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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十一章 黒幕さんが、友情について考えています
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01.夫が続編の攻略対象に懐かれています?!

 音楽祭で光の力を覚醒させたエリシャは、定期的に宮廷魔術師団で力のコントロールをする訓練を受けることになった。


 彼女は宮廷魔術師団の施設に行くときはいつも外出届を出している。


 そして、そんな彼女と一緒にいつも外出届を提出する生徒が一人。

 エリシャが大好きでずっとくっついている、バージルだ。


「おい、マナバイソン! どうして俺の外出申請は通らないんだよ?!」


 終礼を終えて教室を出ようとすると、バージルに呼び止められた。

 ちなみにマナバイソンとは、私の新しいあだ名だ。


 あのゴツゴツしたデカい魔獣の名前を付けられるなんて大変遺憾だけれど、バージルがあだ名で呼んでくれるほど心を開いてくれたことは嬉しい。


「動機が不純だから却下されたのよ」


 今回の外出申請の動機はわかりきっている。

 バージルがエリシャの外出に合わせて王宮に帰ろうとしていたのだ。


 アロイスに確認したところ、呼び出してはいないし特にバージルが返ってこなければならない用事はないという。 


「ふ……不純?!」

「ミュラーさんについて行きたいから申請したことくらいわかっているわ」

「うっ……」


 わかりやすく顔にでかでかと「図星を突かれた」と書かれている。

 宮廷魔術師団の施設は王宮にあるから、実家に帰るのは口実でエリシャの側に居たいだけなのだろう。


 血縁上ではバージルはノエルやアロイスの兄弟にあたるけれど、彼らと違って感情がわかりやすい。


 そのようなところが可愛くて、どれだけ憎らしいことを言っていても憎めないのだ。


「そうそう、国王陛下から伝言を賜っているわよ。学園に残って勉学または鍛錬に勤しみなさい、と」

「――チッ。小言ばかり言いやがって」


 相変わらず悪態をついているけれど、入学当初と比べるとだいぶ穏やかになった。

 

 なにより、アロイスの名前を出しても嫌悪を見せなくなったから二人の関係が大きく前進したような気がする。


「バージル・グレゴワール・ノックスは青春を謳歌しているな。どのような時もエリシャ・ミュラーに一途で涙ぐましい」


 と、淡々とバージルの恋を評価する声が背後から聞こえてきた。

 振り返ると、ジュリアンが真後ろにいた。


 魔法応用学の授業が終わってからここに来たようで、手には教科書や資料集を持っている。


「あら、エルヴェシウス先生。どうされましたか?」

「ファビウス先生に話があるから来た。魔法薬学準備室で話してもいいだろうか?」

「ええ、構いませんよ」


 場所を変えたいという事は、内密な話をしようとしているに違いない。


(たとえば、聖遺物の事とか……邪神の事でなにかわかったのかもしれない)


 音楽祭で魔物を召喚したエルヴェシウス伯爵が捕まってから王国騎士団や宮廷魔術師団によって取り調べが進められているけれど、聖遺物や邪神の関連性は未だ公にされていない。


 エルヴェシウス伯爵はジュリアンも自分に協力していたと言って罪を擦りつけようとしたが、ソラン団長が助けてくれた。


 ジュリアンが宮廷魔術師団を襲った不届き者たちに誓約魔法をかけたのは、エルヴェシウス伯爵を油断させるために従うしかなかったのだと弁明してくれたのだ。


(そういえば、エリシャが光の力を覚醒したから、もうジュリアンの呪いと後遺症を治せるのよね?)


 もとより口数が少ないジュリアンから呪いや後遺症のことをあまり聞かないけれど、まだ治っていないのだから相当苦しいだろう。


 早く治したいところだけれど……どうやって話を切り出す?


(う~ん。それとなく自然に話を誘導できたらいいけれど……どう言えばいいのかしら?)


 こういう時はノエルに頼った方が良さそうだ。

 ノエルならきっと、違和感なく話を進めてくれるだろう。


 魔法薬学準備室に着くと、ジュリアンはぼんやりと経ったままで座ろうとしない。


「どうぞ、座ってください。お茶を淹れますね」

「……」


 ジュリアンは黙ってこくりと頷くと、近くにある椅子を引いて腰掛けた。

 いささか緊張しているのか、椅子にちょこんと座っている様子がなんだか可愛らしい。


 私はレモングラスのような爽やかな香りのする薬草をメインにブレンドした紅茶を淹れてジュリアンの前に出した。


 ジュリアンは少し口をつけた後、熱かったのか少し飛び上がった。

 どうやら猫舌らしい。


 それでもちびちびと飲んでいるから、味を気に入ってくれたのかもしれない。


「それで、お話とは?」

「ノエル・ファビウスは今日もここに来るのか?」

「ええ。今日も迎えに来てくれますよ」

「それなら、彼が来るまで待たせてもらおう。話したいことがある」


 ノエルがここに来ると聞いて、ジュリアンは嬉しそうだ。

 いつも通りの無表情なのだけれど、尻尾をぶんぶんと振っている幻影が見える。 


 声が微かに弾んでいるからそう見えてしまうのかもしれない。


(それにしても、最近やたらとノエルに会いたがっているような気がするわね?)


 音楽祭以降、学園でも王宮でもノエルに話しかけているのだ。


 ノエルが言うには、聖遺物の話だけではなく最新の魔術論文についても聞いてくるらしい。


「あの、今回はどのような話を?」

「……宮廷魔術師団の制服であるローブに付与する魔術式についての相談、それと、アストリ・クラヴェルが発表した『簡易魔術の限界論』についての考察を聞きたい。ディエース王国の魔術師育成の現状も聞かせてほしいし、最近読んだ魔術論文の事も聞きたい。月の力の制御方法についてや、……あと、学生時代の魔術鍛錬方法についてと、ノエル・ファビウスが定義する青春についての話も聞きたいし、――」


 どうやら、夫と話したいことがとにかくたくさんあるらしい。


「ノエル・ファビウスはどれだけ多忙でも足を止めて返事をしてくれるし、真剣に耳を傾けてくれる。だからノエル・ファビウスと話すのも楽しい」


 いつもは無機質な瞳が、キラキラと輝いている。


(ノエルったら、いつの間にかジュリアンにとても懐かれているわね?!)


 続編の攻略対象も魅了してしまうなんて、元・黒幕(予備軍)はつくづく罪な人間だと思う。


「そうなのですね。夫と仲良くしてくださって嬉しいです」


 と相槌を打ちつつお茶を飲んでいると魔法薬学準備室の扉が性急に叩かれて、


「レティ、迎えに来たよ」


 ジュリアンが懐いているノエル・ファビウスこと私の夫が息せき切って入って来た。


 禍々しいオーラを放ちつつ、笑みを浮かべて。

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