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閑話:報せ(※ノエル視点)

更新お待たせしました!

「――おや、あなたがここに来るなんて珍しいですね」


 魔術省舎の廊下でエルヴェシウス卿を見かけた。

 どうやら待ち伏せをされていたらしい。彼は私を見つけるとすぐに近づいてきた。

  

「ノエル・ファビウスに伝えておきたいことがある」

「それでは場所を変えましょうか。ここは人目がつきますから」


 普段は宮廷魔術師団の研究施設に籠っているか、魔物の討伐に出ている彼がここに来る事は無く、物珍しさに周囲の注目を集めている。


 エルヴェシウス卿は静かに頷いて提案を受け入れてくれた。

 二人で魔術省舎の裏庭へ移動し、防音魔法を展開する。

 

「――次はモーリア伯爵家が狙われる」

「なるほど。目星がついたのですね」


 嫌な予感が当たってしまったものだ。エルヴェシウス伯爵の企みを調べ始めた当初から、レティの大切な教え子が巻き込まれる可能性を危惧していた。


 特に心配していたのは二つの家門――モーリア伯爵とセラフィーヌ公爵家だ。どちらも領地にセラと言う名の街があった。


 さすがに公爵家は狙わなかったようだが、かと言ってモーリア伯爵家も力がある家門だ。足元を掬うには一筋縄ではいかぬとわかっているのだろうか。


 ――それとも、危険を冒してまで聖遺物を手にしたい理由があるのか。


「この事を妻に話したのですか?」

「ファビウス先生には伝えていない。きっと、知ると不安になるから」


 彼の言う通り、レティがこの事を知れば居てもたってもいられなくなるだろう。エルヴェシウス卿は意外にもレティの性格をよく把握している。

 

「……お気遣いありがとうございます」

「気遣っているのではない。ファビウス先生に何かあれば、ゼスラ殿下たちが悲しむから心配しているだけだ」

「……」


 人間に関心が無いと聞いていたが、随分と生徒たちの事を気にかけている。

 少しずつだが、この世界はレティが予見していた運命から変わってきているようだ。


「確かにこの事を知れば、妻は不安になるでしょう。しかしそれ以上に、何も知らずにいる事の方がもっと恐ろしく思う方なのです。だから私から妻に話しましょう」

「なぜ? 知らなければ、不安にならずに済むだろう?」


 知らなければ、または、知らないように振舞えば、困難に巻き込まれずやり過ごせるだろう。

 それでもレティは敢えて巻き込まれに行き、救いの手を求める人々を助けようと奮闘する。


「ファビウス先生は変わっているな」

「私もそう思います。レティのそのようなところが愛おしいのです」


 全力でひたむきに奔走する彼女を見ていると応援したくなる。

 彼女がやり遂げる瞬間を見届けたくて目が離せなくなるのだ。


 ――その一方で、いつか彼女が巻き込まれて命を落としてしまうのではないかと不安を覚える事もある。


「もちろん、無茶をしないか不安でなりませんがね」

「なるほど。それでは、助手になった私が側で守――」

「その必要はありません。私の使い魔が護衛をしていますのでご心配なく」

「使い魔に四六時中見張らせているなんて、束縛もいいところだ」

「人聞きが悪いですよ。妻を守れない出来損ないの夫にはなりたくないだけです」


 ましてや、妻が前世で気に掛けていた相手に妻を任せるなど言語道断だ。


「ゲームとやらに出てきた私には、少しも惚れてくれなかったからな……」

「顔色が悪いが、大丈夫か?」

「ええ、少し虚しさに襲われただけですのでご心配なく」

「そう言われても、安心できる要素がないのだが?」


 本当は、ジュリアン・エルヴェシウスをレティの視界に入れたくないほど、彼に嫉妬している。

 レティに前世からずっと気に掛けてもらえる彼が羨ましくて仕方がないのだ。


「エルヴェシウス卿はどうか、ご自身が成し遂げたい事に専念してください」

「それでは、ノエル・ファビウスとファビウス先生を守る」

「だから、その必要は無いと――」

「ビゼー領で魔物が現れた時、一際大きな『声』が聞こえてきた。ノエル・ファビウスから――我から力を盗んだ忌まわしい人間から全てを奪い取る、と」

「力を、盗んだ?」 


 一体、いつ私がこの力を欲したというのだろうか。

 望まずに持たされたこの力の所為で大切な人を奪われるくらいなら捨ててしまいたいと、何度も願ったというのに。


「邪神は月の力を取り戻そうとしている。だからサラ・リュフィエに光使いの力で護符を作ってもらった方がいい。それで少しは邪神の攻撃を防げるはずだ。……気休め程度かもしれないが」 

「ご忠告ありがとうございます。ルーセル師団長を通して相談してみましょう」


 邪神に対抗するには光使いの力に頼るしか方法がない。

 しかし光使いとて人間だ。女神から力を授かっているとはいえ、女神に匹敵する存在に太刀打ちできるとは思えない。


(情報が必要だ。ローランに異国の文献を調べてもらおう)


 マルロー公たちの手が届きにくい異国なら、手掛かりがあるのかもしれない。


     ◇


「――次はモーリア伯爵家ですか。ルーセル侯爵家に匹敵する実力を持つ魔術師家の領地を狙うという事は、それほど特別な聖遺物があるのかもしれませんね」


 ユーゴは読んでいた本を机の上に置き、溜息をついた。


「一難去ってまた一難ですね。安息日も働きづめな気がします」

「そうだな。レティとゆっくり新婚生活を楽しみたいのに、このままではお預けのまま一年間が終わってしまいそうだ」

「もう十分新婚生活を満喫しているように見えるんですけど? 毎日レティシアさんと一緒にいるのに、まだ足りないんですか?」

「当り前だ二人きりの時間が足りなくて飢えているんだ」

「うわぁ……レティシアさんは大変ですね……」

「邪魔者がたくさん居るから困ったものだよ」

「……」


 生徒たちに盗られてしまうと嘆くと、ユーゴは笑った。


「次は誰にレティシアさんを盗られているんですか?」

「バージル殿下とミュラーさんだ。もうすぐで二人にとって大事な時期になるらしい」

「大事な時期……あー、音楽祭の事ですかね。もうすぐで出演者の選抜があるそうですね。ゼスラ殿下から聞きました」


 音楽祭が重要な行事であり、注視せねばならないそうだ。

 レティは音楽祭までの日を指折り数え、毎日楽しみにしている。


 本人は不安でならないと言っているが、それにしては嬉しそうだ。


「二人を見守ると張り切っていたよ」

「レティシアさんは本当に生徒たちを大切に想っていますね」


 大切どころか、夢中になって守ろうとするから困る。

 少しはこちらにもその関心を向けてほしいところだ。


「音楽祭……か」

「ノエルさん、もしかして聴きに行くんですか?」

「……そうだね」


 ゲームの続編とやらは音楽が物語に深く関わってくるとレティから聞いた。それならば、この状況を打開するきっかけを見つけられるかもしれない。


 ――ついでに、バージルに恩を売っておこう。

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