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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十二章 黒幕さん、一緒に交渉しましょ!
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05.学園祭への誘い(※ノエル視点)

更新お待たせしました!

 王城を訪れる度に、胸の内に黒い靄がかかる。


 かつて先代の国王がこの場所で犯してきた罪を思い出しては、様々な負の感情が蘇るから。


 この場所は嫌いだ。

 この場所にいたくない。


 今も心の中に残っている、幼い頃の私の心の断片が、そう叫んで止めようとする。


(もうあの老いぼれはいないから、安心するといい)


 私から大切なものを奪う者は消えたし、今の私は非力ではないから。


 そう自分に言い聞かせ、国王の執務室まで向かった。


 城仕えの執事長に案内されて執務室の中に入ると、中にはアロイスと彼の護衛騎士であるラングラン侯爵がいる。


「ノエル・ファビウスです。この度はルドライト王国との交流についてお話の続きをしたく、参りました」

「ファビウス卿、待っていたよ」


 アロイスが視線で合図を送ると、ラングラン侯爵は部屋から出た。


 そうして私とアロイスの二人きりとなる。

 

「改めまして、陛下にご挨拶を申し上げます」

「堅苦しい挨拶はよしてください。今は二人きりですよ、兄上」


 アロイスは椅子から立ち上がると、執務室の中にある来客用の長椅子に座るよう促してきた。


 テーブルには茶と菓子が二人分用意されている。


「休憩時間に付き合っていただけませんか? 今朝は先代の国王の息がかかっている貴族を相手にして疲れたので休みたいんです。話し相手になってください」

「厄介な客人が来ていたのか。お疲れ様。アロイスは本当に良く頑張っているよ」


 先代の国王が処刑された際にいくつかの共謀者を片付けたが、証拠不十分で生きながらえた者もいる。


 彼らはアロイスの粛清を恐れ、片やアロイスに擦り寄り、片やアロイスの足元を掬おうと必死になっている。なんとも見苦しい連中だ。


「私はただ、国王として成すべきことをしているだけです」


 アロイスは淡々と答えると、上着のポケットから二枚の封筒を取り出し、机の上に置いた。


 一枚はオリア魔法学園のもの。

 二枚目は、レティが先日用意していたものだ。


 レティが悩みながらも一生懸命想いを込めて書いていた姿を見ていたものだから、その封筒を見ると、複雑な気持ちになる。


 アロイスに宛てた手紙に込める熱量をほんの少しでもいいから私にも向けてくれないものだろうか。


「学園祭の招待状を受け取ったようだね」

「はい。イザベルを通して受け取りました。リュフィエさんが私には死んでも会いたくないから託したようです」

「そのやり取りが目に浮かぶよ。それで、学園祭には行くつもりなのかい?」

「……ええ。そのつもりです」


 レティから受け取った手紙を開いたアロイスが、目元を綻ばせる。


 その眼差しはいかにレティを特別に思っているのかを物語っている。


「ファビウス先生から手紙をいただいて、会いに行きたくなりましたから」

「……ふ~ん」

「兄上、笑顔で私に圧をかけてくるのは止めてください。妻と教え子との交流に嫉妬しているのですか?」 

「気のせいだよ」

「気のせいではありません。窓の外を見てください。雷が鳴っていますよ。あれは兄上が落としていますよね?」


 先ほどまでは晴天だった空には黒い雲が広がり、雷が轟いては、数多もの閃光を地面に降らせている。


 こればかりは無意識のうちに私の感情が月の力に働きかけてしまうものだからどうしようもない。


 ひとまず咳払いして話題を変えることにした。


「レティからの手紙にも書いてあったと思うが、件の生徒たちの様子を見てほしい。彼らとルドライト王国との交流の件は、その後決断を聞かせてもらえないだろうか?」

「私が生徒たちの友情に心を動かすとお考えで?」

「まさか。公明正大と謳われる国王陛下が感情に流されるとは思っていないよ」

「私が感情で決断を下さないと知っているのに勧める理由は何です?」


 その言葉の通り、アロイスは絶対に個人的な感情で判断しないだろう。


 私利私欲や特定の個人の為より、大多数の国民の為に動く国王だから。


 ――先代の国王とは大違いだ。


「彼らを取り巻く環境も見ていてほしい。今のオリア魔法学園は世界の縮図だ。貴族と平民、人間と獣人が一カ所に集まって共存を模索している。そんな彼らを虎視眈々と狙っている人物がいるし、得体のしれない化け物もまた潜んでいる」


 一見すると平和な学園だが、その影ではメルヴェイユ国王の手先が常に目を光らせ、邪神の影が隠れている。


 その状況を目の当たりにすると、ルドライト王国との交流が急務だと気づいてくれるはずだ。


 ルドライト王国との親交の為なら光使いを国外に出す事も厭わないだろう。


「つまり、その世界の縮図を見てノックス王国の今後を考えてほしいと?」

「ご名答。百聞は一見に如かずだ。私やソラン団長の話を聞くより、自ら見て判断して方が納得できるだろう」

「……わかりました。兄上がそこまで言うのなら、学園祭に行って確かめましょう。それに、ファビウス先生にお会いしたいですからね」


 そう言い、アロイスは悪戯を企む子どものような表情を浮かべている。


 どうやら私を揶揄っているようだ。


(……変わったな。私も、アロイスも)


 その表情を見ると改めて、アロイスと気安く話せるようになった実感を覚える。


「さあ、真面目な話はここまでにしようか。せっかくの休憩時間なんだろう? 聞きたいことがあれば聞いてくれればいいし、話したい事があるなら話してくれ。なんでも構わない」

「それでは、私の愚痴を聞いていただけますか?」

「もちろん」


 まだこの場所を疎む私がいる。

 しかし以前よりも格段に、この場所への嫌悪感が薄れた。


 この場所で、腹違いの弟と茶を楽しめるようになったのだから。


(レティのおかげだな)


 絶望の淵に立たされた私に救いの手を差し伸べ、果敢にも先代の国王や運命から私を救い出してくれた、最愛の人。


(さあ、レティはこの贈り物を喜んでくれるかな?)


 アロイスが学園祭に現れた時のレティの反応を想像すると、頬が緩んだ。

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