03.ギブミー招待状
あけましておめでとうございます。
今年も黒幕さんをよろしくお願いいたします…!
仕事を終えた私は魔法薬学準備室へ向かう道すがら、アロイスへ送る手紙の内容をあれこれと考えている。
「さてさて、何から書こうかしら?」
最近の様子について聞きたいし、無理をしていないか心配している事も伝えたい。
学園やバージルの事を知りたいだろうから書いておこう。
(ノエルの様子もきっと、気になっているわね)
アロイスが時おりノエルに見せる眼差しを思い出す。
普段は氷を彷彿とさせる水色の瞳に柔らかな光が宿っていて、彼がいかにノエルを大切に想っているのかがわかって、心が温かくなるのよね。
(――ハッ。いけないわ。今回はゼスラの願い事を叶えるためにアロイスに頼みごとをするのに、このままだとただの手紙になってしまう……!)
推しに手紙を書けると浮かれている自分に気づいて頭を抱えていると、軽快な足取りが近づいてきて――。
「ファビウスせんせー! 学園祭の招待状をちょーだい!」
振り返るよりも先にサラの声が耳元に届き、私はサラにぎゅっと抱きしめられていた。
サラが着ている宮廷魔術師団の制服のローブの裾が、視界の端でひらりと翻った。
「リュフィエさん?! いきなり現れたからビックリしたわ」
「へへっ! ドッキリ大成功だね!」
不意打ちを食らった私の心臓はバクバクと轟音を立てて脈打っており、破裂寸前だ。
悪意はないとはいえ、私の寿命を縮めるのは止めてほしい。
「ええ、リュフィエさんの狙い通り、とても驚いたわ。このまま私が倒れたら学園祭の招待状をあげられなかったわよ?」
「ごめんなさ~い! ファビウスせんせーに会えて嬉しかったから飛びついちゃったの」
と、甘える猫のようにスリスリと頬をすり寄せられると、これ以上は咎められない。
卒業後も教え子が遊びに来てくれるのは嬉しいから、ついつい頬が緩んでしまう。
「ちょうど魔法薬学準備室に招待状の余りがあるからあげるわ」
「わ~い! ありがとうございま~す!」
オリア魔法学園の学園祭は招待制だ。
この学園には王族をはじめとするこの国の将来を担う生徒たちが通っているから、セキュリティ対策が厳しい。
だから生徒から招待状を貰った人しか学園の中にはいられないようになっている。
ちなみに学園祭の時期に招待状を持たずに学園に近づくと、グーディメル先生が作った迷宮の中に閉じ込められて、学園祭が終わった後に王国騎士団に引き渡されるシステムになっているのよね。
(セキュリティが徹底しているわよね。……まあ、ルスはそのセキュリティを突破してきたのだけれど)
昨年の大波乱の学園祭の後、招かれざる客――メルヴェイユ王国国王のルスにセキュリティを突破されたグーティメル先生が躍起になって新しい迷宮の魔術を編んでいたのよね。
きっと今年は、例年以上に厳重なセキュリティが敷かれているだろう。
「モーリーとジーラとイザベルの分もください!」
「ええ、いいわよ」
きっと彼らと一緒に学園祭を訪ねてくれるのだろう。
魔法薬学準備室に着いた私は、戸棚の中にしまっていた招待状を取り出す。
招待状は十枚ほど残っている。
サラたちの分をあげてもまだ残りそうだ。
「あ、国王陛下とクララックさんの分もいるかしら?」
「うげっ……陛下もですか?」
サラは相変わらずアロイスの名前を聞くと苦々し気な顔をする。
私としてはもはや見慣れたものだけれど、一国の国王に対してそのような態度をとっていると、いつか不敬罪を言い渡されてしまうわよ?
渋々と受け取るサラに苦笑していると、ふと閃きが舞い降りた。
(そうだわ。アロイスにゼスラたちの団結力を見てもらったら、交渉しやすくなるかしら?)
幸いにも今のゼスラたちは同級生たちと馴染んでいるから、その様子を見ると、少しは前向きに考えてくれるかもしれない。
「リュフィエさん、よろしく頼んだわよ!」
「うへ~。わかりました~。イザベルに渡してもらいま~す」
アロイスも誘うのは気乗りしないようで口を尖らせているサラだったが、賄賂としておやつのパウンドケーキとハーブティーを出すと嬉しそうに頬張っていた。
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