」
リアが笑顔で食べていると、彼女の隣にいるイセニックがリアの口元に触れた。
(えっ?!)
思わず声が出そうになったのを堪えて見守っていると、リアもまた、驚いて目を見開いている。
「口の端にジャムがついていたぞ。気をつけて食べろ」
「そ、そうだったんだ。拭いてくれてありがとう」
「ああ」
と、ぶっきらぼうに返事して、ジャムを拭った指をぺろりと舐める。
(な、ななな……舐めた?!)
その様子を見ていたリアが顔を赤くする。私もつられて頬に熱を宿す。
(この二人、確実に進展している気がする)
リアとイセニックがダンスの担当になってからというもの、以前にも増して二人の距離が近い気がする。
無自覚のようだけど、イセニックがやたらとリアに構いたがるのよね。
「青春が眩しい! 最高だ!」
私と同じく二人の様子を見守っていたゼスラが、嬉しそうな声でそう呟いた。
この攻略対象はまだ、自分が恋を始める気はないようだ。
(――さて、ヒロインの様子はどうかしら?)
エリシャは一口パイを片手に、サミュエルさんと打ち合わせをしている。
そしてその二人の様子を、少し離れた所で大道具作りをしているバージルが高速で釘打ちしつつ監視しているのだった。
バージルの眼差しは、今にもサミュエルさんを射抜きそうなほど鋭い。
(こっちはこっちで、青春しているわね)
どうやら学園祭の打ち合わせでエリシャとサミュエルさんが一緒にいる事が多くなってしまい、バージルはサミュエルさんに嫉妬しているようだ。
ただエリシャと一緒に準備をしているだけでバージルに嫉妬されてしまったサミュエルさんには同情するわ。
「ゼスラ殿下、演劇の準備は順調そうね」
「そうだな。あとは主役がもっと役に入ってくれるといいのだが……」
ゼスラが腕を組んで小さく肩を落とす。
今回の演劇の主役は、リアとイセニックだ。
二人が立候補したのではなく、推薦で決まったらしい。
今回の演劇のためにゼスラが書いたシナリオは、架空の国が舞台の恋愛もの。
とある国で修行に励む魔女が、異国の王子と出会って恋をして、身分や国の壁を越えて愛を誓い、結ばれるお話。
魔女の役をリアが、異国の王子の役をイセニックが演じる事になっている。
きっと同級生たちは、この学園祭をきっかけに二人をくっつけようとして彼らを推薦したのね。
「さあ、そろそろ演劇の練習をしましょうか。今日は通しでしましょう」
サミュエルさんが全員に声をかけると、生徒たちは集まってそれぞれの配置につく。
私はゼスラの隣で、練習を観ることにした。
物語の始まりは、リアとイセニックの出会い。
魔法の修行をしているリアに、イセニックが近づく。
(イセニック、緊張しているわ。手と足が一緒に出ているのに気づいていないみたい)
ゼンマイ仕掛けのロボットのようにぎこちない動きのイセニックが、リアに話しかける。
「や、やあ。魔女さん。少しいいかな?」
「あ、あら。お客様なんて珍しい。わたっ……私に何か用?」
二人はガチガチに固い微笑みを浮かべる。どちらも頬を赤く染めており、気恥ずかしさで演技に集中できていないようで。
(う~ん。どうしたらいいのかしら?)
学園祭の準備を初めてはやひと月だけどこの状態……。
このままでは本番もガチガチで演技をするに違いない。
二人は演技の練習をする前に、緊張を解さないといけないわね。
(お互いを意識しないようにと言うと、逆に意識してしまうわよね。アドバイスって難しいわ)
どうしたものかと悩んでいると、視界の端に理事長の姿を捕らえた。
(わお、黒幕が降臨したわ)
理事長はいつもの無表情で、生徒たちの演劇を見つめている。
(学園祭の準備の様子を見に来たのかしら?)
ウィザラバの夢を見てしまっただけに、今年の学園祭も何かが起こりそうな気がして不安だ。
だから私は黒幕の動向を探るべく、理事長に声をかけてみる事にした。




