04.怒りの理由(※ウンディーネ視点)
※お知らせ※
黒幕さん1の同人誌作成にあたり、一部国名と人名を変更いたしました。
連載当初は気づけていなかったのですが、実在する団体及び宗教を連想させる名前かと思い、変更した次第です。
・シーア王国→メルヴェイユ王国
・ブドゥー先生→ルドゥー先生
連載版ではこの続編から上記名前を反映させていきます。
ご迷惑をおかけし申し訳ございませんが、ご了承いただきますようお願いいたします。
ローランがノックス王国から出ていく。
ノエルからそう聞かされた後、気付けばオリア魔法学園を出て王都に来ていた。
王都は真夜中でも賑わっており、酒場は明々としていて客たちの声が飛び交っている。
いつもならこのような活気を見ているとワクワクするのに、今は少しも楽しくなれない。
腹が立つような、泣きたくなるような、ごちゃごちゃとした気持ちが邪魔をしてくるから。
さっさとローランを見つけて問い質したいのに、家に行ってもやはりローランは居ない。
「何なのよ。いつもはひよっこりと現れるくせに、どうして全く会えないのよ?」
探しに行きたいけれど、ローランが行きそうな場所なんて全くわからない。
仕方がないから、家の前で待ち伏せすることにした。
扉に肩を預けたまましゃがんで待っていると、足音が聞こえてくる。
その足音がぴたりと止んだから不思議に思って顔を上げると、ローランが私を見て固まっている。
目と口をぱっかりと開け、茫然としているのだ。
「遅いわよ! ずっと待っていたんだからね!」
「このような夜更けに来るなんて何の用ですか? 精霊とはいえ、女性が男の家を訪ねていい時間ではありません」
「いちいちうるさいわね。話したいことがあるから来たのよ」
ローランはいつもの如くつれない様子で、溜息をついてこめかみを押さえている。
丁寧な口調で話しているけれど、私の事なんて手のかかる子どものように思っているようなバカにしている素振りで。
相変わらず失礼な態度をとる奴だけれど、それでも私はローランと話すのが好き。
いつもは意識していなかったその気持ちに気付き、そんなローランとの別れが近づいているのが悲しくて、泣きたくなった。
「もしかして、新しい出会いがあったから語りに来たのですか?」
「ち、違うわよ。たしかに出会いはあったけど、話したいのはその事じゃないわ」
「そのお相手の所属は?」
「……第三騎士団の地方警備を担当する部隊よ。昇進するために頑張っている素敵な方で、加護をあげたところなの」
ローランは眉間に皺を寄せ、「加護を?」と地を這うような低い声で聞き返してきた。
控えめに言ってかなり怖い顔だ。
「どうして学ばないんですか? その頭は飾りですか?」
「なによ! そうやって嫌味ばかり言っていたら、友だちができないわよ!」
「これ以上あなたに辛い思いをしてほしくないから言っているんです」
「はぁ?」
いつもいつもお説教してくるくせに、何が「辛い思いをしてほしくない」だ。
そう思っているのなら、口うるさくお説教するのは止めてほしい。
抗議の意を込めて睨みつける私に、ローランは微笑んでみせた。
初めて見る表情だ。ローランもこんな顔をするんだ、と驚いてしまう。
「これだから騎士は、気に食わないんですよ」
「え?」
「――そんな顔をしないでください。いつまで経ってもあなたを任せられるような輩が現れないから、ついそう考えてしまったのです」
ローランは魔術省の人間が来ているローブのポケットからハンカチを取り出し、私に差し出す。「今にも泣きそうな顔をしていますよ」と付け加えて。
泣いていても涙を拭いてくれない。
寂しいと言っても抱きしめてくれない。
……だけど、側に居てほしい時はいつも、側に居てくれた。
触れてくれなくても、心は寄り添ってくれていた。
そして、加護を与えると言わなくても、私から離れないでいてくれた。
これまでに出会った騎士たちは、加護を与えると言い出さなければ振り向いてもくれなかったのに。
今までの私は、そんなローランの優しさに気付けていなかった。
私は、私の中でローランがどれほど大きな存在になっているのかもまた、気付けていなかった。
「ローラン、ノックスから出て行かないで」
「やれやれ、急に何を言い出すのかと思えばその事ですか。ファビウス侯爵夫人から聞いたのですね?」
「いいえ、ノエルから聞いたわ。黙って私の前から居なくなるなんて許さないわよ」
この怒りの理由は何だろう?
仲間外れにされていたから、というのも一つなのかもしれない。
「この国の王太子や大臣たちが居る目の前でメルヴェイユ王国の内通者だと明かしたのですから、もうこの国にはいられません。本来は投獄されるべきであるのを、罪人の魔術師から王国の危機を救った褒賞として自由の身をいただいているのです。しかし、それも期限付きですから」
「嫌よ。行かせないわ」
「そう言われても残れませんよ。人間には人間のしがらみがあるのです」
ローランは無表情のまま淡々と答えた。
あしらわれているようなのが気に入らなくて、ローランを睨みつける。
「ローランのバカ! 根暗! もやし!」
地団太を踏んでみっともなく叫んでも一向に怒りは収まらない。
悲しくて、腹立たしくて、そしてみじめで。
このような状態でローランに顔を見られたくなくて、走って逃げた。
王都の目抜き通りを走り、夜風で頭を冷やして落ち着くと、改めて思い知らされる。
この怒りの理由は――そう、私がローランに恋をしているからなんだ。
今になってその気持ちに気付いたのが、悔しくて悔しくて仕方がなかった。
ラクリマの湖に戻った私は、とにかく泣いた。
更新お待たせしました。
遅くなり申し訳ございません……。