11.卒業生が遊びに来た!
またもや日付をまたいでしまいました…!
休日が明け、私は事務員さんに追加で招待状を貰い、手紙を添えて卒業生――サラたちに送った。
もともとソラン団長とルーセル師団長には学園長の名前で招待状を出していたから、出席して助けてほしいという旨の手紙を書いて送った。
サラたちもソラン団長たちも激務をこなしているから全員が来るのは難しいと思っていたけれど、嬉しい事にみんな出席してくれることになった。
そして――。
「ねーさん! 遊びに来たよ!」
回廊を歩いていると、背後からオルソンに抱きしめられる。振り返り、向き合うような体勢でオルソンの頭を撫でると、嬉しそうにふにゃりと笑う。
(可愛い。フェンリルの耳と尻尾の幻覚が見えたわ)
ぶんぶんと大きな尻尾を振って甘えているように見え、思わず笑ってしまった。
この義弟は日に日に甘えん坊になっている気がする。
「みんなも忙しいところ来てくれてありがとう。久しぶりに顔を見れて嬉しいわ」
オルソンの後から、サラとセザールとフレデリクとディディエもやって来た。
本当はイザベルも呼びたかったのだけれど、マルロー公たちに目を付けられているのに出歩かせるのはよくないだろうと思い、控える事にした。
「おい、オルソン。今すぐメガネから離れろ」
フレデリクはぶっきらぼうな声でそう言うと、オルソンの騎士服の襟首をむんずと掴む。その様子はさながら、母猫に運ばれる仔猫のようだ。
「なんで~? 俺と義姉さんの仲を邪魔しないでくれる~?」
「お前……言葉を選べよ。あと、ファビウス侯爵の顔をよく見ろ」
オルソンと一緒にフレデリクが指差した方を見てみると、いつの間にか現れたノエルが、禍々しいオーラを背負ってこちらにやって来ている。今からラスボス戦でも始まりそうなほどの凄まじい威圧感を感じた。
「あー、兄さんが笑っているね」
「あれがただの笑顔に見える訳が無いだろう?! 目が笑ってないぞ!」
そういうわけで、フレデリクはノエルの怒りを鎮めるべく、私からオルソンをベリッと引き剥がした。
「ちょっと男子ぃ~! そんなに騒いでいたら後輩たちにかっこつかないよ~?」
「うわっ! サラちゃんに注意されるなんて複雑……」
「なんですと?! ドルドルの無礼者!」
「リュフィエ、挑発されるなよ」
サラも加わり一層わちゃわちゃとした集団を、セザールは薄笑いを浮かべて眺めており、ディディエはおろおろと不安そうに見守っている。
(みんな変わっていないわね)
卒業して立場が変わっても、再会すると昔のように話している彼らを見てホッとした。
オリア魔法学園で培った友情は、卒業してからも育んでいて欲しいと願っているから。
◇
それから私は、賑やかなご一行を魔法薬学準備室に案内した。
他の生徒に聞かれないよう、ノエルに防音結界を張ってもらい、本題に入る。
「先日偶然、マルロー公たちの企みを耳にしてしまったのよ。どうやら、音楽祭に出席するセラフィーヌさんを襲撃するつもりらしいわ。そこで、彼らの悪事を知っているみんなに力を貸してほしいの」
ノエル曰く、ここに居るメンバーは魔術師団が襲撃を受けた後にマルロー公について調べているから、今の事情を良く把握しているらしい。
(みんな一年前は学生だったのに、すっかり頼れる社会人になったのね)
真剣な眼差しで話を聴いてくれているみんなを見ていると成長を実感し、改めて感慨深くなる。
それと同時に、一年でみんなが遠い存在になったような気がして、寂しくもなった。
「イザベルを不意打ちで襲うなんて許せない!」
話し終えると、サラが開口一番に怒りを口にした。今すぐにでもマルロー公たちを叩きのめそうとする勢いで立ち上がる彼女を、隣に座っているディディエが宥める。
(……ん?)
ディディエが声を掛けると一瞬で、サラの頬が赤く染まった。
それに、彼を見る眼差しは先ほどとは打って変わってぼんやりとしていて――。
(まるで恋する乙女って感じ、なんですけど?!)
これまでに一度も見た事がないサラの表情に動揺した。
思わず目をゴシゴシと擦ってまた見てみると、サラは両頬を手で覆って隠している。彼女の視線は、音楽祭当日の作戦を話すノエルへと移っていた。
(気のせい……よね?)
在学中、一度も攻略対象たちと恋愛らしい空気にならなかったサラなのだから、今更惚れる事なんてない……と思う。
(それに、ディディエにはフレデリクがいるから……)
ディディエもフレデリクも、卒業後に縁談の話が合ったようだけれど、どちらも断っているらしい。
そのような噂話を聞く度に、心の中でしか彼らを応援できない自分の無力さを思い知る。
「――と言う事で、みんなには先ほど話した役割に分かれて次期王妃を守ってもらいたい」
ノエルが立てた計画はこうだ。私とディディエは生徒たちの避難誘導、ノエルとフレデリクとオルソンは魔物を攻撃し、サラが後方支援をする。そしてセザールは敵の動向の把握。
「ファビウス侯爵! 私がイザベルの隣で守るのはダメですか?!」
「リュフィエの気持ちははわかるが、立場上難しいよ。彼女は次期王妃として出席するから貴賓席に座るからね」
「む~! 近くで守れないなんてもどかしい~!」
「貴賓席にはソラン団長とルーセル師団長がいるから、二人に結界を張ってもらう予定だ。だから安心してくれ」
「……は~い」
サラはがっくりと力なく項垂れる。普段は元気いっぱいな彼女のしおらしい姿を見ると、私もつられて落ち込んでしまう。
「意気消沈するな。士気が下がる」
「も~! 騎士たちはすぐに士気士気うるさいんだから~!」
サラはポカポカとフレデリクを叩いて抗議した。そんな彼女たちを見て、オルソンが笑う。
私も一緒に笑っていると、ディディエがおずおずと話し掛けてきた。
「あの、ファビウス先生とファビウス侯爵、この前は領地の事を手紙で知らせてくれてありがとうございました」
領地の事とは、エルヴェシウス伯爵がモーリア領を狙っているかもしれないという事だ。
これまでの経緯やセラのことについては私とノエルが直接モーリア家へ行って説明し、一緒に対抗策を考えていた。
「ファビウス侯爵の助言通りに領地全土に私兵団を派遣して調べさせたところ、ここ数週間は外部から来た魔術師の出入りが激しかったようです。念のためにセラを中心に警備を強化したのですが――」
ディディエは言いよどむと、ローブのポケットから一枚の紙を取り出した。そこには一文だけ書かれている。
「ある夜、聖堂に泥棒が入ったから騎士たちがすぐに駆けつけたのですがそこには泥棒たちの遺体が転がっていたそうです。その近くに、この言葉が書かれていました」
「月の槍と、闇夜の棍棒と、星の剣……悪夢を見ない為のおまじない……?」
「ええ、これを書いた人物は聖遺物には興味が無かったようで、聖遺物はその場に残されていました」
私はもう一度、紙に書かれたおまじないを見つめる。
ディディエ曰く、これは泥棒たちを殺した人物からのメッセージらしいけれど、どのような意図で書かれた言葉なのかわからないそうだ。
「……ねぇ、モーリア領のセラに置かれている聖遺物は何なの?」
ふと思いついた疑問が口をついて出てくる。
「棍棒です。その昔、グウェナエルが女神様と共にセラに滞在していた際に魔物の集団暴走が起こり、その際にグウェナエルは棍棒を使って殲滅したと民話で受け継がれています」
「そう……。この言葉に、何か関係があるのかしら?」
この言葉を残した人物の事も気になる。
果たしてマルロー公たちの敵であるのか、それとも全く関係のない人物なのだろうか。
「まだまだ問題が山積みね」
そっと溜息をつくと、ノエルが何も言わずに私の肩を支えてくれた。
明日から本業の準備のあれこれがありますので、本日で一旦、毎日投稿は終わりです><
お休み中お付き合いいただきありがとうございました!
久しぶりに毎日更新できて楽しかったです!
今後はまたもや不定期になりますが、引き続き応援いただけると嬉しいです…!
これからも黒幕さんをよろしくお願いします。