03.夫が戸惑っています
「と、友……? 私とエルヴェシウス卿が?」
ジュリアンの言葉に驚いたノエルは、目と口をぱかりと開いたまま固まってしまった。
妻の前世の推しに友だち認定されてた事がよほど衝撃的だったのね。
「そんな事より、ノエル・ファビウスの意見を聞きたいことがある」
突然、ジュリアンがの瞳がきらきらと輝き始める。
ゲームのスチルでもこんなに活き活きとした表情を見た事がないわ。
よっぽどノエルと話す事を楽しみにしていたのね。かなり懐いているわ。
「宮廷魔術師団の制服の防御を強化したいのだが、魔術式が複雑になり過ぎると他の魔術式を無効化してしまうから困っている。何か策はないだろうか?」
「あ、ああ。二つほど案がある。一つは防御以外の魔術式を簡略化することだ。そうすれば複雑な魔術式を追加しても反発しないだろう。もう一つは――」
魔術の専門的な話になると、門外漢である私は途中からついていけなくなる。
おまけに、魔術の話となると急にジュリアンが早口になってしまい、聞き取るのでさえ困難だ。
それでもノエルはこのマシンガントークについて行けるようで。
的確に相槌を打ち、ところどころで意見を言っているから聞き上手だなと感心する。
「ふむ、我々では思いつかなかった案だな。明日にでも研究部隊に提案してみよう。次は――」
ジュリアンは息をつく暇も与えず次々とノエルに質問してたっぷり話し合うと、満足して帰っていった。
「私とエルヴェシウス卿は友……なのか?」
嵐のようなトークタイムを終えたノエルは、ジュリアンが出て行った扉を見つめてぽそりと呟く。
「まだ知り合ってから間もないのに……数年間一緒に働いてきたローランとは最近友になったところだというのに、こんなにもすぐになれるものなのか?」
どうやら、友だちになるのにはお互いを知る時間が必要だと思っているようで。
ジュリアンに友だち認定されたことが、まだまだ信じられないでいるようだ。
「ジュリアンがそう言っているのだから、友なんだと思うわ。友だちって、いつの間にかなっているものでしょう?」
「……そう……か。幼い頃は交友関係を持たないようにしていたから、どうにも慣れない感覚だな」
子どもの頃のノエルは先代の国王に大切な人を奪われるのを恐れ、他者とは必要最低限しか関わらなかったと、お義母様から聞いた事がある。
その話を思い出すと、鼻の奥がツンと痛くなる。
「ノエルの仲間が増えて嬉しいわ。ノエルはこれからもっとたくさんの人と友だちになれると思うの。きっと、楽しいことがいっぱい待っているわ」
「レティがそう言ってくれるなら、その通りになりそうだね」
「ええ。友だちと一緒に出かけたり、夜遅くまで語り合うのは楽しいわよ!」
学生の頃に友だちと過ごした時のことを思い出すと、懐かしくて顔がにやけてしまう。
「レティの今の表情を見ていると、友と過ごすのも楽しそうな気がしてきたよ」
「ええ、とても楽しいわよ」
「そうなのか……しかし……――」
友だち付き合いの事で、まだまだ不安が強いようだ。
ノエルは口を噤み、表情を曇らせる。
それなら、ノエルの為に私ができる事をしようじゃないの!
「ねぇ、ノエル。私と友だちになりましょう!」
「レティと?」
「ええ、私とよ! そして親友になるべく親交を深めましょう!」
ノエルの憂いを断つ為の、いい作戦を思いついたのだ。
その名も、【私とフレンドになってノエルの不安をなくしちゃお⭐︎作戦】!
まずは私と友だちになって、一緒に友だちらしいことをするといいのよ。
そうすれば、ノエルの不安を解消できるかもしれないわ。
――しかし、ここで一つ、問題が起きる。
「レティとは友だちになれないだろう?」
「えっ……?」
ノエルにスッパリと否定されてしまったのだ。
提案してすぐに否定されてしまうと、さすがにショックなのだけど。
「友だちになれるわ! だって、推し活仲間でしょう!」
「……っ」
「ノエル?」
なぜか、ノエルは今にも泣き出してしまいそうな顔で、悲愴感を漂わせ始めてしまった。
友だちが増えるのはいい事だと思うのに、どうしてそんな顔をするのかしら。
「それ、まだ続いているのか……」
ノエルは力なく椅子に体を預けると、どこでもない一点を見つめて黄昏ている。
すっかり哀愁を漂わせ始めてしまい、ノエルを心配したジルとミカが声をかけている。
もふもふたちに労ってもらえるなんて羨ましい。
私もいつか、もふもふの使い魔と契約したいわ。
「友だちではなく夫として意識してほしいのだが……」
もふもふの使い魔に思いを馳せている間、ノエルは覇気のない声でジルとミカに相談していたのだった。
その後、私たちはジュリアンの呪いについてもう一度話し合い、解呪を促す事にした。
「ひとまず、明日王宮に行ったらエルヴェシウス卿に会って解呪するよう説得しておくよ」
「ありがとう。よろしくね」
ノエルの為を想ってくれるのは嬉しいけれど、ジュリアンには早く苦しみから解放されてもらいたいから。
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