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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二章

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91.可笑しな魔術師

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし 誤字報告感謝

 とりあえず状況を確認してみる。

 駆ければ直ぐに辿り着ける位置に、黒いローブを被った女性が一人。

 これが、俺達を監視していた魔術師だろう。

 先程の声といい、ローブで覆われていてもわかる胸元といい、女性であることは間違い無い。

 そして、俺の右手の魔道具から流れ出る魔力。

 魔術師へと繋がった魔力の線は、もう細くなっている。

 まだまだこの指輪の容量は一杯あるのだから、もっと吸えばいいのに、もう魔力を吸うのは終わりのようだ。

 指輪の魔力が、魔術師の体を満たしていくのが、見て取れた。

 接近に気が付かなかったのは、完全に俺の落ち度だ。

 魔力を吸われているのに気が付かなかったのは、余りにも攻撃性が低く、そして、相手の魔道具によるものだったからだ。

 だが何故(なぜ)、俺本人から吸わないのか?

 魔道具から吸っても、俺に損害を与えられないのに……しかも、不意打ちの機会を無駄にしてまで、話し掛けてくるとは……こいつ、襲う気があるのか?


「嗚呼、我が体内を駆け巡る膨大な魔力。貴様が長年かけて溜め込んだ切り札は、既に我が手中に収めた。二度は言わん。降伏し、命を()え」

「あのー。先程から何のお話を?」


 右手を再び確認してみる。

 人差し指にはめた指輪は、未だに健在だ。

 相手に操作されている様子もないし、魔力もまだまだ残っている。

 というよりこれは、今は無用の長物であるから、魔力が切れても問題ない。

 それに、これだけ言葉を放つ時間があれば、何度、俺を攻撃出来たのだろうか。

 油断してはいけないが、なんだか気が抜けてきた。

 

(とぼ)けて時間稼ぎか? 無駄だ! 貴様の仲間が砦へと戻ったことは、とっくに知っている。貴様を助けに来る者はおらんのだ。アーハッハッハッハァ」

「すまんマルク。思ったより速くてのぅ」

「風の魔法を無理に使っているね。体に悪いよ、君」


 丁度、魔術師の後方から、テラさんとパック先生が到着した。

 斜め後ろに一人ずつ、前には俺。

 現在、魔術師の三方を囲んでいる状態だ。


「なっ! (たばか)ったな貴様ら!」

「何じゃ、こ奴は?」

「さぁ? さっきからこんな調子でして」


 ローブを被って顔を半分隠していても、動揺は隠せていない。

 パック先生が、その動揺を刺激するように降伏勧告を出した。


「三対一で、勝てるつもりかい? 大人しくすれば、命は保証しよう」


 だが、その言葉を聞いた魔術師は、肩を震わせて黙っている。

 かと思えば、突如として笑い出した。

 情緒の不安定な人だ。


「フフフ。アッハハ。ハァーハッハッハ! 我が動きに追いつけぬ凡人が三つ揃おうが、それが何だというのだ!」


 そして、魔術師は動き出す。速い。

 その動きは、獣を思い起こさせる動きであった。一蹴りで動く距離も、速さも。

 だが、追えぬ程ではない。観察を続ける。

 魔術師の魔力が高まるのを感じる。目線も意識も俺へと向いている。ならば――


「≪(かぜ)(かべ)≫」「≪(かぜ)(やいば)≫」


 呪文は結果を生む。俺の作り出した空気の壁と、魔術師の放った不可視の刃が衝突し、共に消滅し、魔力が拡散した。

 魔術師対魔術師ならば、風の刃のような単純な魔法を使うのは、理にかなっている。人間の体に耐魔力があろうと、魔法で傷をつけるのは簡単なことだ。

 子供の魔法でさえ、可能だ。

 訓練を積んだ魔術師ならば、それだけで、いや『ホノオ』の三文字で殺せる。

 今の一撃は、相手を仕留めるだけの威力であった。

 ならば、こいつは……倒さないといけないな。 

 目で追いながら、魔力を見る。そして、一つの案を思いついた。

 今のこいつの中は、俺の魔力で満ちている。

 こいつが、どうなってもいいか。


「なぁ、魔術師さん。爆発しても恨まないでくれよ」

「フン! 意味の分からん事を。≪(かぜ)(やいば)≫」


 俺の後ろに回った――つもりの――魔術師の放つ刃を、右手の剣で叩き壊す。

 魔術師は俺の周りを移動しながら、次々と風の刃を放ってくる。

 魔術師から発せられる魔力の流れを見れば、攻撃の瞬間が丸わかりだ。

 剣一本で対処は容易(たやす)かった。

 一刃、一刃、処理していく。

 これから使う魔法は、俺にとって初めて使う魔法だ。

 想像するのは、あの時のミュール様。

 相手の中の自分の魔力を制御する。形を明確に。動きを鮮明に。掌握し、操る。

 奴の全ては、俺の掌の上だ。

 ミュール様の声が、頭の中で重なる。


「では、≪(とも)(おど)りましょう≫」

 

 操りの呪文を唱え、魔法を発動する。

 今の俺に、相手と踊ることなんて高度な事は出来ない。

 だから強く、確かに想像するのは、”動かない”魔術師の姿。

 瞬間、魔術師の体が硬直した。

 獣のように高速で動いている中、動けなくなったらどうなるか?

 答えは、目の前にある。

 体が硬直した魔術師は、そのままの速度で転び、地面へと衝突した。

 声も上げることを許されず、大地を転がりまわっている。

 そして、仰向けに倒れたまま、動かなくなった。

 まぁ、魔法で動けなくしているだけなのだが。

 ゆっくりと魔術師に近付き、次の呪文を唱える。


「≪(いや)しの(みず)≫よ」


 右手に生み出した癒しの水へ、魔力をたっぷりと込める。

 手から放しても、魔法を維持できるように、

 そして右手を、魔術師の口へと押し当てた。

 癒しの水を操作し、閉じた口の中に無理矢理侵入させる。鼻に入らないように気を付けて、口の中で留まるように……よし。口封じ完了。

 俺が魔力を消さない限り、もう喋ることはできない。

 魔術師として致命的な状況だ。


「さてと……()くかな」


 魔術師のフードが外れかかっていた。年の頃二十少しの女性の顔が見えた。

 怯える瞳と目が合う。

 

「抵抗しなければ、死にはしないよ」


 魔術師が体を動かそうとしているのが、分かる。指一本すら動いていないが。

 魔法を解除していないので、当然のことだ。

 もう魔術師に、動く権利は既にない。




「マルクや。もうよいぞ」

「別に見ててもいいんだけどね」


 テラさんとパック先生の言葉を聞いて、俺は振り返った。

 視界の先には、布で作った猿ぐつわを口に装着し、手足を縛られた魔術師の姿があった。抵抗する気もないようだ。

 が、問題はその格好だ。その布一枚纏わぬ、全裸の姿が。白い滑らかな肌も、膨らむ双丘も……下も……何も着ていない。


「何で、全裸のままなんですか」

「命を狙ってきた相手に、わざわざ服を着せる必要あるかい?」


 そもそも服を()いだのは、魔道具を隠し持っていないかを調べるためだ。

 俺が調べても良かったのだが、後で口が堅くなっても困る。

 なので、操りの魔法を解いて、二人に任せた。

 結果がこれだ。

 これでは、俺が魔術師を辱めたのと、変わらないじゃないか。


「ローブぐらい被せましょう――」


 魔術師から魔力の流れを感じ、彼女の体を注視した。

 この魔力は知っている。この魔道具の反応は――


怨嗟(えんさ)の炎」


 俺の声を聞く前に、パック先生もテラさんも不快そうに顔をしかめていた。

 そして、俺の言葉に対して最も変化があったのが、全裸の魔術師であった。

 恐怖で顔をゆがめ、全身を(よじ)り、暴れている。

 当然だ。魔道具『怨嗟(えんさ)(ほのお)』は、埋め込まれた人間の魔力を吸って、爆発する魔道具だからだ。

 己の命を犠牲にして、破滅をもたらす魔道具。

 狂信者御用達の一品。

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