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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十章 黒幕さん、一緒に青春を見守りましょ!
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17.日を改めまして、また音楽祭です

「うわー、音楽祭というより魔術研究会みたいになっているわね」


 ルドゥー先生は音楽堂の後部を陣取る宮廷魔術師団の魔術師たちを見ると、素っ頓狂な声を上げる。


 彼らはエリシャの歌を聴きに来た。

 それも、彼女の歌声に込められている光の力を見る為に。


 というのも、エリシャの歌声が魔物の力を弱め、大地を癒し、魔法印を消し去ったことがソラン団長たちの耳に入り、調査されることになったのだ。


「もうすぐミュラーさんの番ね。あんなに見つめられている状態で大丈夫かしら?」

「そうね。さらに緊張してしまいそうで心配だわ」


 エリシャがいるであろう舞台袖を見てみると、椅子に座って順番を待っているエリシャと――何故かバージルの姿があった。


(ええっ?! なんでバージルがあそこに?!)


 出演者以外は立ち入り禁止なのに、それを無視して忍び込んだのかもしれない。


(あわわ、早く連れ出さないといけないわ!)


 慌てふためいていると、いきなり背後からジュリアンが顔を出した。


「ファビウス先生……、バージル・グレゴワール・ノックスをあそこに転移させたのは私だ。だから叱らないでやってくれ」


 と、小声で耳打ちしてくる。


(どうしてジュリアンがバージルをあの場所に?)


 彼は叱られるのを待つ子どものようにしおらしい表情で項垂れている。

 

 先日の事件で日々取り調べに駆り出されていたジュリアンだが、今日はどうしても生徒たちの発表を聴きに行きたいと、無理を言って来てくれたらしい。


「エルヴェシウス先生の仕業だったんですね。どうしてそのような事をしたのですか?」

「彼らの青春を、応援したいから……」

「……はぁ。応援したくなる気持ちはわかりますが、規則に反する事を手助けしてはなりません」

「わかった。見つかる前に席に帰す」 

「今回は目を瞑りますけど、これからは規則を破る手助けはいけませんよ?」

 

 ジュリアンは黙ってコクコクと頷き、もう一度反省の言葉を口にした。


 彼が小声で呟きながら指を動かすと、バージルの姿が消える。

 振り返ると、何事も無かったかのような顔で席についていた。


(それにしても、バージルは本当に健気な子ね。開演前にエリシャがミカに告白同然の言葉を贈っていたのに、ああやって寄り添おうとするなんて泣けるわ)


 エリシャはミカを待ち伏せし、彼が現れると「ミカ様のために歌うので聴いてください!」と大声で宣言したのだ。


 彼女の隣でそれを聞いていたバージルに、周囲から同情の視線が募ったのは言うまでもない。


(さて、どうなることやら)


 舞台の上に立つエリシャに視線を向ける。

 エリシャは深呼吸を一つして気持ちを落ち着かせると、背筋を伸ばして凛とした姿勢になる。


「優しく、透き通った素敵な歌声ね」

「ええ、柔和なミュラーさんらしい歌声です」


 ルドゥー先生の言葉に誇らしい気持ちで答えていると、エリシャの背後に黒い影が見えた。


「どう……して……?」


 ゲームでは音楽祭で黒い影が現れるイベントなんてなかったから、完全に油断していた。

 エリシャが覚醒すれば物語の歯車が動き出すかもしれないとは思っていたが、まさかこんなにもすぐに動き出すとは思わなかった。


(エリシャが危ない!)


 すぐさま席を立ち、舞台に駆け寄る。


「ミュラーさん!」

「ファビウス先生?!」


 エリシャの体を押し、彼女に覆い被さろうとした黒い影から遠ざけた。

 その瞬間、首元に冷たいものが巻きつき、締め上げてくる。


「くっ……!」


 苦しさに呻き声が零れ出る。

 すると黒い影はビクリと動き、私から離れた。


「一体、何があったの……?」


 目の前の景色が、スローモーションで再生された映像のようにゆっくりと動く。

 離れていく黒い影、顔色を真っ蒼にして駆け寄って来るノエル、――そして、黒い影から私を庇うように立ちはだかる理事長。


「ファビウス先生は下がっていてください」

「で、でも、そうすると理事長が!」

「私は大丈夫ですから」


 理事長は蠢く黒い影に手を伸ばし、それを抱きかかえた。

 黒い影が暴れ、理事長の頬にスッと赤い線を描いて血を滴らせる。


「理事長、危険ですので離れてください!」


 それなのに理事長は黒い影に優しく触れ、ゆっくりと撫でた。


月の槍と(サリーサ)闇夜の棍棒と(ペルティカ)星の剣(グラディウス)月の槍と(サリーサ)闇夜の棍棒と(ペルティカ)星の剣(グラディウス)――苦しいだろう。少しの間、眠っていなさい」


 そう言い残し、その場に倒れた。


「黒い影が消えてゆく……」


 理事長の腕からするりと離れ、スポットライトでできた影の中に溶けてゆく。

 

 そして舞台の上から完全に居なくなってしまった。


   ◇


 理事長が倒れ、音楽堂内は騒然とした。

 意識を失っているように見えて不安になったが、理事長はセルラノ先生の治療によって、人に支えてもらいながら歩けるまで回復した。


 音楽祭の再開が危ぶまれたが、理事長が「また音楽祭を延期するわけにはいかない」と言ったおかげで延期を免れ、最後まで続けられた。


 そしてエリシャは無事、歌唱部で最優秀賞を獲得した。

 彼女の歌声に込められている魔力については、後日、宮廷魔術師団で詳細に測定されることになった。


 ――結果は予想通り、エリシャの声には光の力が込められていることが証明されたのだけれど、そのお話はまた今度。


 音楽祭の後は、エリシャにとって最も大切な時間が待っているから。

★おしらせ★

他作となりますが、『星詠み侯爵様が守り続けてきた約束の婚礼』がただいまKindle Unlimitedの対象作品となっておりますので、よろしければお楽しみいただけると嬉しいです!

ちなみに電子書籍版は二万文字の書き下ろし+番外編二本を収録しております…!

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[一言] えっ!理事長、大丈夫ですか?!Σ(・□・;) 黒い影は何だろう…
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