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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二章

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90.油断大敵

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし 誤字報告感謝

 パック先生の魔道具は、この場所を示していた。


「無いですね」

「まぁ、平原にグサッと刺しては無いじゃろ」

「ならば――」


 三人が同時に下を向く。

 隠すなら地中だろう。空中に隠せるなら、方法を知りたい所だ。


「では、掘り出すかのぅ。まずは場所じゃな」


 テラさんが膝を曲げ、そっと地面に手を下ろした。

 地面に魔力が通り、広がっていく。

 森の大木の時と同じく、温かな魔力だ。大地に広がった魔力が、草々の緑を映えさせた。だが、探し物はそれではない。

 魔力の反発を探す。この柔らかな魔力に抵抗する場所を……あった。


「パック先生の真下」

「え? 下?」

「このまま放り出す。パック、邪魔じゃ。≪大地(だいち)鳴動(めいどう)≫」


 テラさんの呪文に対し、地面に浸透するように広がっていた魔力が答えた。

 足から振動を感じる。大地が揺れている。


「ちょ、ちょっとテラさん」


 パック先生が、慌ててその場を飛び退いた。揺れる中でも軽やかだ。

 パック先生の立っていた地点の地面が小さく割れ、その裂け目から大地が盛り上がるように、土が勢いよく噴き出した。

 空へと。高く。

 噴き出る土の中で、一本の黒い短剣が交じっているのを確認した。

 防衛魔法は、消えてはいないようだ。

 防衛魔法を消さなければ、安全に確保できない。 


「マルクや」「≪魔力(まりょく)≫よ」


 テラさんの声と重なるように呪文を唱え、自身の右手に魔力を(まと)わせた。

 そして、空中を舞う黒い短剣の落下地点へと先回りし、空中の短剣へ手を伸ばす。触れようとする右手を、短剣の防衛魔法が拒む。

 バチリ、バチリと抵抗の音が聞こえ、俺の右手を弾かんとしていた。

 だが、魔力で覆った右手を傷つけるほど、防衛魔法は強くはない。強引に、真っ直ぐ……そのまま右手を押し込み、俺は、短剣の柄を掴み取った。

 隠匿魔法が消えたからか、防衛魔法が消えたからか、短剣の機能が止まったからか、淀む不快な魔力は、消え去っていた。

 黒い刀身が波打った短剣、変質の楔が、俺の右手に残されただけだ。

 揺れる大地も、その動きを止めている。

 見れば、魔法により出来た裂け目も、ほぼ元通りに直っていた。

 噴き出した土は、そのまま草々の上に降り注いだが、そこまで戻すのは困難というものだ。

 ついでに、俺とパック先生も土まみれだ。


「よし! 確保成功じゃ!」

「テラさん。よし! じゃないですよ。魔法を使うなら先に言って」

「まぁまぁ、パック先生。とりあえず土、落としますから、帽子を押さえて下さい。いきます。≪(かぜ)≫よ」


 空気を操り、風を生み出す。

 強く吹かせた風は、俺とパック先生を撫で、降りかかった土を払い飛ばす。

 テラさんの銀の髪も、揺れている。

 平原に広がる草達が、生み出した風により、波を生み出す。

 草の鳴く音が心地よかった。


「ありがとうマルク君」

「どういたしまして」




 現在、変質の楔を手にした場所から動かずに、作戦会議を続行中である。


「さて、これからどうするのじゃ」

「もう疲れちゃったから、早く帰りましょう」

「とりあえず、これは俺が持っておきますね」


 相手に聞こえるように、そう言う。

 そして俺は、変質の楔を布で巻いた後、バックパックへと収めた。

 レッサーデーモンと戦っている時にはいなかった監視者。

 その存在を確認した俺達は、こうして相手に聞こえるように、話し合いをしているという訳だ。

 気付かれぬように魔法で監視しているようだが、逆にそれは目立ち過ぎだ。

 遠くはあるが、場所まで感じ取れる。


「では、帰るとするかのぅ」

「あー。マルク君は、レッサーデーモンの残りがいないか、確かめてからね」

「面倒ですけど……わかりました。お二人はどうするんですか?」


 パック先生とテラさんは、体をほぐし、リラックスしながら言った。


「テーベでゆっくりしているよ。でも早く戻らないと、置いて帰っちゃうからね」

「ピュテルへ帰るのが、遅くなってはいかんのじゃ」

「さっさと終わらせますので、宿でゆっくりしていて下さいな」


 別に以心伝心ではないが、作戦は分かった。

 俺が囮で、二人が裏を突く。

 相手の狙いは、変質の楔であろうから、一人になればこちらに来るはず。

 そうでなければ、俺が監視者の裏を突けばよい事。

 問題があるとすれば、監視者が複数人いて両方を襲った場合だが、パック先生とテラさんなら何とかするだろう。


「では、行ってきます」

「はーい。行ってらっしゃい」「独りじゃから油断するでないぞ」


 そして俺は、テーベ砦から逆の方向へと、独り向かう。

 監視者云々以外にも、レッサーデーモンの残りがいたら厄介なので、倒しておきたい。放っておいたら碌なことにはならない。

 独りになり、少し歩いた。

 レッサーデーモンは、まだ見つからないが、監視者は予定通りこちらに来ている。さて、動くのは監視者が先か、パック先生達が先か。

 囮の俺は、ただレッサーデーモンを探しながら、歩くだけだ。

 レッサーデーモンは、少し探すだけで見つかった。

 これは、帰ったら学派から冒険者ギルドに依頼を出して貰うべきだな。

 静かに近付こうとしたら、唐突に皺だらけの灰色の顔が、こちらを向いた。発見されたのは俺でない事はすぐに分かった。

 奴は遠くを見て、そして俺を見た。

 監視者も、よくあれでレッサーデーモンの発生場所に来ようと思ったものだ。

 今は、目の前の敵だ。

 後ろは、パック先生達に任せねば。

 敵は一体だけ、一対一なら早く決めよう。

 相手に放つ魔法を、頭の中に描いていく。

 晴天を覆う黒い雲を、(くすぶ)る怒りの(うな)りを、解き放つ(いなな)きを。

 レッサーデーモンの魔力が高まっている。だが、相手が黒い魔力を放つよりも、こちらが早い。

 灰色の影、目標を見据え、己の魔力を解放する。


「≪天馬(てんま)(いかづち)≫」


 呪文が、魔力を魔法に変える。

 一筋の閃光が、空を割り、レッサーデーモンへと突き刺さった。

 致命を確信したが、念には念を入れて接近する。

 灰色の影は、薄い煙を上げ、醜悪な顔は虚ろである。

 追撃で剣を振る――途中で止めた。

 塵と消えゆくレッサーデーモンが、完全に消えるまで確認する。

 もう一撃は必要ない。

 濁った魔石が、地面に落ちた。

 魔石を拾い上げる途中で、異変に気が付く。

 俺の右手人差し指にはめた指輪から、魔力が流れ出ていたのだ。

 流れる先を目で追うと、黒いローブを深く被った人影が一つ。

 輪郭でわかる。女性だ。


「既に貴様の負けだ! 大人しく短剣を返してもらおうか!」


 高く、高圧的な声が平原に響き渡った。

 何を言ってるんだ? こいつは?

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