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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二章

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82.バルザックの暇つぶし

読みやすいように全体修正 内容変更なし

 幸か不幸か、目的地である第三十階層まで、安全に辿り着いてしまった。

 バルザックさんの視線が恐ろしい。

 この第三十階層は、他の階層と少し様子が違う。

 ここは、巨大な部屋が一つあるだけの階層だ。そこを抜けると、もう次の階層への階段部屋がある。

 巨大な部屋の内部も憶えている。

 部屋の中央に一段高い段差がある以外は、高い天井まで伸びた巨大な柱が四本、四角形を描くように配置されている。後は石畳のただ広いだけの部屋だ。

 北と南に、ジャイアントが通りそうな両開きの扉が一つずつ。

 既に開け放たれているので、自力で開ける必要はない。

 出入り口は、その二つだけだ。


「じゃあいくぜ」

「はい。モンスターの確認ですね」


 俺とバルザックさんは、声を小さく、足を忍ばせ、扉へ近付く。

 エル達は階段近くで待機だ。

 万が一、逃げ易い位置にいて貰わねば困る。

 部屋の中のモンスターに気が付かれないように、そっと中を覗き込む。

 あぁ、残念な光景が目に入ってきた。

 きっとバルザックさんの顔は、喜びに満ちているだろう。

 牛、牛、牛……三体ならよかったのに、牛、牛、牛だ。

 全長が俺の二倍はありそうな、筋骨隆々の牛頭が何体もいた。立ち止まっている奴、座っている奴、様々だ。その全てが、柄の長い大斧を携えていた。

 ミノタウロスが何体いた? 一瞬の確認だけで、八体はいた。

 奥に四体、手前に四体。

 位置がばらけていたのが、唯一の幸いかもしれない。

 扉から離れ、エル達の元へ戻る。

 途中、バルザックさんの顔が、ニヤリと変化したのを見逃さなかった。


「何体いました? 八は確かですが」

「おう。俺も同意見だよ。もっと隠れてるといいよなぁ」


 全然、同意見じゃないです。

 三体なら楽が出来たのに。

 俺が離れた位置から二体倒して、バルザックさんが一体倒す。それで終わりのはずが……八体だと、ごちゃごちゃ集まる前に、手早く片付けないといけない。

 速攻を仕掛けるならどうする? 飛び込んで魔法で二体倒すのは良いとして、その後は? バルザックさんは突っ込むだろうし、俺も接近戦を仕掛けて敵意を引き付けないと、エル達の所にミノタウロスが向かうだろうし……どうする? 俺も突撃するか?


「俺が全部倒してもいいぜ」

「なんかそれで良い気がしてきますね……俺も戦いますけど」

「なら早いもん勝ちだな」


 バルザックさんに任せればいい気がしてきた。後はエル達と相談してからだ。

 エル達の元に戻って話をする。


「最低八体のミノタウロスがいました。エル様とギュストは、下がっていた方が良いと思います」

「お断りしますわ。わたくしも守りを敷けます。前で戦う者が下がれる場所を作るのも回復術士の役目ですわ」

「エル様が行くなら、俺も一緒だ。近寄るものは全て斬る」

「俺達が前で暴れまくればいいだけだぜ、マルク」


 俺の意見は却下された。

 ここは、エルとギュストと後ろの従者を信じるしか無いようだ。

 ならば、最低限作戦を立てよう。


「バルザックさん。何か作戦は?」

「突っ込んで俺が引き付ける。後は勝手にやりゃあいい」


『突っ込んで、斬る』『お主、よく今まで生きてこれたのぅ』


 つい二日前のテラさんとの会話を思い出してしまった。俺もバルザックさんと似たようなものだな。うん、人の事は言えないな……だが、今はそれでは駄目だ。


「わかった。バルザックさんは突っ込んで。俺は、とりあえず魔法ぶっ放して数を減らした後、前にでるから。エル様は後方で守りを。ギュストはエル様に近付くミノタウロスを頼む」

「わかりました。後ろはお任せあれ」

「貴様に言われんでも、エル様には塵一つ付けさせん」


 さらに後方へと目を向けると、小さく魔力を揺らめかせ、了承の返事をする従者の姿があった。見えないんだけどね。


「よっしゃ。行くか」

「その前に、≪火精霊(ひせいれい)加護(かご)≫」


 呪文を唱え、俺とバルザックさんに火への耐性を付与する。見た目は変わらないが、バルザックさんは、自分にも魔法が掛かったことに気が付いたようだ。


牛頭(うしあたま)は、炎を使わねぇぜ」

「俺の魔法に巻き込まれた時の為にね」

「おい、またあれをやんのかよ」

「違う魔法」


 炎帝竜の大剣の余波を思い出したのだろうか、バルザックさんは嫌そうな顔をしている。余波とは言え、あの時巻き込んでしまったのは、申し訳ないと思ているのだ。ほんの少しだけ。


「俺に当てんなよ」

「気を付けるよ」

「ならいいさ。今度こそ行くぜ」


 部屋に突入するために前に進むバルザックさん。

 エルに目を向けると、少し緊張しているようであった。


「大丈夫だよ、エル様。バルザックさんは強いから」


 エルに話し掛けながら、出来るだけ笑顔を作ってみる。

 上手くいっているかは、わからないが、目の前のエルも笑顔を向けてくれた。


「信じてますわ。マルクもバルザックも、そしてギュストも」


 そのままエルに(うなず)き、俺はバルザックさんの位置まで移動する。

 後ろで「エル様~」と変な声を出している変態は無視しておこう。

 バルザックさんに合図を送る。三、二、一、零――


「うぉぉらぁぁぁぁ」


 俺とバルザックさんは、同時に飛び出した。

 バルザックさんが背のクレイモアを器用に抜きながら、部屋に突撃していく。何も掛け声まで上げなくてもいいのに。

 俺は俺のやることを。

 部屋の中に入り、周囲を見渡す。隠れているモンスターは……いない。

 ならば、まずは数減らしだ。

 想像するのは爆発の魔法。走り回る炎。強大な赤い力。球状に生まれる牢獄。

 逃がさない、焼き尽くす。

 後は言葉を発し、想像を明確に、生み出す結果を強く、確実にする。


(われ)()()すは(ほのお)牢獄(ろうごく)――」


 バルザックさんが、一番近いミノタウロスへと辿り着いていた。


「――(なんじ)より(のが)れる(すべ)()い、――」


 彼は、自らに振るわれた大斧を大剣で弾き飛ばし、さらに一歩踏み込む。


「――()(もの)()きる(すべ)()い、――」


 そして彼が、掛け声と共に振った大剣は、銀の線を残像として残し、ミノタウロスの腰を横一直線に斬り分けた。

 ならば俺が狙うのは、奥の二体。


「――≪炎獄王(えんごくおう)(まゆ)≫」


 俺の中で膨れ上がった魔力が、呪文をもって魔法へと変わる。

 前に突き出した左手から、二つの魔力の球体が生み出された。

 赤く燃え盛る小さき球体は、奥で立ち上がる途中であったミノタウロス二体に向かって、高速で飛翔し、それぞれが、ミノタウロスの巨体に吸い込まれていく。

 その瞬間、爆発が生じた。

 ミノタウロスの内部から弾け、飛び出した幾本もの炎が、円を作るように動き、(うごめ)き回る。瞬時にミノタウロスを包み込む赤い球体へと変化していった。

 中は全て、魔力の炎だ。それが(うごめ)き続けている。

 熱された空気が風となって、肌に流れる。

 奥のあの二体は、もう終わりだ。

 炎の(まゆ)が解かれる。(うごめ)き回っていた炎の残滓(ざんし)が、拡散するように周囲へ飛び散り、次々と空中で消えていく。

 本来は、一つの炎の球体だけを生み出す魔法であるが、ミノタウロスならば、二つに分けても問題ない。前準備がもっと短く、そして最後に拡散しなければ、使い勝手の良い魔法なのに――っとそんなことを考えている余裕は無い。

 バルザックさんは、もう次の標的へと動いている。

 俺もミノタウロスの敵意を引くために、前に出ないと。

 最も近い一体に、左手から――「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫」――火球を飛ばしながら、前へと走る。魔力は最大限で。

 火球がミノタウロスの腹部に直撃し、爆発を起こす。が、その肉を焼き焦がすに止まる。怯むので効果はあるのだが、火精霊の球撃では、致命には届かない。

 複数体相手だと、ゆっくり何発も打ち込んでいる暇はない。

 オーガやオークなら、今の一撃で済むのだが。


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫、≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫」


 一番近いミノタウロスの間合いに入るまで、火球を放ちながら接近する。

 二度放たれた火球は、怯むミノタウロスを確実に削っている。

 一撃ごとにミノタウロスの前面が、黒く焦げ削れていく。

 接近しながら、敵の位置も確認する。

 一体は、バルザックさんが目を付けている。こいつはもうどうでもいい。

 二体は、まだ奥にいる。

 一体が、近くで存在が浮いている。誰へと向かうのか、分からないのは困る。


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫」


 接近を中断して、誰にも向かっていない一体に火球を飛ばす。

 火球はミノタウロスの顔面に命中し、爆発した。

 ミノタウロスの顔が焦げる、目が(ただ)れ、見るに()えない顔になってしまった。

 が、殺し合いの最中だ。直視しない訳にもいかない。

 三発の火球を受けた者と、顔に火球を受けた者。二体のミノタウロスがこちらに突撃してくる。

 せっかく部屋が広いのだ。有効に活用させてもらおう。

 中央付近で戦うバルザックさん、そして入口近くで戦闘を見ている三名。その両方から離れるように移動する。 

 ミノタウロスは突撃してくるが、接近戦に付き合うつもりはない。

 相手の得物は、長いのだ。

 仮に武器で打ち合うとしても、バルザックさんのような膂力(りょりょく)の無い俺では、一方的に打ち負けるだけだ。

 視界の端で、バルザックさんとミノタウロスが得物をぶつけ合っていた。

 あの人の力は、正直、化物じみている。

 バルザックさんは、二体目のミノタウロスを力押しで斬り伏せてしまった。

 俺も早く倒さないと、まだ数はいるのだ。

 とはいえ、落ち着こう。焦ったら失敗をする。

 他のミノタウロスに近付かないように、逃げ回る。そして逃げながら――


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫、もう一つ≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫」


 魔力は込められるだけ無理矢理込めて、一つずつ火球を飛ばす。

 狙うのは、既に三発撃ち込んでいる方だ。

 体が焼け焦げているミノタウロスに火球が衝突し、爆発する。一つ、二つと。

 その間も、もう一体のミノタウロスが追いかけてくる。

 流石に足だけでは、距離を放しきれない。

 ミノタウロスが両腕を大きく振り上げ、その大斧を真っ直ぐ振り下ろした。

 俺の頭を狙っての一撃だ。

 が、その位置には、もう俺はいない。

 顔を焼かれて視野が狂っていたのか、ただ単純に頭に血が上っていたのかは知らないが、そんな大振りに当たるわけがない。

 既に、大斧を振り上げたミノタウロスに近付くよう、斜め前へと足を進めている。

 俺の後方で、大斧が地面を割った音がした。弾けた石屑がミノタウロスの体に当たっている。

 俺は、一足でミノタウロスに肉薄する。

 接近したのなら、後は簡単だ。


「≪水精霊(みずせいれい)斬撃(ざんげき)≫」


 右手から生み出した細い白刃で、ミノタウロスの胴を狙う。

 大斧を振り下ろしたままの両腕を通過し、そのまま胴体を白い線が通り抜ける。

 胴の両断を確信した俺は、その場から離れた。

 ミノタウロスの両腕が、地面に落ちると同時に、石畳を砕いた大斧も倒れた。石畳を鳴らす騒音が広がるが、反響はなかった。

 代わりにバルザックさんの怒声が飛んでくる。


「俺の分まで取るんじゃねぇぞ! マルク!」


 叫びに似た怒声に目を向けると、バルザックさんが、ミノタウロスの角を片手で掴んでいた。ミノタウロスは苦しそうにもがいている。

 たぶん、接近したバルザックさんを、ミノタウロスが頭で迎撃したのだろう。そして、そのまま角を掴まれて頭を動かせなくなっていると……何だその状況?

 バルザックさんって人間なのだろうか?

 どんな力をしているのか、考えたくもない。

 バルザックさんを眺めている場合ではなかった。

 火球で攻撃しているミノタウロスは、変わらずこちらへ向かってきている。

 動きはもう鈍い。

 もう一体のミノタウロスは、バルザックさんへ向かっている。

 あれに手を出すと、今度こそ殺されそうだ。

 あれ? 早い者勝ちとか言ってたような? まぁ、いいか。

 エル達の方へ行かない限りは、放っておこう……。

 ならば、あと俺がやるべき事は――


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫、≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫、≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫」


 弱ったミノタウロスに、火球を当て続けるだけだ。

 ミノタウロスは爆発で怯み、俺に近付くことすら出来ない。

 流石のミノタウロスの体力でも、全八発もの全力の火球には、耐えられなかったようだ。膝を石畳につけたミノタウロスは、断末魔を上げ、塵になって消えていった。その直前に見えたミノタウロスの体は、悲惨な状態になっていた。

 人の顔程の大きさの魔石に変わるまで確認したのち、周囲を見渡す。

 バルザックさんが、最後の一体と戦っている。

 角を掴んで拘束していた三体目は、もう倒したのだろう。

 他に部屋の中には……目視でも、耳でも、魔力でもモンスターの存在は確認できなかった。後でもう一度、調べておこう。

 

「うぉらぁあああ」


 横に振られた大斧を避けたバルザックさんが、咆哮を上げ、ミノタウロスへ駆けた。その両手に持った大剣で、すれ違うように片足を切断する。

 ミノタウロスが上体を崩す前に、背まで抜けていたバルザックさんが、くるりと身を(ひるがえ)し、ミノタウロスの背へ大剣を滑り込ませた。

 低く体に響く断末魔を上げ、ミノタウロスは消滅していく。

 バルザックさんは、消えたミノタウロスの代わりに出現した魔石を、落ちる前に片手で掴み取った。


「おう。こっちも終わったぜ」


 少し離れた、ここからでも分かる。

 バルザックさんの、とびきりの笑顔が。

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