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第三十八話

 こうして、ダンスパーティーイベントは終了した。

 ところどころトラブルはあったけれど、まあ成功の部類と言っていいだろう。

 ただ、気になる点も残った。


「というわけで、今日はダンスパーティーイベントの反省会よ!」

「なるほど」


 パーティーの翌日、わたくしは寄宿舎の自室にルチアを呼び出していた。

 今日が休みの日でよかったわ。授業がある日だと、『門限の20時まで』という短い時間ではほとんど話ができないもの。


 ルチアはわたくしと対面してソファに座っている。

 本当は床に正座させたいくらいなのだけれど、絨毯が敷いてあるとはいえ土足で歩くところに座らせるのは酷だったので、温情でソファに座らせてあげているの。

 なぜわたくしがこんなに怒っているか――。

 それはもちろん。


「どうしてマリベルたんをダンスに誘わなかったの!

 結局マリベルたんとダンスしなかったのはルチアだけなのよ!?」


 ダンスパーティーの日、マリベルたんはオズワルド殿下と踊った(わたくしはほぼ見られなかったけど)あと、オズワルド殿下の勧めでクラレンスと踊り、その後自分から志願してきたシチューと踊っていた。

 しかしルチアは頑として誘いに行かなかったのだ。

 このままじゃ、ルチアのルートにだけ入れないじゃない!


 わたくしはルチアのためを思って叱っているのに、ルチアはどこ吹く風だ。

 反省するでもなく、むしろなぜか不満げな雰囲気がある。


「ですから、私はダンスが得意ではないので、マリベル様のご迷惑にならないよう辞退したのだと申し上げたではないですか」

「得意じゃないなんて言って、ちゃんとできてたじゃない!」

「あれはシビーがリードしてくださったからですよ」


 もう、ああ言えばこう言う。

 なんで分かってくれないのかしら。美貌にあぐらをかいていたらマリベルたんに選んでもらえないって、口を酸っぱくして言っているというのに……。


「ルチアったら、自分が大事な機会を失ったことがまだ分からないの?

 このままじゃマリベルたんに選ばれなくなっちゃうのよ!」


 ぷんぷん怒っていたら、ルチアはふぅとため息をついた。

 なによ、文句があるなら言いなさいよ。わたくし、なにも間違ったことは言っていないんだから!

 睨み付けていると、ルチアは「やれやれ」みたいな感じで首をすくめると、「本当は言いたくなかったのですが」と前置きをした。


「実は、今まで黙っていたことがあるのです」

「なによ?」

「実は……乙女ゲームとやらのルートについて、色々と思うところがありまして。

 独自に色々と手を回して調べている最中なのです」

「えっ? どういうこと?」

「シビーが言っていたでしょう。選ばれた攻略対象はマリベル様に癒されて幸福を得る。

 しかし、裏を返せば、選ばれた攻略対象以外の登場人物は、癒されることがないまま不幸せになってしまう――ということではないですか?」

「うっ……そ、ソンナコトナイワヨ」


 ちょっと痛いところを突かれ、思わずカタコトになる。

 確かに、攻略対象たちが様々抱える問題は、ルートに入ることで解決に進んでいく。つまり裏を返せば、その周では選ばれなかった攻略対象たちの問題はほったらかしになってしまうのだ。

 それは確かに、選ばれなかった攻略対象にとっては、幸せな未来とは言いがたいかもしれない。

 わたくしも、実は少し気がかりだったのよね。攻略対象たちはみんないい子ばかりだから、ちゃんと幸せになってほしい。優しいマリベルたんもそう考えるでしょうし。

 ルチアはわたくしの心中を見透かしたように頷く。


「このままイベント通りに行動したところで、マリベル様がお選びになった方以外が不幸せになってしまうのなら、それはシビーの望むところではないでしょう。

 ですから、イベントで好感度をあげる、というゲームのシステムに沿った形ではない形で働きかけを行おうと考えています。

 これは私が勝手に考えて動いていることなので、確証はないのですが……」

「な、なるほどね……。

 でも、働きかけって、具体的にはなにをするの?」

「それは……まだはっきり考えがあるわけではないので、今お伝えすべきではないかと。

 シビーを心配させたくもありませんから」


 ルチアはダンスパーティーのときのように困り顔を見せた。

 うう、あのルチアにこんな顔をされると、これ以上問い詰めにくい。

 わたくしがまごついていると、ルチアは一転真剣な顔をしてわたくしを見つめる。


「皆が幸せになるために、方法を考えたいんです。

 どうか、私に任せていただけませんか」


 ルチアの真剣な目に、わたくしはなにも言えなくなってしまった。

 ルチアがそこまで考えているだなんて、全然気が付かなかった。

 ルチアなりに『ナナハナ』のことを受け止めて、良い形でエンディングを迎えられるように考えてくれていたのね……。


 ルチアのことを誤解して、責めてしまったことが恥ずかしくなる。

 美少年だからって余裕ぶっこいてるだなんて、ひどい勘違いをしてしまったわ……!


「ごめんなさい、ルチア……!

 そんなに『ナナハナ』のことを、マリベルたんの未来のことを真剣に考えてくれていたのね!

 わたくし、誤解していたわ……ルチアはみんなのためを思ってくれていたのに……」

「いえ。私が勝手に動いていることですから。

 どう作用するかもわかりませんから、私は私の考えで動いてみます。

 シビーは自分の思うように行動なさってください」

「分かったわ。話してくれてありがとう。もう問い詰めたりしないわ」


 自分の浅はかな考えを反省しつつ、わたくしはルチアを応援することに決めた。

 だけど、大事なことだけは忘れない。


「ただし……ひとつだけ言わせて。

 危ないことはしないでちょうだい。これだけは約束して。

 みんなの幸せには、あなたが幸せになることも含まれているのよ。ルチア」

「……はい。分かりました」


 ルチアは表情をやわらげ、しっかりと頷いた。

 ルチアの考えが分かって誤解も解けたところで、和やかな雰囲気になる。

 このまま反省会は解散――としたかったのだけれど。


 わたくしにはもう一つ、懸念があった。

 それは、ダンスパーティー中にマリベルたんにちょっかいをかけてきた取り巻きたちのことだ。


 本来わたくしの取り巻きの立場であるあの令嬢方が、わたくしがいなくてもマリベルたんをいじめる……というところまではまだわかる。

 でも、本来なら悪役令嬢が言うはずのセリフまで、彼女たちのものとなった。

 さらに、わたくしが割って入った後も、わたくしはマリベルを害するようなことは何も言わず、彼女たちはマリベルに暴言を浴びせ続けた。

 悪役令嬢を差し置いて、悪役令嬢のセリフまで奪ってヒロインをいじめる取り巻きたち……というのはいささか妙に思える。


「取り巻きのはずだった令嬢たちの行動……ルチアはどう思う?」

「そうですね。本来なら取り巻きだったはずということですが、彼女たちとシビーはどのように行動を共にするはずだったのでしょうか」

「『ナナハナ』では、取り巻きたちはわたくしに媚びを売っておけば自分たちの地位も安泰だと考えていたの。

 わたくしがマリベルたんを嫌っているという噂を聞きつけ、わざとマリベルたんを馬鹿にするような発言をしてわたくしに取り入るのよ」


 でも、今の彼女たちには、わたくしに媚びるつもりはないんだと思うのよね。

 だってわたくしに媚びを売りたいなら、『マリベルたんの悪口を言う』なんて最もやってはいけないことじゃない?


「わたくしに取り入りたいなら、むしろマリベルたんを褒めちぎらなくちゃいけないのよ。

 それをわざわざ悪口を言ってきたのだから、わたくしに宣戦布告していると見るべきなのかしら」

「……一般的に考えれば、傍若無人とのうわさのある令嬢に庶子の妹ができたら、その令嬢は妹を嫌っているはずだ――と考えてもおかしくないですが。

 しかし、今のあなたはそうではないですからね」

「そうでしょう?」


 だから、どうしてあの子たちがあんなことをしたのか分からない。


「ということは、彼女たちはシビーに褒めてもらうためではなく、自主的にいじめたということになりますね」

「でも、そんなことして何の得があるのかしら……」


 わたくしが頭をひねって考えていると、ルチアがふいに「もしかして」とつぶやいた。


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