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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二章

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84.腹満たすは料理、心満たすは

読みやすいように全体修正 内容変更なし

 ああ、もう日が落ちている。

 町の中で、魔工石の光と黄昏の赤が混じり合っている。

 司祭様にミノタウロスの件を説明をして、魔石の権利について押し付け合った。

 そちらは解決したからいい。ダークマターの件も話せた。

 その後も、エルの様子を見に行ってみれば、魔力の矢が飛んでくるし、そのままエルの話し相手として捕まるしで、結局はこんな時間となった。

 そろそろ、俺の腹から何かが飛び出して来そうだ。

 俺の足は真っ直ぐに進む。腹の音が、指し示す方向へ。

 そして辿り着くのは、いつもの場所。

 聞きなれた喧騒(けんそう)の店、狼のまんぷく亭だ。


「あっ。マルク、いらっしゃーい。この間の子、来てるけど、どうする?」


 サンディの笑顔だけで、少し空腹が治まった気がする。恐ろしいものだ。

 それにしても、この間の子? って一人しか該当者がいない。


「テラさんか。一緒でいい?」

「そのテラさん次第だけどね。マルクごあんなーい」


 サンディの後ろについて行くと、長い耳をぴょこぴょこ動かしているテラさんがそこにいた。フォークを口へ運ぶ度に、耳が動いているようだ。

 実に、美味しそうに食べている。


「サンディ……あれと――」

「なるべく早く持ってくるよ」


 そう言ってサンディは、去っていった。

 伝わっているようなので、いいか。今は料理が待ち遠しい。


「おっ! お主も来たのじゃな。ほれ、座れ座れ」


 俺に気が付いたテラさんが、隣の席をぺちぺちと叩いている。

 その厚意を受けるとしよう。俺は、ゆったりと腰を下ろした。


「こんばんは、テラさん。その料理美味しそうだね」


 他人の料理を、じろじろ見るものでは無いだろうが……今は、目がそちらへ自然と向いてしまう。

 少し太めのパスタが、乳白色の海で泳いでいる。

 薄切りのハムと、ふわりと広がったブロッコリーが色どりとなって、食欲をそそる。乳白色の中に浮かぶ人参も、目を喜ばせてくれる。

 あぁ、料理から目を離さねば。腹が暴れる。

 目を逸らした先にいるテラさんは、パスタをくるりと(すく)い、口に運んでいた。

 一噛み、二噛み。ゆっくりと食べる様子を見学する。

 彼女の顔から、美味しさが(あふ)れている。

 目と耳が、特にそれを如実(にょじつ)に表していた。


「うむ。美味い。試しに『マルクと同じもの』と頼んで正解じゃった。マルクも一口食べるかえ?」

「大丈夫だよ。後でたっぷり食べますので」


 出来るだけ笑顔を作り、我慢する。

 頼むサンディ……早く持って来てくれ。


「ハッハッハッ。可笑しな顔をして笑わせるでない」


 (しば)し、テラさんの食事風景を楽しんでおく。

 俺が食べる姿と違って、可愛い女性が食事をする様子は絵になる。

 絵画として、食卓に飾って置きたいほどだ。

 空腹時でなければ、これは至福の時間なのだろう……今は天国と地獄だ。


「その顔は、きっと珍妙なことを考えておるのぅ。まぁ良い。一日離れておったのじゃ。近況報告をせい」

「昨日はヴェントと遊んで、酒場に顔出しただけですよ」

「ヴェント? 誰じゃ?」

「我が愛馬の名です。誰が付けたか分からないけど、そういう名前でした」


 テラさんは(うなず)きながら、口へ運んだ料理を咀嚼(そしゃく)している。

 白い喉が動く。そして口を開いた。


「名が有ったのじゃな。無ければわしが、名付け親になろうと思っとたのに……残念じゃのぅ」

「へへへ。ありがとうございます」

「お主が、礼を言うことではあるまい」


 それでも、少し嬉しかった。礼を言う理由なんて、それぐらいでいい。


「ほれ、次は酒場の話じゃ」

「ヴェントの話はいいんですか?」

「お主の顔を見れば分かる。よい」


 空腹で感情が顔に出やすくなっているようだ。引き締めねば。

 気を取り直して、酒場の話をする。

 と、言ってもテラさんに伝えるべき情報は、モンスター情報だけだ。

 五か所の異常発生モンスターの情報を、テラさんに伝えた。

 テラさんは、ゆっくりと食事を楽しみながら、俺の言葉に耳を傾けてくれる。


「ふむ……溶岩獣とワイバーンは別件じゃな。アイアンゴーレムも恐らく違う。全部外れの可能性もあるのじゃ。行動指針は、パックと相談してからじゃな」

「お仕事の話? ハイおまち。ホワイトシチューのパスタだよ。大盛ね」


 俺の目の前に置かれた皿には、テラさんの倍量程の料理が盛られていた。

 いや、皿自体が大きいのでそれ以上か。遠近法ではないはず。

 だが、それがいい。

 今の俺には、それがいいのだ。


「いただきます」


 テラさんとの話は後だ。

 まずは麺の中へフォークを刺し込む。そしてくるりと巻く。

 シチューが絡んだ麺を口に入れる。甘い、温かい、美味い。パスタそのものも美味しいのに、絡まるシチューが、さらに舌へ美味しさを運んでくる。

 しかもこれは、いつものシチューと味付けを変えてある。

 塩を少なくし、チーズで味を作っているのか。

 鼻を通る乳の感覚が、俺にそう告げている。

 パスタと合わせるために用意された物だ。

 駄目だ。”くるり”が止まらない。

 次々と口の中に入ってくる。

 だが、次は匙を使ってシチューもだ。

 乳白色に浮かぶ赤き人参が良い。実に良い。

 口に入れると、甘くて更に良い。野菜の甘さは美味しさだ。

 食欲が食欲を呼ぶ。

 薄切りハムの塩気も、パスタを進ませる。


「お腹空いてるときこそ、ゆっくり食べないと」


 サンディの言葉に、頷く。今は、口を開けられないのだ。

 自尊心を持たねば、手が止まらない。

 落ち着こう。落ち着いて、ブロッコリーを頂こう。いやいや、食よ止まれ。

 そうだ、テラさんと話しながらなら、ゆっくり食べれるはずだ。


「ごめんテラさん。今晩は、俺に付き合ってくれませんか?」

「良いぞ。ゆっくり語り合うのじゃ」


 良い笑顔のテラさんも、まだ食事中だ。

 俺の言葉を鼻で笑ったサンディの事は、気にしないでおこう。

 美味しい料理をテラさんと、ゆっくり、会話をしながら楽しもうじゃないか。




 テラさんには、今日の話もしてしまった。

 儀式の話はするべきなのか迷ったので、朝のバルザックさんの襲撃と、その後のミノタウロス討伐を主軸に話すことになった。


「お主はもう少し休め。罰は当たらんぞ」

「ええ。だから昨日は、ゆっくりしてましたよ」


 そう言った俺を見る二人は、悲しそうな目をしていた。

 どうしてそんな顔をするのだろうか……分からないな。

 まぁその後、サンディは、完食した俺の皿を見て喜んでいたし、テラさんは、宿代の節約のために俺の屋敷に泊まることを承諾したら、喜んでいた。

 それで、良しとしよう。

 悲しい顔より、喜んだ顔の方が好きだ。笑顔なら、さらに良い。

 まぁ、当たり前の話か。

 そういえば、サンディよ。仕事に戻らなくていいのか?

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