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第四十三話


 ひえぇ、ドキドキした。なんだか修羅場を覗いてしまったみたい。


 というか、どういう状況だったのかしら?

 ルチアはクリスタル公爵家(うち)に来る前、貴族のお屋敷で住み込みで働いていた、と言っていた。もしかしたら、そのときの知り合い?

 でも、彼も生徒なら貴族令息のはず。貴族のお屋敷にいたときの知り合いなら、その貴族の令息ということになる。

 当時ルチアは単なる使用人だったはずだから、元雇い主の息子にあんな口調で話すなんて、どんな理由があるのかしら――。


「……シビー」

「ひぃっ!!」


 いきなりかけられた声にすくみあがる。

 振り返ると、いつの間にかルチアが立っていた。

 なんで!? さっき立ち去っていかなかったっけ!?


「る、ルチア」

「ここで何をしているんです」

「ご、ごめんなさい。忘れ物をしたから取りに戻ったら、声が聞こえたからつい……」


 ルチアは腕を組んでため息をついた。

 もうさっきまでの冷気はまとっていないようなので、ひとまず安心する。


「さっきの子、おともだち? 喧嘩しちゃったの?」

「どこから聞いていたんです?」

「『わたくしが悪女だから一緒にいない方がいいよ』ってところ辺りから」

「そこから聞いていて、よく『お友達と喧嘩』 という認識になりますね」


 やっぱりまだ冷気残ってない? 怖いんだけど!

 ルチアは「やれやれ」という風に肩をすくめると、どうでもよさそうに言う。


「ただのクラスメイトですよ」

「それであんな言い合いするの?」

「因縁をつけられただけです」


 平然と言っているけれど、ルチアの立場で貴族令息に因縁をつけられるってちょっと厄介なことよ? クリスタル公爵家にも関わるし。

 それにしても、ルチアのクラスメイトということは、わたくしもクラスメイトのはず。

 一生懸命に頭を回転させて記憶を探る。


 ……そういえば、歴史の授業で“闇の禁術(オスクリタ)”の話が出たとき、わたくしの方をにらんできた男の子――。

 あのときの子も、赤みがかった銀髪に赤紫の瞳の少年だった気がする。

 そうか、わたくしが“闇の禁術(オスクリタ)”を使いそうな悪女だって気づいていた子だわ。

 だから、一緒に行動しているルチアに忠告しに来たのかしら? それなら、乱暴な口調だけど良い子なのかも。

 肝心の忠告相手がこれじゃあかわいそうだけど……。


 わたくしが勝手に憐れんでいると、ルチアはこう言ったのだった。


「調べることがあるので、今度こそ先に行ってください」

「えぇっ、お昼はどうするのよ?」

「お好きにどうぞ」

「もう。じゃあ、マリベルたんたちと食べてるからね?」


 ルチアは今度こそ立ち去って行った。

 本当に忠告してくれただけの良い子ならいいけど、因縁つけられてるなら相談するのよ、ルチア。

 ……と、去っていく背中に心の中で声援を送り、ペンケースを回収してマリベルたんたちのもとに戻る。


「あっ、シビル様っ! こっちこっち!」


 正門前の広場にあるベンチにいたリディアがぶんぶんと手を振ってくれた。

 駆け寄ると、すでにサンドイッチが用意されている。


「おかえりなさい、お姉様。

 すぐ売り切れてしまうそうなので、先に買ってしまいました」

「まあ、そうなのね。ありがとう」

「あそこで買ったんですよ。並んでるでしょ?」


 リディアが指さした先には、出張販売に来ているらしいパン屋が商品を並べていた。生徒たちの行列が今も長々と並んでいる。

 フォレスター学園でのランチは食堂でのビュッフェ・売店や出張販売でのテイクアウトが主だ。食堂はいつも安定して美味しいしお上品な食事を食べられるけれど、実家を離れてちょっと冒険したい子たちがテイクアウトをよく利用するらしい。ちなみに、敷地外に出ればお店もあるけれど、時間も限られているのであまり利用する生徒はいない。


「お勧めのハムサンドです! どうぞ!」


 リディアが手渡してくれたサンドイッチを受け取り、ランチにする。

 包みを開くと、ハムと野菜が挟まれたサンドイッチだった。ボリュームは少なめだけど、貴族がかじるのにはこれくらいの厚さじゃないと厳しいのかも。

 でも、確かに、このサンドイッチ美味しいわ。自家製ハム、なるほどね……。


「おいしい〜! 燻製だからいい香りだね!」

「はいっ。ソースもいいお味で、よく合います」


 マリベルたんとリディアはきゃっきゃしながら食べている。

 ……なんだろう、最近、この二人とわたくしの間になにか隔たりを感じるのよね。

 きゃいきゃいしている二人を「かわいいわねぇ」とそっと眺めている方が落ち着くというか。

 もしかして――年齢の差?

 一応まだ15歳とはいえ、わたくしには前世から継続して記憶があるから……続けて数えると……。

 ハッ、だめだめ、恐ろしい事実に気付いてしまいそうだったわ。

 わたくし自体はまたピチピチの15歳なんだもの。記憶は続いているけれど、肌年齢とかはまだ若いから!


「――シビル様、何かあったんですか?」


 わたくしが挙動不審だったのか、リディアが声をかけてきた。

 慌てて平静を装って返事をする。


「な、なんでもないわよ!?」

「えっ、そうなんですか? 珍しいですね」


 なんでもないことが珍しいって、わたくしいつもはなんでもあるってこと!?

 わたくしがショックを受けていると、リディアが不思議そうに首を傾げる。


「ルチアーノさんが一緒にいらっしゃらないの、珍しいなって思って。

 なにか用事があったのかなって思ったので、お聞きしたんですけど」

「あ、ああ、そういうことね」


 わたくしが考え事をしていたせいで話を聞いていなかっただけだったようだ。

 よかった、リディアにまで変人認定されているわたくしは存在しなかったのね。


「ルチアなら調べることがあるって言ってたわ」


 そういえば、あの美少年は誰だったのかしら。クラスメイトってことは分かったけど、ルチアに名前を聞きそびれてしまった。

 いわゆるショタ系で可愛かったけど、口調がものすごいギャップだったなあ。

 ……ギャップ持ちのショタ系美少年なんて、なかなか盛りだくさんな属性よね。

 もしかして、隠しキャラクターだったりして……?


「あ、そういえばルチアーノさん、ルカリーニ様とお話されてましたね」

「ルカリーニ?」

「あ、同じクラスのルカリーニ・ホークヤード様です。

 銀髪の、すっごくお綺麗な方で……あっ、男の方なんですけど」

「ああ、ホークヤード……」


 ホークヤードは聞いたことがある名だわ。上級貴族の公爵家だったっけ。

 銀髪ですっごく綺麗でルチアとしゃべっていたってことは、もしかしたらさっきの美少年が、“ルカリーニ”なのかしら。


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