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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第二章 黒幕さんは、お別れの寂しさを知ったようです
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02.星の引き継ぎ

更新お待たせしました!


「レティシアさん、こんにちはっ!」


 回廊を歩いていると、ユーゴくんに呼び止められた。

 振り向けば、ダルシアクさんも一緒に居る。


 今日もユーゴくんは元気いっぱいで、目が合うなりふにゃりと笑って駆け寄ってくる姿はまさにゴールデンレトリーバー。


 ……ダルシアクさんがドッグトレーナーに見えてしまったのは秘密だ。


 ちなみに、足元に居るジルはユーゴくんの大きな声が苦手なようで、耳を後ろに倒して迷惑そうな顔をしている。


「あら、ユーゴくんにダルシアクさん。魔術省のお仕事?」

「はい! 学園長にご挨拶に伺いました!」


 どのような手を使ったのかは謎に包まれているのだけど、ユーゴくんは魔術省で働くことになった。

 今は目下、ダルシアクさんから引継ぎを受けているところだ。

 本当は別の人がダルシアクさんの仕事を引き継いでいたのに、急遽ユーゴくんに交代させたらしい。


 ダルシアクさんのポジションはノエルと一緒に仕事をすることが多かったから、後任選びには大層こだわっているようだ。


「いいですか、ユーゴ。この人はしっかりと見張っておきなさい。闇の王の憂いを増やさないよう万全の備えで対応するのです」

「はいっ! レティシアさんは自分が見張ります!」


 元・黒幕(予備軍)の手下たちは、本人が目の前に居るのにこの調子だ。

 純真で天真爛漫なユーゴくんがダルシアクさんのように捻くれた大人にならないか心配になる。


 ……ユーゴくんは私より三歳年下だから、もう大人なのだけどね。

 童顔だからつい、生徒たちと同じ年頃の少年のように見えてしまう。


 本人が気にしているから口に出して言えないけれど、ユーゴくんは年齢より若く見える相貌だ。

 屈託のない性格も相まって、生徒たちよりもずっと若者らしいのよね。


 ダルシアクさんはユーゴくんの前だと取り繕わず無愛想な状態だ。

 それでも、新しくできた舎弟を大切に育てているのが何となくわかる。

 厳しく目を光らせているけれど、ユーゴくんが王都の生活に慣れるよう気遣いもしているのよね。


 器用に見えて、実は不器用な人だ。

 勿体ないと思うのだけれど、ノエルはそれがダルシアクさんの持ち味なのだと言っていた。


 それにしても、ダルシアクさんがノエルを他の人に任せるなんて意外だわ。

 以前のダルシアクさんならきっと、そのような事はしないと思う。

 もしかしたら、ユーゴくんが星の力を持っているから信用しているのかもしれないわね。仲間意識というものが芽生えているような気がする。


「この人はどんな行動をするのかわからないから、二手先を読んで対応するように。人間だと思ってはいけません。珍獣だと思って万事に備えておきなさい」


 感心している矢先にこれだ。

 感慨もあったものではないわね。

 平然とした顔でこちらを指差しては珍獣呼ばわりしてくるなんて、失礼にも程があるわ。


 ……相変わらず、私に対して風当たりが強い。

 

「あの、聞こえているんですけど?」

「当り前です。聞こえるように言いましたので」

「もっと失礼だわ!」


 と、まあこんな調子で一言二言多いダルシアクさんだけど、もうすぐでこの国を発つとなると寂しくなる。


 ダルシアクさんは、ここから北上したベルク王国に行くらしい。

 山岳地帯にある極寒の地で、住民が少ないから静かで居心地が良さそうだと思い、引っ越し先に決めたと言っていた。

 それに、ベルク王国だといざという時にノックスに駆けつけられる、という理由で選んだそうなのよね。


 少し無理がありそうな距離だと思うけど、ダルシアクさんの忠誠心が不可能を可能にするのかもしれないわ。

 この人ならできそうな気がする、と何故か確信してしまうのよね。


「ユーゴくんの指導はいいですけど、引っ越しの準備は大丈夫なんですか?」

「ええ。荷物はさほどありませんのですぐに終わりました」


 ダルシアクさんが準備した荷物はトランク一つだけだった、とユーゴくん聞いたのだけれど、本当なのかしら?

 これまでは一体、どのように生活してきたのか気になるところだ。


 星の力を持つ者は各国を転々として生活していると、以前ダルシアクさんから聞いたことがある。

 同じ国には留まれない運命なのだとも言っていた。

 夢を操ることができる彼らは、ともすると憎悪の矛先を向けられかねないらしい。


 そう話していた時のダルシアクさんの表情がどこか寂しそうに見えて、やるせない気持ちになる。

 いかに特殊な魔力を持っていようと、彼らだって人間だ。家族や友人や、恋人がいるのにひとりで国を離れなければならないのは、どれほど辛かっただろう。


 だからダルシアクさんは……一歩を踏み出せないでいるのかしら?

 ウンディーネの事が好きなのは誰の目にも明らかなのに、彼女に想いを伝えようとしているところはちっとも見たことが無いのよね。


 それどころか、いつもウンディーネの恋バナを聞いてあげている。

 健気な姿を見せられてしまうと、さすがに同情するわ。


「ウンディーネの事は、どうなんですか?」

「なっ! 何故彼女の名前が出てくるのですか?!」

「理由はダルシアクさんが一番よく知っているでしょうに」

「くっ……」


 名前を口にするだけでいつもの無表情が剥がれ落ちてしまうのだから、相当好きなのだと思うのに……。

 このまま、何も告げずにノックスを去るつもりなのかしら?


「一体何をお考えなのかわかりませんが、彼女はただの話し相手です」

「ウンディーネが失恋したらすぐに駆けつけて慰めてあげてるくせに」

「気のせいです。何故かいつも、失恋したばかりの彼女を偶然見つけてしまうだけです」

「意地を張っていると後悔しますよ?」


 するとダルシアクさんは眉尻を下げ、自嘲気味に笑みを零す。


「このままでいいんですよ。かつて話を聞いてくれていた陰気な男として、記憶の片隅に残っていればそれで十分です」


 本心はそう思っていないくせに、自分の気持ちを殺そうとしている。

 わかっているのにどう声を掛けたらいいのかわからず、そのままダルシアクさんたちを見送ってしまった。


 お節介なのは重々承知だけれど、ノエルに相談した方がよさそうね。


ようやく同人誌の入稿が終わりましたので、連載を再開いたします。

ローランとウンディーネの恋の行方を見守ってあげてください。


また、Twitterに黒幕さん投稿1周年記念のSSを投稿しているのでお時間ありましたら読んでみてくださいね!


▽ハッシュタグ

#黒幕さん番外編『約束の騎士と、小さな優しい夢(※ノエル視点)』


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― 新着の感想 ―
[一言] ダルシアクの意気地なし〜! ウンディーネの失恋のたびに話を聞いては、ウンディーネの求める男性像が立派にできてしまって、身動きがとれなくなったのかしら。
[一言]  ユーゴがレティシアの三つ下!?Σ(´□`ノ)ノ  てっきり新入生達と同じくらいかと思ってました。そして魔法省で働くとは……文字通りダルシアクの後任としてまるまる引き継ぐのですね。  ノエ…
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