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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十一章 黒幕さんが、友情について考えています
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05.治癒への想い

 ややあって、リアたちが団長室に入って来た。

 ソラン団長に許可を貰い、ジュリアンの治療を一緒に見学することとなったのだ。


 もちろん、リアたちには聖遺物や邪神の呪いについては伏せている。

 ジュリアンが討伐中に魔物から呪いを受けたことにしているのだ。


「大事なお話し中にお邪魔してすみません」


 まさか宮廷魔術師団の重役が揃っている場に連れて来られるとは思ってもみなかったのだろう。

 リアが申し訳なさそうに謝罪すると、ソラン団長は「気にするな」と言って微笑む。


「君たちがいる方がミュラー殿の緊張が解れるだろう」


 ソラン団長が言う通り、リアたちが現れてからエリシャの表情が和らいでいる。

 大人たちに囲まれて慣れない光の力を使うのは、やはり緊張するわよね。


「ミュラー殿の歌声で呪いを治癒できるとは本当なのか?」


 そう問いかけるゼスラの表情には、微かな期待と緊張が込もっていて。

 もしかしたら、お兄様の呪いを解く手がかりになるのではと期待しているのかもしれない。


「まだその可能性があるとしか言えません。今はミュラー殿が光の力をジュリアンに使う方法を考えねばなりませんからね」


 そう。エリシャはまだ光の力のコントロールに慣れていない。

 

 これまでの訓練は光の力を発現させる目的のものだったらしく、その力を操る術はまだ得られていないらしい。


「通常の魔法なら、対象を指で差したり意識を集中させるといったやり方があるけれど……」


 歌が引き金となって発現する光の力では、どうしたらいいのだろうか。

 

 頭を捻って考えていると、不意にリアが小さく叫んだ。何か閃いたのかしら?


「あ、あの! 歌を贈るという表現もあるくらいですから、エルヴェシウス卿を治療したいと意識して歌うといいのではないでしょうか?」


 相手を想いながら歌う事で、光の力がジュリアンに向かうのではないかと考えたそうだ。


 なるほど、確かにゲームの中のエリシャはジュリアンを救いたいという気持ちで彼に歌を披露し、呪いと後遺症を治癒していたわね。納得だわ。


「心で光の力を操るという事か……妙案だな。ミュラー殿、ジュリアンにかけられている呪いと後遺症を治癒するよう、想いを込めて歌ってもらえないだろうか?」

「ま、まかせてください!」


 エリシャは小さく拳を握り、やる気満々で返事をすると、また胸の前で手を組んだ。

 そうして目を閉じる姿は、さながら祈りを捧げる聖女のようだ。


 みんなに見守られている中、エリシャが歌い始めた。


 今度の歌は子ども向けの歌で、怪我や病気の子どもに歌ってあげると早く治ると言い伝えられている、おまじないのような歌だ。


「おお、光の力が発現した」


 エリシャの周りに光の粒子が現れると、ゼスラが感嘆の声を上げる。


 光の粒子はしばらくの間エリシャの周りをぐるぐると回っていたが、やがてジュリアンの方へ移動していった。


 ジュリアンが両手で掬うような仕草で光を受けとめると、彼の体が仄かな光に包まれる。


「光の力が作用している……!」


 ソラン団長の声に驚きと安堵がこもる。


 すると、ジュリアンの体から黒い靄のようなものが現れ、それが人の顔を形作った。

 

「これが、ジュリアンを蝕んでいる呪いか……!」


 ノエルとソラン団長、そしてルーセル師団長が身構え、防御魔法を展開する準備をした。


 しかし呪いは光の粒子に絡みつかれ、じゅっと音を立てて焼かれる。


「――っ!」


 ジュリアンが両手で耳を塞ぎ、その場にうずくまる。

 まるで呪いの叫び声に耐えているようで、ソラン団長が悲痛な声でジュリアンの名前を呼ぶ。


「ジュリアン、しっかりしろ!」

「……はい」


 ぐっと足に力を入れてジュリアンが立ち上がったその瞬間、呪いが焼き尽くされ、消えた。


「声が……聞こえなくなった」


 ジュリアンの呟きを聞いて、ソラン団長とゼスラがジュリアンに駆け寄って彼の体を支える。


「解呪ができたようだな。後遺症の方はどうだ?」

「……たぶん、癒えている。魔力回路を覆っていた禍々しい力がなくなった」

「おお、良かった! ジュリアン殿が苦しみから解放されたのだな!」


 喜ぶ二人を見たジュリアンが、口元を綻ばせて微笑んだ。


(お! ジュリアンが笑った!)


 ゲームではエリシャにしか見せなかった優しい笑み。

 この世界のジュリアンは大切な人がたくさんできたようで、安心した。


「エリシャ・ミュラー、私の為に光の力を使ってくれて感謝する」

「い、いえ。私はただ歌っただけなので」

「魔力消耗による疲労はないか?」

「はい、全くです」

「それなら良かった」


 声に安堵の色を乗せたジュリアンだが、自分の掌をじっと見つめる姿はどことなく憂鬱そうで。


「呪いや後遺症の苦しみから解放されて嬉しいが、ノエル・ファビウスの役には立てなくなったな」


 それがよほどショックのようで、ジュリアンはしゅんと項垂れてしてしまった。


「気にしないでください。きっと解決の手掛かりは他にもありますから」

「しかし……友として役に立てなくなってしまった」


 ジュリアンの言葉に、ノエルは眉を顰める。


「私は、君の犠牲を甘受してのうのうと生きる友にはなりたくない。友とは、利害関係のもとに成り立つ間柄ではないだろう?」

「……っ、これからもノエル・ファビウスは私の友でいてくれるのか?」

「ああ、だからノエルと呼んでくれ」

「そ、それなら、私の事はジュリアンと呼んでくれないか?」

「これからはそう呼ばせてもらおう」


 そう言い、ノエルが差し出した手を、ジュリアンは嬉々として握り返した。


「やれ、不器用な大人たちだな」


 ソラン団長が苦笑する声が聞こえてきた。


 こうして、器用なくせに妙なところで不器用な元・黒幕(予備軍)に、新しい友人ができたのだった。


 ちなみにこの事を手紙に書いてミラに送ったところ、ダルシアクさんから「私を捨てたのですか?!」と浮気された彼女のような手紙が来て、ノエルを悩ませるのだった。

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