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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二章

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93.パックとテラ

読みやすいように全体修正 内容変更なし

 既に日は傾き、平原を、砦を赤く染めていた。

 砦に戻った俺達は、いや、俺は、警備の領兵や冒険者、そして足止めをくらった商人達に、不審な視線を投げつけられていた。


「なんかじろじろ見られてるんですけど……」

「大丈夫じゃ。警備兵も素通り出来たじゃろ」

「ハハハ。美女を二人を(はべ)らせているから、目立っているだけだよ」


 見られている原因は分かる。

 当然、俺が、この両手でお姫様抱っこしている魔術師の所為(せい)だ。

 ローブが頭から被れるものである事に気が付き、砦に入る前に着せたのだが……猿ぐつわをかませ、手足を縛っている状況は、変えることは出来ない。

 なので結局の所、俺は、怪しい人さらい風のままであった。

 変質者の線が消えただけでも、良かったと思うとしよう。

 視線は無視して、愛馬の所へ戻る。早く町へ帰りたい理由がある。


「口封じに来ますかね?」

怨嗟(えんさ)の炎で死んだと思っているだろうし、可能性は低いと思うよ」

「じゃが、こうも目立っておるしのぅ。(はよ)う帰るのが得策じゃな」


 愛馬の元へ戻ると、俺は魔術師を立たせ、足の拘束を解く。

 魔術師は、特に逃げる素振りも見せずに、大人しくしていた。

 彼女を愛馬の背に乗せ、俺も、その後ろに股がる。


「重いけど、頼んだぞヴェント」


 愛馬はブルルと低く鳴き、了承を俺に伝えてくれる。

 テラさんがこちらを、じぃっと見ている事に、気が付いた。


「どうしたんです?」

「本当はわしが、ヴェントに乗りたいのじゃがのぅ」


 前回のトゥル村からの帰路で、我が愛馬の乗り心地を気に入ってくれたらしい。

 それは、俺にとっても嬉しいことだ。


「二人乗りは、また今度にでも」

「そうじゃな。約束じゃぞ」

「はい」


 テラさんは、優しく微笑んでいる。

 彼女の尖った耳が、上下に動いていた。嬉しそうで何よりだ。


「ほら、遊んでないで帰るよ。テラさん、マルク君」

「そうじゃな。行くぞマルク」

「俺達も行こうか。ハイッ」


 先へ行ってしまった二頭の馬に追いつくよう、愛馬を歩かせる。

 俺の前に魔術師を乗せていても、愛馬の歩く速度は変わらず、乗り心地は良い。

 俺達は帰路についた。小気味よい(ひづめ)の音を聞きながら。




「それでパック。あの女はどうなったのじゃ?」

「学派長預かりになりました。下手な魔術師を監視につけても、逃げられるだけですからね。また、学派長の仕事を増やしてしまったのは、心苦しいけど」

「フィンなら別に良いじゃろう」


 ソファーに座ったテラさんが、足を伸ばして(くつろ)いでいる。

 彼女が、私の研究室まで来るのは珍しいことだ。

 いつもは、外で待ち合わせ、外で別れる。

 それが、属することを嫌う彼女との付き合い方だ。


「状況が見えるまでは、待つかのぅ」

「そうですね。パック調査隊はお休み。テラさんは、どうするんですか?」


 彼女は、流離(さすら)うを常としている。

 今回、私に協力したのも、彼女の気まぐれに過ぎない。

 全ては、彼女の気分次第だ。


「ん? 少しばかり、ピュテルに留まるのも()いな」

「マルク君の為ですね」

「当然じゃろ」


 テラさんが、その愛らしい顔を、より美しく変えていた。

 彼女の笑顔は、女性の私から見ても、魅力的だ。

 彼女の年齢など知らない。知っても意味がない。

 美しく愛らしいテラさんは、テラさんのままだ。出会った、あの頃のままに。


「少し、マルク君が羨ましいかな」

「マリアとセツナは残念じゃったからな……人の死はよく見てきたが、あれほど強く真っ直ぐな二人が、ああも呆気(あっけ)なく死んでしまうとは、思わなんだ。またフラリと立ち寄れば、再び会えるものと思っとったのじゃ」

「だからですか?」

「いいや。それは気になった理由でしかない。気に入ったのはマルク本人なのじゃ。あの少し石頭な所を、どうにか柔らかくしてやりたいのぅ」


 今日の事を言っているのだろう。

 私達を守ろうとするあまり、独りで戦おうとした蛮行のことを。

 でも、そこは――


「マルク君の良い所でもありますから、難しいですね」

「そうじゃな。じゃがマルクは、絶対にわしらの実力を見(あやま)ったぞ」

「ええ。私達は、レッサーデーモンと正面から戦えるほど、強くないですからね」


 テラさんが大きく頷く。


「パックの攻撃は、そのままでは奴に当たりもせぬし」

「テラさんがトドメを刺すには、近寄らないといけませんからね」


 私が、レッサーデーモンに当たる魔法を撃っても、大きな損傷を与えることなど出来ない。距離を詰められて切り刻まれるか、遠くから放たれる魔力に吹き飛ばされる。

 攻守両方を魔法でこなせば、魔力が尽きて終わるだけだ。

 テラさんは動きも素早いので、私よりは戦える。が、レッサーデーモンの群れに突撃をするなんて狂気の沙汰を、死なずにやれる程ではない。


「あそこでマルクの言葉を飲めば、楽ではあったが――」

「それだと、三人で調査隊を組んだ意味が無いですからね」

「うむ。マルクは、人に頼ることを覚えるべきじゃ」


 だが、今日の戦いで、劣勢に追い込まれたらどうなっていただろうか?

 マルク君の事だから、絶対に私達を助け、逃がしただろう。

 たとえ自分の身を犠牲にしてでも。

 冗談や比喩ではない事は、昔、私の目の前で彼が実践した。

 あの石頭は、その危うさを放置した結果だ。


「マルク君にも、頼れる友達が出来ればいいんですけどね」

「難しいじゃろうな……強さもそうじゃが、マルクは微妙に人付き合いが苦手のようじゃし……悩ましいのぅ」


 頭を抱えて、耳を垂れるテラさんも可愛らしかった。

 こんな彼女の姿は、今まで見たことが無い。

 マルク君に関わると、他者の別の一面を見ることが出来て楽しい。

 アム君もテラさんと同じで、マルク君に関わる話だと、その表情を変える。

 二人の感情は、それぞれ別のものだろうけど。


「楽しそうじゃな。パック」

「楽しいですよ。マルク君に関わっているとね」


 精霊を研究するのと同じくらいに、マルク君の事も研究してみたい。見て、触れるのも良いが、誰かに衝突させるのが、一番大きな反応を示すだろう。

 家で待つ旦那の次に愛らしい少年を、傷つけぬよう、優しく、実験しようじゃないか。

 テラさんが、呆れたような目を私に向けていた。

 どうやら無意識に、口から笑い声が洩れていたようだ。


悪戯(いたずら)は程々にな」

「わかってますよ、テラさん」

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