閑話:ある男の記憶【二】
更新長らくお待たせしました!
ジュリアン・エルヴェシウスを見ると、強烈な嫌悪感に苛まれる。
あいつを許すな。
奪われた力を取り返せ。
殺せ。殺して復讐しろ。
頭の中で声が大きく響き、今にもあの化け物に意識を乗っ取られてしまいそうになる。
だから極力近寄らないようにしている。
今はまだ、この体を委ねる時ではないから。
あの化け物に体を乗っ取られると、何が起こるかわからない。
「まだ我慢してくれ。そのうち好きにさせてやるから」
それに、お前が憎くて止まないジュリアン・エルヴェシウスは、私の手で消してやるから。
今はそれで、満足してくれ。
(急に厄介なことをしてくれた。直接手を下さないで始末する方法を考えなければならないな)
これまでは父親に従順だったジュリアン・エルヴェシウスが、反旗を翻して父親の罪を暴露した。
彼は聖遺物を用いた禁術により、私と同じようにあの化け物の声が聞こえるらしい。
おまけに彼は、音楽祭の時にあの化け物がミュラーさんを殺せと命じた声を聞いたそうだ。
あの化け物の声が聞こえるのなら、いつか私の計画の妨げとなるだろう。
彼に恨みはないが、邪魔者になり得るのなら消えてもらうしかない。
「クレメント・ペルグラン?」
「おや、エルヴェシウス先生。いかがされましたか?」
なんと都合の悪い時に会ってしまうだろうか。
あまり人が来ない回廊にいるというのに、よりにもよって彼と出くわしてしまうとは運がない。
(ああ、また始まった)
ジュリアン・エルヴェシウスの声を聞いた途端、またもや頭の中が邪神の声で埋め尽くされる。
取り返せ、殺せ、呪え、と。
「……」
彼もこの声を聞いているのだろうか。
いつもの無機質な表情に、一瞬だけ苦痛の色が乗った。
それも一瞬のことだった。
すぐに平静を装い、透徹な眼差しで私を見つめる。
「私の顔になにか?」
「何でもない」
「そうですか。それでは、来客があるので失礼します」
私は足早に回廊から立ち去った。
もし彼があの化け物の声について聞いてきたら、すぐにでも始末しようと体が動いてしまいそうでならなかった。
「……くっ」
頭が割れそうなほど痛む。
あの化け物が私の体の中で暴れまわっているのだろう。
壁に寄りかかって休んでいると、頭の中の声がまた騒ぎ始める。
(ジュリアン・エルヴェシウスが追ってきたのか?)
痛みに耐えて振り返ると、背後にいるのはエリシャ・ミュラーだった。
「理事長、大丈夫ですか?」
気遣わしくかけてくれる声を、頭の中で声が遮るように騒ぎ立てる。
邪神は、光使いの力が覚醒したこの子も殺そうとしている。
(ダメだ。この子だけは絶対に殺させない)
私の唯一の希望を失うものか。
この子を守るためなら突き放す事も厭わない。
嫌われてでもいい。
憎まれてもいいから、今度こそは大切な人を守りたい。
たとえそれが私の自己満足でも構わないから。
「……近づいてはならない」
「えっ?」
「風邪をひいているから、君に移してしまいます」
「わ、わたくしの治癒魔法で治します!」
「大丈夫ですよ。それほど酷くありませんから」
いつか、君の力で殺してくれと願う時を想う。
心優しい君は絶対に泣いてしまうだろう。
他の方法を考える猶予も与えず、仕方がなく手を下すよう仕向けるつもりだ。
私はなんて残酷な事を君にさせようとしているのだろうか。
「あ、あの……お大事になさってくださいね?」
「ありがとう。その気持ちだけいただこう。もう夜になるから寮に帰りなさい」
治癒を断られた為か、目に見えて気を落としている。
それでも優等生の彼女は、促すと大人しく寮に帰ってくれた。
「大丈夫。いつかその力を使ってもらうから、その時が来るまで待っていてくれ」
私は君の成長を待っている。
復讐心に蝕まれてこの国を闇に引きずり落そうとするどうしようもない悪者を、その力を使って倒し、この国を救ってくれ。
その後、君が美しい世界で生きていけるように、邪魔者は全て私が片付けておこう。
すこし息切れしてしまいましたので、勝手ながらお休みさせていただいていました。
これから少しずつ更新させていただきますので引き続きお楽しみいただけますと嬉しいです( ;ᴗ; )
また、ひっそりと新作を書いて完結させておりましたので、よろしければ読んであげてください。
『意地悪で不愛想で気まぐれだけど大好きなあなたに、おとぎ話が終わっても解けない魔法を』
小説URL↓
https://ncode.syosetu.com/n0977hx/
魔法が消えた国が舞台の、幼馴染との両片想いじれじれもだもだ異世界恋愛小説です。
私の好きな要素を詰め込んだのですが、お楽しみいただけると嬉しいです……!




