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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二章

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89.傲慢な男

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし

「ざっと見ても十体はいました。ですので、しばらく隠れていて貰えますか?」

「何を言っとるんじゃ、マルクや。一対一なら、その方がやり易かろうと、手を出さんかったが、敵が多いなら話は別じゃぞ」

「そうだよ。君なら何とかするだろうけど、要らぬ苦労を背負う事はないよ」


 俺達三人は、レッサーデーモンの集団とはかなり離れた位置で、膝を抱えながら、ひそひそと小声で会話中である。

 正直、レッサーデーモンと相性の悪そうな二人には、下がってもらって、自分一人に敵意が向くようにした方が戦い易い。

 二人も安全で、両得だと思うのだが。


「お主、まさか、わしら二人を”守ってやらねば”などと、考えておるのではなかろうな」


 テラさんが、じぃーっと俺を見つめてくる。

 駄目だ。テラさんの眼力に負け、目を逸らしてしまった。


「やはりそうじゃな」

「いや、相手との相性があるじゃないですか」

「大蟹の時は、頼ってくれたのにのぅ。その時に、相性なぞ考えておったか?」

「いえ」


 そんな事、微塵(みじん)も考えていなかった。

 テラさんなら、やれると思ったからだ。


「ならば守らねばならぬほど、わしらが、か弱き女子(おなご)に見えるのかえ?」

「いいえ。でも、守りたいです」


 二人を守りたい。これは、本心だ。

 二人が傷つかないで済むのならば、多少の危険は飲み込むつもりだ。


「フフ。真っ直ぐ言うのぅ。じゃが、お断りじゃ」

「右に同じく。マルク君ほど戦い慣れてはいないけど、守られるほど弱くもないつもりだよ」

「でも、二人を気にしながら戦うの――」

「それが間違いじゃと言っておる。気にもせんで良い。危なくなったら勝手に逃げる。助けて欲しくば声を上げる。気にするのは、それからで良いのじゃ」


 俺の言葉を遮り、テラさんが俺の目を見つめながら、そう言った。

 真摯で、真っ直ぐな言葉であった。

 だが、気にせず戦うなど……どうすればいいんだ?

 全体を把握しながら、戦うものだろう? 分からない。

 テラさんの隣で座るパック先生も、クスッと笑っている。


「君はもう冒険者じゃないんだ。誰かを守る義務なんてないし、誰よりも戦う、そんな必要はないんだよ。そういう重荷は、年上の私たちに押し付けてもいいんだ。ましてや私達を、君の重荷だと思わないでくれないかな」


 パック先生は笑みを絶やさない。が、声は真剣そのものだ。更に言葉を続ける。


「まぁ、君を戦いに連れ出している私が、こう言うのも可笑(おか)しな話だけどね」


 その声には、小さな後悔が含まれているように思えた。

 否定の言葉が、俺の口から自然と(こぼ)れた。


「それは違います」


 そうだ違う。ここに来たのは、連れ出されたからでは無い。


「確かにパック先生から頼まれはしたけど、それを受けたのは俺で、この戦う意思は俺のものです」


 でなければ、遠出までして、こんな面倒くさい事を誰がするものか。

 家でシャーリーと喋っている方が、何千倍も楽しいじゃないか。

 冒険者の依頼でもない。急いて自分が動かねばならない状況でもない。

 俺が、ここで戦わないといけない理由なんて無い。

 では、何故(なぜ)ここにいるか?

 自分の中ですら返ってくる、当然の疑問。

 だが、そんなのは簡単だ。パック先生とテラさんの力になりたいからだ。


「俺がパック先生とテラさんを守りたいんです。守らせてください」


 二人の返事は、すぐに返ってきた。

 俺のほっぺたを引っ張るという行為によって。

 テラさんとパック先生が、俺の(ほお)を片方ずつ引っ張っている。少し痛い。


「ああにょ。ひゃめてくれみゃへんか」

「断るといったじゃろう。(たわ)けが」

「ハハハ。結構伸びるね……『戦う意思は俺のもの』だって? これは、おねぇちゃんの気持ちを無視した(むく)いだよ」

「本に真面目で、そして傲慢(ごうまん)な奴じゃのぅ。そこが可愛いのかもしれんがな」


 ウフフ、アハハと、二人は、和やかな雰囲気を(かも)し出している。

 離れているとはいえ、レッサーデーモンとの戦闘圏内なんですが……。


「マルクや。お主が何と言おうと、わしらは戦うぞ」

「ああ。足手まといになったら、あとで特別に体で(つぐな)ってあげよう」


 そう言って二人は、俺の頬から手を放した。

 

「本当に戦うんですか? 戦わなくても俺が倒しますよ?」

「当然じゃ」「戦うよ」


 戦わなくて良いなら、戦わない方が楽で、安全で、自由でいられるのに……分からないな。でも、二人が真っ直ぐで、優しいのは分かる。

 いや、分かっているから守りたいのか。

 ならば、俺も、俺でやればいい。俺のやり方で。


「わかりました。一緒に戦いましょう。でも、守るのは譲りません。危なくなったら二人を担いで逃げますので。抵抗しても問答無用ですよ」

「わがままじゃのぅ」

「折り合いは、そこでいいかな」


 二人の目元が嬉しそうに曲がっている。

 バルザックさんのような戦闘狂でもあるまいし、戦う事なんて、間違っても嬉しい事ではないだろうに……やっぱり、よく分からないな。

 ただ、共に戦うとなったなら、やろうじゃないか。


「では、作戦会議といきましょう」




 作戦通りに、俺は全速力でレッサーデーモンの群れへと走る。

 俺が前に出て、斬る。

 パック先生とテラさんが、後方から魔法で援護する。

 非常に基本的な戦法だ。

 テラさんは、前に出たがっていたが、俺が戦い辛いという理由で後ろに下がってもらった。

 これならば、レッサーデーモンの魔力の流れを気にするだけで良い。

 敵の数は複数で、見晴らしの良い平原。

 俺は既に、敵に見つかっている。

 レッサーデーモン達から、魔力の流れを感じる……数は、十一体だ。

 全力疾走の俺を追い越すように、テラさんの魔力が、レッサーデーモンへと伸びていくのを感じた。

 同時に、後方で魔力が高まるのを感じる。こちらはパック先生だろう。

 レッサーデーモンの足元に到達したテラさんの魔力が、魔法を生み出す。

 地面から生み出されたのは、細く緑色をした、しなやかな(つる)であった。

 それがレッサーデーモン一体一体の足元から、生え、足へと巻き付いていく。

 足を絡めとられた六つの個体は動けなくなっており、魔法の(つる)に気を取られ、俺への攻撃を中断したようだ。

 残りの五体は、空中へと高く跳び、(つる)の脅威から逃れた――瞬間、跳び上がったレッサーデーモン達を、高速で飛翔した槍が、その胴を、頭を、足を次々と貫いていく。

 あれは、土魔法で作った槍だ。

 頭を貫かれた二体のレッサーデーモンが消えていくのを、走りながら確認した。

 胴や足を貫かれた三体のレッサーデーモン達は、地に落ち、魔力である青い液体を地面にまき散らしている。

 魔力を感知させて、跳ばせて落とす。良い連携攻撃だ。

 俺には、出来ない。

 考える前に、今は俺がやるべきことを。

 最も近いレッサーデーモンへ肉薄し、斜めに斬り付ける。

 一撃で脇から腰まで切断し、上半身が斜めに滑り落ちた。

 倒した確認をする暇はない。

 テラさんの魔法に拘束されたレッサーデーモンを斬って、斬って、斬りまくるのが俺の役目だ。

 俺に意識を向ける前に、二体目のレッサーデーモンの首へ、剣で線を引く。

 頭を切り離した手ごたえを感じた。ならば次だ。

 攻撃に魔法は、使わない。

 風精霊の封壁を、いつでも使えるようにするために。

 自身を拘束する足元の(つる)よりも、俺が脅威だと認識したのだろう。

 残りのレッサーデーモンの敵意が、俺へと向いた事に気が付いた。

 四体のレッサーデーモンから、魔力の流れを再び感じる。

 だが、狙いを定めさせはしない。

 魔力を放つ前に、三体目を斜めに斬る。

 振り下ろした剣が、灰色の皮膚と肉を裂き、青い魔力を噴き出させた。

 致命に至ってないと確信した俺は、振り下ろした手首を返し、真横へと剣を振り抜き、胴を切り裂く――と同時に、俺は、横へと大きく跳んだ。

 俺の先程まで立っていた位置に、黒い魔力が通り過ぎる。

 死にかけのレッサーデーモンを巻き込んで。


「≪土精霊(つちせいれい)投擲槍(とうてきやり)≫」


 パック先生の呪文が耳に届く。

 一射目と違い、大きな声を出したのは、俺への警告を含んでいるからだろう。

 パック先生の位置と、レッサーデーモンの位置を線で結び、その線上から逃れるように、地を蹴り、離れる。

 鋭い土の槍が、次々とレッサーデーモンを襲う。

 灰色の肌に、硬質な土の槍が突き刺さっていく。

 動けぬレッサーデーモンに、避ける(すべ)は無かった。

 最初に倒した二体を意識してなのか、下半身を拘束されている残り三体のレッサーデーモンは、その全てが、見事に頭を貫かれていた。

 次々と塵と消え、魔石へと変わっていく。

 また、地面を走るテラさんの魔力を感じた。

 空中で撃墜され、地面に倒れたままのレッサーデーモン三体を、地面から再び伸びた(つる)が持ち上げ始めた。

 灰色の体に(つる)が食い込み、ぎりぎりと()じ上げていく。

 首を、胴を、手足を。


「斬って()いぞ」


 テラさんの声が、草原に響く。

 テラさんの指示に従い、(つる)に持ち上げられたレッサーデーモン達に、致命の一撃を打ち込む。

 そして、三体のレッサーデーモンが魔石となるまで、確認を取った。

 周囲を警戒しても、魔力の流れも感じず、灰色の体も見えず、不快な声も聞こえない。地面に落ちている魔石の数を数えてみると、確かに十一個あった。


「マルクや。協力すれば、こんなもんじゃぞ」

「今度からは、おねぇちゃんを舐めちゃ駄目だよ。マルク君」


 テラさんとパック先生が、のしのし歩いてやってきた。

 その表情からは、余裕が(あふ)れ出ている。

 うん……俺には、まずやるべき事が一つある。


「ちょっと甘く見ていました。本当に、申し訳ございません」


 足をそろえ、腰を直角に曲げる。

 (こうべ)を垂れるとは、こうするものだ。

 魔術師との相性だ何だと考えていた俺が、どれほど人を見る目が無く、如何(いか)に愚かだったのか、先の戦いで十分、いや十二分に理解した。

 聖母に徳を説くが(ごと)き無知さ。

 何という恥ずかしい真似をしてしまったのだろうか。


「手分けをすれば早いという、当たり前の事なのじゃ」

「誰かの手を借りても良いって、それが分かればいいんだよ」

「はい」


 それ以外の言葉を返せるほど、俺の面の皮は、厚く無かった。

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