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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十一章 黒幕さんが、友情について考えています
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閑話:友の懸念(※ノエル視点)

 宮廷魔術師団の施設を訪ねてジュリアンの居場所を聞くと、資料室に案内された。


 ジュリアンは資料室の床に座って本を読み漁っていた。

 その周りには高く積まれた本の山が形成されて連なっており、異様な光景だ。


「ジュリアン、仕事中に訪ねてすまない。少し時間をもらえるだろうか?」


 声をかけると、ジュリアンはすぐに本から目を離して立ち上がった。

 

 その拍子に本の山が音を立てて雪崩れてしまったのだが、ジュリアンは特に気にも留めずに放置する。


 興味を持つ対象以外の事には頓着しないようで、いかにも魔術師らしい性格だ。


「ノエル・ファビウス! 遊びに来てくれたのか!」

「生憎だが、頼みがあって来た。少し時間をもらえるだろうか?」

「もちろんだ。防音結界を張るから少し待ってくれ」


 そう言い、案内してくれた魔術師を追い出すと、呪文を唱えて防音結界を展開した。


 一瞬にして作られた魔法の壁には緻密な魔術式が組み込まれている。

 少しの綻びも魔力の偏りもなく作られるとはさすがソラン団長の右腕。


 若くして副団長の座に就くに値する実力だ。


「頼みとはなんだ?」

「邪神に詳しい研究者を王都に招きたいから協力をしてほしい」

「わかった。邪神の対策は脅威だから早急に動こう」


 話が早くて助かる。

 長らく邪神の呪いを受けていたから、邪神の脅威を誰よりも知っているのだろう。


「ちょうど邪神の研究者について調べていたところだ。助力を求める前に来てくれて助かる」


 そう言い、指示された本の雪崩の中には、私が探していた歴史学者の論文があった。


 他にも、マルロー公たちに追放された歴史学者たちの名前をちらほらと見かける。


「禁書をこんなにも集められるとは……さすが、国民を守る宮廷魔術師団の副団長は覚悟と行動力が違うな」

「いや……私は友としてノエルとファビウス先生を守りたいから資料を集めたに過ぎない」

「私たちを、守る?」

「ああ。二人を邪神から守りたい」


 それではまるで、私とレティが邪神に狙われているような言い方ではないか。


 月の力を持つ私が狙われる事はしかたがないと思っている。


 しかし、どうしてレティまで狙われる?


「ノエルに言わなければならない事がある。ファビウス先生と邪神の事についてだ」

「レティと邪神には接点がないだろう?」

「いや、二人には接点があるらしい。邪神の声が聞こえていた時に、何度かファビウス先生を呼ぶ邪神の声を聞いた事がある」

「――っ、どうして邪神がレティを……!」


 仮にレティの命を狙っているのだとしたら、すぐに呪いをかけるなり命を奪うなりしているだろう。


 しかし、名前を呼んでいたとなると、命を奪う事が目的ではないだろう。


(何が狙いなんだ?)


 邪神の目的がわからない。


「だから私は、生徒に扮した邪神がファビウス先生の近くに潜んでいると睨んで生徒たちを観察してきた」

「生徒に扮しているなんて、そんな……――っ」


 そんなはずがないとは、言いきれなかった。

 時おりレティの前に現れる黒い影の存在が脳裏を過り、否定の言葉をことごとくかき消す。


(断定はできないが、あれが邪神の可能性もある)


 ジルやミカ、そして魔法薬学準備室の妖精たちが、揃って不吉だと言う存在。


 なぜあれがレティの近くに現れるのかわからなかったが、邪神がレティの近くに潜んでいるのなら納得がいく。


 ――大切な人のすぐ近くに邪神がいるとは、なんと皮肉な。


 つくづく、女神とやらを呪いたくなる。

 なぜ私の大切な人を危険に晒そうとするのか、問い質してやりたいものだ。


「邪神はレティに、なんと言っていたんだ?」

「『一緒にいて』『もっと褒めて』『他の子と話さないで』」

「まるで幼子が母親に強請るような発言だな」

「ああ。邪神の声は――幼い子どものような声なんだ。子どもが泣いたり喚いたりしているようなものだ」

「邪神はまだ幼い神という事か?」

「さあ、人間の我々にはわからない事だが、そうなのかもしれない。そもそも、邪神に堕ちる前の男神は女神の弟である説を唱えている歴史学者もいるらしい」

「……なるほど」


 神と呼ばれる存在なのだから、人間の大人のような見目や声に思考を持っているとばかり思っていた。


「まだ、どの生徒が邪神であるのかわからない。臨時講師として学園に行く度に探しているのだが……上手く隠れているから見つけられないでいる」

「私も毎日学園に行っているが、不穏な魔力を持つ生徒を見かけたことはない。……念のため、使い魔たちに探らせよう」


 本音を言えば、レティを屋敷に閉じ込めて邪神から遠ざけたいところだが。


 きっとレティは、自分の身に危険が迫っていようが、学園に行くはずだ。

 そこには彼女の大切な生徒たちがいるから――。


「生徒に扮している……か……」


 もしジュリアンの予想が的中してしまったら。

 その時は、レティにとって酷な状況になるだろう。


 邪神が扮している生徒がどのような人物であろうと、レティにとっては守るべき存在なのだから。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

第十一章はこれにて完結です!

次章の準備をしますので、次回更新までしばらくお待ちくださいませ。

引き続き、黒幕さんをよろしくお願いいたします……!

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