88.レッサーデーモン
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元テーベの村に、俺達三人は到着した。
今日は全速力で来たわけでは無いので、既に昼食時を過ぎていた。
ヴェント含む馬たちの休憩の為に立ち寄った村で、既に昼食は取ってあるので、腹は満ちている。
干し肉とパンを齧って済ませたが、少し味気なく感じてしまった。
狼のまんぷく亭は、やはり偉大だ。
到着した元テーベ村を見て、思い出す。
半月前の光景を。そして数日前に来た時の光景も。
レッサーデーモンに破壊の限りを尽くされた村の残骸は、既に撤去されている。
亡くなった人々は、埋葬されたようで、テーベ砦の外に墓地があった。
調査隊の作った簡易砦は、そのままの形で防壁代わりに利用されているようだ。
警備体制が、まだ確立されていないのだろう。
見知った冒険者と領兵が、共に見回りをしていた。
今、ここにあるのは、簡素な作りの宿屋兼食事処と、行商人が露店を開く広場があるだけだ。ほぼ商人達の休憩所となっている。
住人の姿は、ほとんど見ない。
あの時にいたナッツ村の住人達は、村へ戻っていったのだろう。
モンスターの影に潰された村に。
木材を多く運んでいる荷馬車を何台も見かけた。
ナッツ村へ向かい、復興に使うのであろう。商売人は耳と足が良い。
ナッツ村から先の村々は……領主に任せるしかないだろう。
「また何か、必要のないことを考えてないかい?」
「いいえ。特には」
「マルクは顔に出るからのぅ。見ればわかるのじゃ」
「本当に大したことじゃないですから。ヴェント達を預けて、先を急ぎましょう」
パック先生とテラさんは、『仕方ないな』といった反応だ。本当に大した事は考えていないのに。
宿が管理している馬小屋に、愛馬と他二頭を預ける。
ここからは、徒歩で行かねばならない。行先は、パック先生任せだ。
「という訳で、これの出番さ」
パック先生が取り出したのは、中央に細い針が見える小さな水晶球であった。
「新しい方位磁針か何かかのぅ」
「ただの方位磁針だと、旅には役に立ちますけど今回の――」
「残念、違いまーす。これは、変質の楔とあの魔石に残っていた共通の魔力を抽出して、それを憶えさせた魔道具なのさ。変質の楔に近付けば、即発見さ。態々、今回の為に作ったんだからね。さぁマルク君。おねぇさんを称えなさい」
パック先生が、自慢の鼻を高くして、水晶球をこちらに見せつけた。
水晶球の中は満ちているようなのに、針は動くようだ。針の先は矢じりのようになっていて、それが魔力を吸わせた宝石である事が見て取れた。棒の部分には紋様が細かく刻まれ、そこに魔法が込められているのが分かる。
これは、完全に自作の品だ。
『用意した』とは言っていたが、一から作っていたのか……それは純粋に凄い。
「流石パック先生。偉い」
「よーしよし。わしからも褒めてやろうぞ」
「そうだろう。そうだろう」
テラさんが手を上に伸ばし、パック先生の頭を撫でている。
わざわざ三角帽を外したパック先生も、満更でもないという顔をしている。
そして俺は、自分の褒める言葉の少なさに、悲しみを覚えてしまった。
テラさんのなでなでが終わるまで、暫し待つ。暫し。
「ん? マルク君も撫でるかい?」
「それはまたの機会に」
「そう。残念」
パック先生は、残念そうでもなく、むしろ嬉しそうに三角帽を被った。
「さぁ、パック調査隊、出発進行」
元気よく歩き出したパック先生に、俺とテラさんはついて行く。
この集まりって『パック調査隊』なんて名前だったのか。
針は、始めフラフラとしていた。が、パック先生の先導で進むにつれて、揺れが少なくなっていき、今は真っ直ぐ一方を指し示している。
そうなると当然、遭遇するモンスターがいる。
灰色のあいつ、レッサーデーモンが身を屈めて潜んでいた。
とはいえ、ここは平原である。
こちらからは丸見えだ。
「一体だけですね。始末してきます」
「警戒は任せい」
レッサーデーモンに気が付かれないように、パック先生達から離れていく。
まずは二人から距離を取って、攻撃が及ばないようにする。
後は、剣を腰から抜き、なるべく接近して……一気に駆ける。
敵に気付かれるまでは、ただ速度を上げる。
地を蹴り、足が草を分け、波を作る。
皺だらけの顔がこちらを向いた。俺に気が付いたようだ。
「≪風の刃≫」
真っ直ぐレッサーデーモンに突撃しながら、魔法を放つ。
放つは五つの刃。同時に当てることは考えず、空気の刃を広がるように五方向に飛ばす。これは、ただの牽制だ。
こちらの魔法に反応したレッサーデーモンは、横に大きく跳んだ。
放った風の刃の一刃が、飛び上がった足に直撃した。
だがその足は、僅かに裂けただけだ。噴き出た魔力が、草原を青く染める。
だが、狙いは損傷ではない。
魔法の当たったレッサーデーモンは、着地によろめく。
奴が回避する間、その時間が稼げた。レッサーデーモンは、もう俺の目の前だ。
鋭い爪を突き刺さんと、灰色の腕が俺へと振られる。
パワーを持って得物を振り回すモンスター達と、比べるのも烏滸がましい程に、遅い一撃だ。この程度、易々と剣で切り払える。
レッサーデーモンの右腕が宙を舞う。
噴き出る魔力を気にする暇もないし、与えない。
歩をさらに進め、相手の脇を抜けるように、剣で胴を両断する。
前回の仕留め損いを教訓に、さらに振り返りながら剣を振り、後ろから首も跳ねておく。飛んだ首から、不快な声が洩れたのが、耳に届いた。
手が、首が、そしてずれ落ちた上半身が地面を鳴らす。
分かたれた部位も含め、塵と化し、消えていった。
残るのは濁った魔石だけだ。
周囲を警戒しながら、魔石を拾う。これで一体終了だ。
バルザックさんなら、目の前から斬り、縦半分にして一瞬で片を付けるだろう。
俺も、もっと剣の腕を磨かないと駄目だな。
「一体なら楽々じゃな」
「一体なら、ですけどね」
とはいえ、油断は出来ない相手だ。戦うたびに思うが、”悪魔”と呼ばれるモンスターは、魔法に対する反応が早い。
テラさんとパック先生を見る。どう見ても二人とも魔術師だ。
近接戦闘が得意そうには見えない。
正直、レッサーデーモンとの相性は良くないだろう。
俺が、頑張らないとな。
複数体出てきたときは……さて、どうしようか。
「≪水精霊の斬撃≫」
呪文を発し、生み出した水の糸を、頭から股まで真っ直ぐに通す。
縦半分に切り裂かれたレッサーデーモンは、呪詛の言葉を残し、消えていった。
別に剣でも倒せたのだが、水精霊の斬撃が有効なのかを、試しておきたかったのだ。敵が一体ずつ出てきている、今のうちに。
結果は有効。使うかは別だが、憶えておこう。
「何体おるのじゃ……全くのぅ」
「ばらけているだけ、やり易いですけどね」
見つけたレッサーデーモンは、全て倒すようにしている。
素早く倒してはいるが、どうしても歩みは遅くなる。
だが、レッサーデーモンがいるという事は、魔道具の指し示す方向は、間違っていないということだろう。
「パック先生のそれが無かったら、この平原を隈なく探す羽目になってたのか」
「ハハハ。でもこの数は予想よりも多いね。もう九体目か……こんなに発生しているなら報告もそれなりに上がっているはずなんだけど……あんまり動かないのかな? こいつら」
「そういえば、大蟹も窮屈そうじゃったのぅ」
「今回のこれと関係するかは分かりませんが、レッサーデーモンに先の村一つ潰されていますから。同じ発生原因であれば、動かないなんてことは、無いかと」
半月前のあのレッサーデーモンは、一体だけだった。
自然洞窟や森の遺跡辺りからはぐれて出てきたモンスターと思っていたのだが、同じ地域に立て続けに出れば、同一の原因だと疑いたくもなる。
あの時の魔石は、冒険者ギルドを通して売却してしまった。
失敗したな。
パック先生に方向を聞き、俺が先行偵察を行う。
簡単に倒せる位置ならそのまま倒してしまう。そうやって、進んできた。だが、終点のようだ。
パック先生達に手で合図を送り、足を止めて貰い、二人と合流する。
「どうしたのじゃ、マルクや」
「何か見つけたのかい?」
今、見た光景を二人にも説明する。
「いました。レッサーデーモンが屯しています」
ざっと見ても、十はいたかな?
遠距離攻撃してくるモンスターの集団は、面倒なんだよな……。




