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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十一章 黒幕さんが、友情について考えています
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08.黒幕に惑わされる

 ノエルは昨夜の宣言通り、メアリさんを首都に招く為に、ジュリアンに協力を要請しに行くそうだ。

 帰りの馬車の中で、ジュリアンの返事を教えてもらおう。


 授業を終えて回廊を歩いていると、正面から理事長がやって来た。


(ヒエッ! 出た!)


 今日も今日とて黒幕らしい貫録を漂わせているものだから、気圧されてしまいそうになるわ。


 とはいえ、私の雇用主でもある理事長を無視して逃げ出すわけにはいかないから挨拶をする。


「お疲れ様です。本日もいい天気ですね」


 当たり障りのない言葉を口にしたその刹那、なぜかびゅうっと風が吹いて陽の光が翳る。


 タイミングがあまりにも悪くて、むしろ計ったかのような流れだったわね。

 風には空気を読んでほしかったわ。

 

「あ、あら。今日は、少し雲が多いですね。ほほほ……」

「……そのようですね」


 気まずいし恥ずかしいから早々にお暇しようとしたのだけれど、なぜか理事長は立ち去ろうとしない。そのような気配すらない。


 もしかして、これから雑談をしようとしているのかしら。

 それとも何か探られている?


 おかげで私は淑女の仮面を顔に貼り付けたまま、内心ビクビクしている。


 ここはひとつ、敵前逃亡しようではないか。

 逃げるが勝ちよ。


「引き留めてしまい申し訳ありません。それでは失礼しますね」

「いや――待ちなさい」


 今すぐにでもおさらばしたかったのだけれど、待ちなさいと言われてしまうと、さすがに逃げられない。


 なんてことだ、と心の中で嘆きつつ従順に足を止めた。


「先週の週末、ミュラーさんと一緒に宮廷魔術師団へ行ったそうですね」

「はい。彼女が受けている訓練を視察しに行きました」


 表向きには、エリシャの担任として彼女がどのような訓練をしているのか把握するために付き添った事になっている。

 エリシャの外出申請書に、私がそう書き加えたのだ。


「ミュラーさんは専用の場所を用意していただいているので、安心して訓練に取り組めているようです」

「視察の際に、光の力でエルヴェシウス卿を治癒したそうですね?」

「……!」


 不意打ちに背筋が凍る。というのも、ジュリアンの治療については外出申請書に書いていないのだ。


(どうして理事長がその事を知っているの?)


 あの場には理事長の手の者はいないはずなのに。


(もしかして、何かしらの魔術で見張られていたのかしら?)


 悪い予感がいくつも浮かんでは、胸の中に沈んでいく。


 すると、理事長が片眉をわずかに動かして怪訝そうな表情を作った。


「宮廷魔術師団からの報告書に書かれていたのですが、違うのですか?」

「あ、ああ。そうでしたか。そのような報告書が届いていたのですね」

「はい。我が学園の生徒を預けているので、どのような訓練をしたのか詳細に報告するようソラン団長に頼んだのですよ」

「ソラン団長に……?!」 


 なんてことだ、と今度は天を仰ぎたくなる。黒幕に情報を流してしまうなんて危険だわ。


 だけどソラン団長は理事長が黒幕――マルロー公や前エルヴェシウス伯爵と手を組んでいる事を知らないから、報告してしまったのね。


 理事長が私の知らない所でエリシャの情報を入手しているなんて知らなかったわ。

 ゲームの世界の理事長も同じように宮廷魔術師団にエリシャの様子を報告するように頼んでいたのかしら?


 ――エリシャを見張る為に?


(考えてみると、不思議よね。どうして理事長はエリシャが光の力を覚醒させたとわかってすぐに消さなかったのかしら?)


 彼女が光の力をコントロールさせられるまでずっと見守り、そしてゲームのクライマックスである卒業式の記念パーティーでエリシャたちメインキャラクターを襲う。


 まるで、わざわざエリシャが育つのを待っていたかのように――。


「それにしても、ファビウス先生が受け持つ生徒たちは良い人間関係を築いていますね。特にミュラーさんは、入学当初に比べて友人が増えたように見受けられます」

「ええ、オリア魔法学園の三か条の通り、博愛をもって仲間と共に精進する生徒に恵まれています」

「あの子も――サミュエルもそうできたらいいのですが」

「サミュエルさんも他の生徒たちと和気あいあいとしていますよ。勤勉で真面目な方ですから」

「……」


 理事長は同意してくれず、口を固む引き結んでしまった。


(ええっ?! どうして黙ってしまうの?!)


 気まずい沈黙が降り、私の頭の中は疑問符でいっぱいになる。

 

 サミュエルさんは絵に描いたような優等生なのに……もしかして、理事長の目には違ったように映っているのかしら?


「あ、あの。サミュエルさんは学級委員長を務めていて、同級生を想っていますので――」

「ファビウス先生、あまりサミュエルの心に近寄り過ぎませんように。あの子の感情は、並大抵の者が手に負えるものではありませんから。迂闊に近づくとあなたが壊されてしまいます」

「……え?」


 暗にサミュエルさんが危険人物だとでも言っているようにしか思えない発言だ。


 あんなにもサミュエルさんを気にかけているのに。

 あんなにもサミュエルさんを大切にしているのに。


 なぜ、サミュエルさんをそんなにも卑下するの?


「どうして、そんな事を言うのですか……?」


 私の問いに、理事長は答えてくれなかった。

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