14.音楽祭(二)
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魔物の咆哮が、音楽堂に響く。
その声を聞いて足を竦ませる生徒が居ると、声を掛けて励まし、出入り口まで誘導した。
(ノエルたちが魔物を抑えてくれているから安全に誘導できるわ。だけど、そのせいで膠着状態になっているわね)
私は顔を動かし、魔物がいる方向を見遣る。
そこにはノエルとフレデリク、そして他の教員たちがいて、魔物を取り囲んでいる。
まだ本格的な攻撃を始めていない。
生徒たちに攻撃魔法が当たらないよう、全員が避難してから畳みかける作戦なのだ。
そして魔物は結界の中に閉じ込められており、結界を壊そうと暴れている。
(生徒たちが全員避難できるまで持ち堪えて……!)
この不安と焦りが生徒たちに伝わらないよう、声を抑えて生徒たちに接した。
やがて最後の一人が扉をくぐって外へ出て、生徒たち全員の避難を確認できた。
私は振り返り、魔物と睨み合いをしている教員たちに声を掛ける。
「生徒たちの避難が完了しました!」
「それでは、ファビウス先生とフォートレル先生は外に出て生徒の側に居るように! 魔物は残りの人員で始末する!」
グーディメル先生か号令すると、ノエルとフレデリクと残りの先生たちが身構える。
一層緊迫した空気が、音楽堂を支配する。
「結界を解除せよ!」
その声を背に、私はディディエと一緒に音楽堂を出た。
(どうか誰も怪我をしませんように)
女神様にそう祈って。
◇
音楽堂の外は騒然としていた。
怯えた表情で逃げ惑う生徒たちが行き交っている。
「一体、何が起きているの?」
逃げている生徒を捕まえて聞いてみると、生徒はブルブルと震える唇を動かし、「魔物がいます」と答えた。
予想外の事態に、頭をガンと殴られたような衝撃を受ける。
「何ですって?!」
「音楽堂を出たら急に出てきて、セラフィーヌ公爵令嬢に襲いかかったんです!」
「セラフィーヌ公爵令嬢は無事なの?!」
「はい、ソラン団長とルーセル師団長がセラフィーヌ公爵令嬢を守っているのですが……魔物が次々に現れてキリがないです」
イザベルを守れたと思って、完全に油断してしまっていた。どうやら今回の襲撃の為に用意された魔物は、一匹だけではなかったようだ。
自分の迂闊さを呪いたくなる。
(こうなったら、私も魔物と戦うしかないわね)
私は生徒たちの保護をディディエに頼み、魔物に攻撃魔法を放つ。
幸いにも外に現れた魔物は弱く、一回の攻撃で倒せる。けれど、いかんせん数が多く、なかなかイザベルたちの所まで行けない。
魔物たちは赤黒く光る不気味な魔法印から出てきておりあの印を壊さないと際限なく出てくるのだろう。
「みんな、道を開けて! 治癒師のお兄さんの所に行って守ってもらって!」
魔物を倒しながら生徒たちをディディエのもとに避難させ、私は魔物との戦闘に集中する。
「やい、小娘。右を見ろ!」
「右?」
ジルに言われるままに顔を向けると、エリシャとバージルが魔物に囲まれている。
バージルがエリシャを庇うように魔物の前に立ちはだかり、火炎魔法を放っている。
一方でエリシャは地面に座り込んでおり、足を庇うように手を添えている。逃げる途中で足を捻ってしまったのだろう。
「わ、わたくしのことは置いて逃げてください。バージル殿下に何かあってはいけませんから」
「はぁ? どうして俺がエリシャを置いて行かなきゃならないんだよ?」
「ひぃっ! ごめんなさい!」
「俺は絶対にお前を置いて行かねぇよ。……今度こそ守らせてくれ」
いい雰囲気になっているから邪魔者は入らない方がいいだろうかと一瞬躊躇したが、とはいえ生徒たちを助け出すのが私の仕事だ。
(二人を助け出すわよ!)
私も火炎魔法を使い、二人を取り囲む魔物たちを焼き払った。
「ミュラーさん、怪我の具合はどんな感じ? 足が腫れている?」
「え、えっと……少し、痛みます」
「嘘をつくな。立てなくなっているくせに少しだけ痛いわけないだろ」
そうバージルに指摘され、エリシャは言葉を詰まらせた。図星のようだ。
「早く治療したいけれど――魔物が多いわね」
私たちが話している少しの間にも魔物たちが現れ、近づいてくる。
「エリシャ、大丈夫だ。絶対に俺が守るから安心しろ」
バージルの声に気付いてエリシャの顔を見ると、魔物に怯えて震えている。
足を怪我して動けない状況では尚更、大量の魔物が目の前に居ると恐ろしいだろう。
(ここにサラが居たら光の力で魔物たちを一掃できるのに……)
そのサラは、今は音楽堂の中で魔物と交戦中だ。まだここには駆けつけられない。
(光の力――そうだわ!)
その力を持っている人物が目の前に居る事を今、思い出す。
「ねぇ、ミュラーさん。歌を聞かせてくれない?」
「い、今ですか?」
「こういう時は、心の癒しになるものが必要なのよ」
「……おい、正気か?」
バージルから絶対零度の視線が飛んでくる。
怯えるエリシャに歌えと言うなんて、事情を知らなければ誰だって正気を疑うだろう。
(でも、エリシャの歌にはわずかながらも光の力があるはずだから、あの魔法印の力を弱められるかもしれない)
魔物を呼び寄せる闇の魔法は光に勝てない。
エリシャは覚醒前で光の力が弱いけれど、それでも闇の力を抑えてくれたら、状況が好転するはずだ。
「し、正気よ。恐怖や不安に支配されていると、本来の力を出せないでしょう? だから元気になれるように心を込めて歌ってくれると嬉しいなぁ~と思ったのよ」
「だから、空気読めよ。どこからどう見ても歌える状況じゃねぇだろ!」
バージルの意見はもっともなのだけれど、めげずにエリシャに懇願してみる。
戸惑いながら私たちのやり取りを聞いていたエリシャと視線が絡み合う。
青色の瞳は先ほどまで揺れていたが、それはやがて強い輝きを持って私を見つめ返してくれた。
「……わ、わかりました。わたくしなんかの歌でよろしければ、歌わせていただきます!」
そう言い、エリシャはバージルに支えてもらいながら立ち上がった。
更新に大変お時間をいただき申し訳ございません。
本業が毎日繁忙期になってしまい…なかなか更新までたどり着けませんでした。
限られた時間でも皆様にお話をお届けできるよう、もっと早く描けるよう精進していきますので、引き続き応援いただけますと嬉しいです…!
これからも黒幕さんをよろしくお願いいたします!




