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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第十章 黒幕さん、一緒に青春を見守りましょ!
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10.おデート

すみません…!言い回しに悩んでしまい、昨日の投稿に間に合いませんでした(;;)

「レティ、今日は初夏の精霊のような清廉な美しさがあって素敵だよ。裾の生地に透け感があるから涼やかだね。その髪型は初めて見るね、よく似合っているよ。まとまりがあるけれど緩く結われているからレティの優しい雰囲気を上手く表現している。それに首飾りは――」

「ノ、ノエル! お世辞はもういいから馬車に乗りましょ!」


 永遠に止まらない賛辞の言葉を遮り、背中を押して馬車へと誘導する。

 するとノエルはジト目になり、「お世辞だなんて心外だな」と零した。


(全く……、身内の贔屓目もいいところだわ)


 「精霊のような」も「清廉な美しさ」も、私には似合わない称賛の言葉で。

 それを義家族や使用人たちが居る前でつらつらと述べられると気恥ずかしい。おまけに使用人たちが生温かい目で見つめてくるから窓から逃げ出したくなる。


「ノエルは文官よりも評論家や詩人になった方がよかったのかもしれないわね。あんなにもたくさんの言葉を駆使できるんだもの。発揮できる機会が無くて勿体ないわ」

「レティがあの言葉たちを引き出してくれるんだよ。さしずめ、私の女神といったところかな?」

「き、気障だわ!」


 頬が瞬く間に熱を帯び、思わず両手で顔を隠した。


「ほら、手を出して。馬車に乗らないと上演に遅れるよ?」

「誰の所為でこうなったと思っているのよ?」

「さあ、誰の所為かな? レティはもう少し褒められ慣れた方がいいよ」

  

 そう言い、ノエルは文句のつけ所がないような洗練された所作で私をエスコートし、馬車に乗せてくれる。

 

 ただ一つ不満だったのは、黒幕然とした微笑を浮かべていたことくらいで。


     ◇

 

 それから馬車に揺られ、王都にある音楽堂に辿り着く。

 音楽堂の周辺にはいくつもの馬車が並んでおり、その中に見知った家紋がついた馬車がないか確認した。


(今のところ、ぺルグラン公爵家の馬車はないようね)


 今目の前に無いとはいえ、先に到着して馬車を別の場所で待たせている可能性もあるから、用心するに越したことはない。


「あの二人、ここに来ているのかしら?」

「ああ、どうやらレティの予想が半分的中したようだね」

「半……分?」


 妙な言い回しが引っかかって聞き返すと、ノエルは大通りからやって来る集団を指差す。

 そこに居るのは――。


「エリシャとバージルに……リアとゼスラとイセニック……」

「二人きりではないようだね」

「……ええ、五人も居るわ。割り切れない人数だからダブルデートでもないわね」

「それにどう見てもデートが始まりそうな雰囲気ではないね」

 

 先頭を歩くエリシャとリアが楽しそうに話しており、その後ろにはゼスラを挟んで両脇に居るバージルとイセニックが口喧嘩している。


(ゲーム通りにエリシャとバージルが音楽堂に来たけれど、これだと恋愛の発展は望めなさそうね)


 実は、今回のデートにはちょっとした期待を抱いていた。

 もしもエリシャとバージルがこの音楽堂に来て、バージルがゲームの中で言っていた通りの言葉をエリシャに掛けたら、エリシャの気持ちが少しはバージルに傾いてくれるのではないか、と。


(まあ、ヒロインと悪役令嬢が仲良くしているのだし、これはこれでいいか)


 ヒロインであろうと悪役令嬢であろうと攻略対象であろうと、この世界では――私の生徒となったこの世界では、誰一人不幸になることなく幸せになって欲しい。


「あ! ファビウス先生だ!」


 リアの溌剌とした声が聞こえてくる。どうやら彼女たちに気付かれてしまったようだ。


「あら、奇遇ね。みんなも上演を聴きに来たの?」

「そうなんです! 音楽祭に備えて実際の上演を聴きにきました!」

「そ、そうなのね」

「友だちと一緒に行くのは初めてなので、昨夜は楽しみ過ぎて眠れませんでした!」

「ふふ、上演中に眠ってしまわないようにね」


 どのような経緯でそうなったのかはわからないが、バージルが形容し難い表情でリアを睨んでいるあたり、込み入ったいきさつがあったのかもしれない。


「みんな勉強熱心で偉いわね」

「実は、ゼスラ殿下が誘ってくれたんです!」

「ああ、ミュラー殿とバージル殿が二人で音楽堂へ視察に行くと聞き、連れて行ってもらいたいと願い出たのだ。もちろん、リア殿とイセニックも一緒に、五人で」

「なるほど……」


 主犯はゼスラだったようだ。

 それなら、思いがけずエリシャとのデートを邪魔されたバージルが怒るのも当然だろう。後でゼスラにそれとなく指摘してあげる事にした。


     ◇


 エリシャたちと別れ、私たちは予約していた席に座る。

 ノエルが張り切って予約してくれたのはボックス席で、個室のようになっているから会話を聞かれなくて済むし、下の階に居る他の来場客を眺められる。


「ここに来るまでの間、理事長の姿を見なかったわねそれらしき馬車もないわ」

「その代わりマルロー公はいるね」

「うげっ。どこに?」

「扉の向こうから声が聞こえてくるんだ」

 

 そう言われ、扉に耳をくっつけてみると、確かにマルロー公が誰かと話している声が聞こえてくる。


「――例の準備はできたか?」


 いきなり不穏な会話を拾ってしまった。背筋が凍るが、扉から耳を離さず会話に意識を集中させる。


「――もちろんです。ぺルグラン公の機嫌取りしかできない誰かとは違いますので」

「――エルヴェシウス伯爵よ、公爵家の当主である私を侮辱する気か!」

「――私は卿の名前を出していないのに、どうして怒るのですか?」


 会話の相手はエルヴェシウス伯爵らしい。声音や言葉の端々に、マルロー公を軽蔑する感情が滲み出ている。


「――フン、御託はいいから上手くやるんだぞ!」

「――ええ、言われなくても。オリア魔法学園の音楽祭を訪れた妃候補に魔物を差し向けるくらい、下っ端の魔術師に命じれば容易い事です」


 聞き捨てならない言葉に反応して声を上げそうになり、隣に居るノエルに口を覆われてしまう。


「レティ、今は我慢して。相手に聞こえてしまう」


 そう耳元で囁くと、ノエルは私を宥めるように抱きしめ、背中を撫でる。

 子どもをあやすような扱いには文句をいいたいところだが、おかげで少しだけ心のざわつきが落ち着いた。 


 足音が遠ざかったその刹那、ドスンと大きな音がして床が揺れた。何が起こったのかわからないが、地震ではなさそうだ。


「――畜生、エルヴェシウス伯爵め。ぺルグラン公が隣に居ないから私を見下しやがって……!」


 どうやらエルヴェシウス伯爵が去り、残されたマルロー公が地団太を踏んでいるらしい。


(あれだけわかりやすくバカにされていたら、確かに苛立つわよね)


 声だけでもわかるほど、エルヴェシウス伯爵はあからさまにマルロー公を軽蔑していた。

 公爵位と伯爵位の階級の差があるとはいえ、マルロー公爵家の現状からするともはや爵位で威を振るうのは難しいだろう。


(マルロー公爵家は近年、財政が傾いていると聞くし……それに支持していた第一王子が処刑されてしまったから、見くびられても仕方がないけれど)


 それでも手を組むのは、益があるからだろう。


「音楽祭の警備を強化しないといけないけれど、今聞いた話をどう説明したらいいのかしら?」


 イザベルの身が危ないし、生徒たちも被害が及びそうな状況だ。しかし、よもや盗み聞きした内容を信じてもらえるとは思えない。


「ふむ……、それでは強力な助っ人を音楽祭に招くのはどうだろうか?」

「強力な助っ人?」

「ああ、私たちと同じ情報を共有している、力のある人たちを音楽祭に招待すればいい。――ソラン団長やルーセル師団長、それに卒業生たちを招こう」


 

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